2016年08月10日

企業物価指数(2016年7月)~下落幅縮小も、下落基調は変わらず

岡 圭佑

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1.国内企業物価は前年比▲3.9%と下落幅を縮小

 8月10日に日本銀行から発表された企業物価指数によると、2016年7月の国内企業物価は前年比▲3.9%(6月:同▲4.2%)と下落率は前月から0.3ポイント縮小し、事前の市場予想(QUICK集計:前年比▲4.0%)を上回った。前月比では横ばい(6月:同▲0.1%)となった。なお、夏季電力料金引き上げの影響を除くと、前月比▲0.3%と2ヵ月連続でマイナスとなった。
国内企業物価指数の要因分解 国内企業物価注1の前年比寄与度をみると、為替・海外市況連動型(6月:前年比▲1.8%→7月:同▲1.6%)、電力・都市ガス・水道(6月:前年比▲1.0%→7月:同▲0.8%)、鉄鋼・建材関連(6月:前年比▲0.5%→7月:同▲0.4%)のマイナス寄与が前月から縮小したほか、その他(6月:前年比0.2%→7月:0.1%)のプラス寄与が縮小したため、国内企業物価は前月から下げ幅を縮小した。

為替・海外市況連動型(6月:前年比▲19.9%→7月:同▲17.8%)は、依然大幅な下落を続けているものの、原油価格や非鉄金属の持ち直しを反映して下落幅を縮小している。電力・都市ガス・水道(6月:前年比▲14.5%→7月:同▲12.0%)は、既往の原油安を反映した電力・都市ガスの燃料調整などから大幅な下落を続けているが、足もとの原油価格の持ち直しを主因に下げ幅は縮小傾向にある。鉄鋼・建材関連(6月:前年比▲3.7%→7月:同▲3.3%)は、鉄鋼やスクラップ類の持ち直しなどから、下げ幅を幾分縮小している。その他(6月:前年比0.7%→7月:同0.2%)は、農林水産物の鈍化を反映して上昇幅を幾分縮小している。
 
注1  1.機械類:はん用機器、生産用機器、業務用機器、電子部品・デバイス、電気機器、情報通信機器、輸送用機器
   2.鉄鋼・建材関連:鉄鋼、金属製品、窯業・土石製品、製材・木製品、スクラップ類
   3.素材(その他):化学製品、プラスチック製品、繊維製品、パルプ・紙・同製品
   4.為替・海外市況連動型:石油・石炭製品、非鉄金属 
   5.その他:食料品・飲料・たばこ・飼料、その他工業製品、農林水産物、鉱産物

2.輸入物価は下落幅縮小も、円高による下押しが続く

7月の輸入物価は、国際商品市況の持ち直しを反映して円ベース(6月:前年比▲23.3%→7月:同▲21.7%)、契約通貨ベース(6月:前年比▲13.0%→7月:同▲10.9%)ともに前月から下落幅を縮小した。もっとも、円高の影響で円ベースでの下落幅が契約ベースを大きく上回る状況が続いている。

輸入物価(円ベース)注2の前年比寄与度をみると、機械器具(6月:前年比▲4.0%→7月:同▲4.2%)、その他(6月:前年比▲2.1%→7月:同▲2.3%)のマイナス寄与が前月から拡大する一方で、石油・石炭・液化天然ガス(6月:前年比▲11.6%→7月:同▲10.6%)、金属・同製品(6月:前年比▲3.0%→7月:同▲2.0%)のマイナス寄与が縮小したため、輸入物価(円ベース)は前月から下落幅を縮小した。

足もとの原油価格(ドバイ、7月月中平均)は前年比▲24%と昨年8月(同▲53%)をピークに下落幅が緩やかに縮小しているものの、石油・石炭・液化天然ガス(円ベース)は2015年9月以降、前年比▲40%前後の大幅なマイナスを続けている。これは、既往の原油安の影響が遅れて液化天然ガスに波及していることに加え、足もとで円高進行による下押し圧力が拡大しているためと考えられる。もっとも、原油価格の持ち直しを反映して石油製品のマイナス寄与は縮小傾向にある。先行きは原油価格の上昇が石油製品、液化天然ガスの下落を抑制することから、石油・石炭・天然ガスの下落幅は引き続き緩やかに縮小することが見込まれる。

金属・同製品は、円高の進行を主因に円ベース(6月:前年比▲29.1%→7月:同▲20.9%)での下落幅は大幅なマイナスを続けているものの、鉄鉱石や非鉄金属鉱の持ち直しなどから、契約通貨ベース(6月:前年比▲18.1%→6月:同▲8.3%)での縮小幅は円ベースを上回っている。
輸入物価指数変化率の要因分解/輸入物価(石油・石炭・天然ガス)の要因分解
輸入物価指数の変動要因 輸入物価(円ベース)の変化率を為替要因と契約通貨ベース要因に分解してみると、契約通貨ベース要因による物価下落圧力は弱まっているものの、為替要因による物価下落圧力が強まっているため、輸入物価は大幅な下落を続けている。7月の為替レート(月中平均)は、1ドル=104.0円(6月:105.4円)と前年に比べ15.7%(5月:14.8%)の円高水準となった。しかし、7月末の日銀金融政策決定会合の結果を受けて、8月の為替レート(月中平均)は1ドル=101.7円(前年比17.5%の円高水準)と一段と円高が進行している。原油価格など国際商品市況の持ち直しによって輸入物価の下落圧力は緩和されているものの、為替レートは前年比で依然大幅な円高水準にあるため、輸入物価は当面大幅な下落を続けることが予想される。
 
 
注2 1.機械器具:はん用・生産用・業務用機器、電気・電子機器、輸送用機器
   2.その他:繊維品、木材・同製品、その他産品・製品

3.最終財への下押し圧力が続く

7月の需要段階別指数(国内品+輸入品)をみると、素原材料が前年比▲25.5%(6 月:同▲29.1%)、中間材が前年比▲7.8%(6月:同▲8.5%)、最終財が前年比▲3.7%(6月:同▲3.7%)となった。既往の原油安や円高進行に伴う輸入物価の下落は、素原材料、中間財を経由して最終財へ波及しており、国内企業物価は下落圧力を強めている。原油価格(ドバイ)は1月の1バレル=20ドル台半ばから、足もとでは40ドル台前半まで持ち直しているが、既往の原油安の影響が遅れて反映されることに加え、急激な円高の影響が顕在化するため、最終財は下落基調を強める可能性が高い。このため、最終財のうち消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)と関連性の高い消費財は、先行きもマイナス圏の推移が続くとみている。
国内需要財の要因分解/最終財と消費者物価

4.先行きも円高が下押し要因に

輸入物価と国内企業物価、コアCPIの時差相関 上述のとおり、原油安や円高の影響は輸入物価を経由して国内企業物価に大きく影響している。足もとでは原油価格が持ち直しているものの、既往の原油安や円高進行による下押し圧力が続く公算が大きい。

輸入物価の変動は品目毎に異なるペースで国内企業物価に波及し、均してみると4ヵ月程度で連動性が最も高くなる。年初の原油安の影響が秋頃にかけガス代や電気代に波及するほか、円高進行による輸入物価の下落圧力が強まることから、前年比でみた国内企業物価は当面大幅なマイナスを続ける可能性が高い。6月のコアCPIは前年比▲0.5%となったが、今後川上から川下への価格転嫁が更に進むことから、年末頃までマイナス圏の推移が続くことが予想される。
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(2016年08月10日「経済・金融フラッシュ」)

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