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災害時のトリアージの現状-救急医療の現状と課題 (後編)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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二次トリアージは、重症度の判定に重点を置く。日本では、PAT法19が用いられる。1人2分程度を目処に行われる。所見は、トリアージタッグに書き込まれる。一次トリアージとは異なり、途中で赤色と判定されても、最後まで評価を行う。
PAT法は、第1段階として、生理学的評価を行う。これは、初期評価であり、意識、呼吸、脈拍、血圧、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)20、その他(ショック症状、低体温)をもとに評価する。第2段階では、解剖学的評価を行う。全身観察により、開放性気胸、骨盤骨折、四肢麻痺など、13の損傷・病態の有無を評価する。第1段階、第2段階のいずれかに該当すれば、赤色と判定する。なお、心肺停止の傷病者に対しては、黒色と判定する。
第4段階では、災害時要援護者に該当するかどうかを考慮する。幼小児、障がいを持った人、高齢者、慢性基礎疾患のある傷病者、旅行者(外国人)、妊婦が、災害時要援護者に該当する。これらに該当する場合は、1段階トリアージの区分を上げることを検討する。
DMATは、一次トリアージをSTART法、二次トリアージをPAT法で行う。トリアージの実施場所は、災害現場、応急救護所、搬送待機場所、支援病院、SCUなど多岐に渡る。START法は、チーム全員が習得することが求められる。一方、PAT法は、医師・看護師が実施主体となる。これは、PAT法には、外傷標準化教育コース22の内容が多く含まれており、外傷診療の知識と技術が求められるためである。
なお、一次トリアージと、二次トリアージには、一次を実施した後に、必ず二次を行わなければならない、といった制約はない。医療資源と、傷病者の数に応じて、臨機応変にトリアージの種類を変えていく必要がある。例えば、傷病者の数が、医療資源よりも圧倒的に多ければ、現場、救護所、搬送、病院前で、何回も一次トリアージを行う必要が生じる。逆に、傷病者の数が、医療資源と同程度であれば、現場から、二次トリアージを行うことができる。
19 PATは、Physiological and Anatomical Triageの頭文字をとったもの。
20 血液中にどの程度の酸素が含まれているかを示す指標。S はSaturation(飽和)、P はPulse(脈)、O2は酸素を表す。血液中には酸素を運ぶヘモグロビンがある。SpO2 は、動脈血液中のヘモグロビンのうち、何パーセントが酸素を運んでいるかを示す。SpO2の正常値は、96 %以上とされる。、95 %未満の場合は呼吸不全の疑いがあり、90 %未満の場合は在宅酸素療法の適用となる。SpO2 は、パルスオキシメータという医療機器を用いて測定される。
21 長時間に渡り、四肢や臀部が圧迫を受け、挫滅・壊死した場合、傷病者が救出されて圧迫から開放されると、壊死した筋肉からカリウム、乳酸、ミオグロビン等の毒性物質が一気に全身に運ばれ、臓器に致命的な損害を及ぼすことがある。例えば、高カリウム血症によって、突然、心停止に陥ることもある。地震等の自然災害の際、倒壊家屋の瓦礫や、倒れた家具の下敷きになった傷病者が圧挫症候群を起こすことが知られている。日本では、1995年の阪神・淡路大震災以降に、広く知られるようになった。挫滅症候群、クラッシュシンドロームとも呼ばれる。
22 代表的なものとして、Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care(JPTECTM)、Japan Advanced Trauma Evaluation and Care(JATECTM)、Japan Nursing Trauma Evaluation and Care(JNTECTM)などが、挙げられる。
7――トリアージの課題
1|黒色タッグの判断は行いにくい
(1) 医師・歯科医師以外による死亡判断の適法性
黒色タッグを付けることは、傷病者が、死亡、もしくは生命兆候がなく救命の見込みがない、と判断することを意味する。このうち、死亡の判断に関しては、法律上、医師もしくは歯科医師のみに、死亡診断書(もしくは死体検案書)の作成・交付が義務付けられている23。死亡診断が許されていない看護師や救急救命士等が、トリアージの結果、傷病者を死亡と判断して、黒色タッグを付けることには、疑問の余地が残ることとなる。
(2) 救命の見込みがないとの判断の困難さ
そもそも、傷病者に生命兆候がなく救命の見込みがない、と判断して、黒色タッグをつけることは、難しい。当災害における医療提供能力・体制と、傷病者全体の病態を踏まえた上で、その傷病者を救命したり、搬送したりすることが、全体の不利益につながると判断される場合に、黒色タッグを付けざるを得ない場合もある。しかし、現実に、そのような判断を下すことは容易ではない。
例えば、複数の傷病者の中に、気道を確保しても呼吸が再開しない傷病者がいたとする。この場合、START法に従えば、黒色タッグと判断することになる。しかし、心肺蘇生法を十分に施せば、もしかしたら、奇跡的に蘇生するかもしれない。けれども、この傷病者に心肺蘇生法を行えば、その分、他の傷病者に提供する医療が失われ、その結果、避けられた災害死につながってしまうかもしれない…。
このように、医療資源をその傷病者に使うか、それとも他の傷病者に使うかは、相対的な判断を要する。即ち、同じ病態の傷病者であっても、他の傷病者の出現状況によっては、黒色タッグとなったり、赤色タッグとなったりすることがある。このため、その判断は、大変難しいものとなる。そして、トリアージ実施者の心理的な負担は、その分だけ、大きなものとなる。
2|トリアージタッグに判断理由等の記録を、十分に書き残すことは困難
トリアージ実施者は、傷病者を短時間で判断して、トリアージタッグへの記載や処置を行わなくてはならない。そのため、判断理由が十分に書き残されない恐れがある。また、トリアージタッグは、記載内容の訂正が起こることを前提としていない。このため、何回もトリアージを行う中で、判断が変わった場合、その経緯の記録が残らない恐れがある。更に、傷病者が、どの傷病者集積場所や救護所を経て、医療施設に搬送されてきたか(「トラッキング」と呼ばれる)が把握できないこともある。その他、トリアージ実施機関ごとに番号を付すため、実施機関が異なると、番号が重複してしまう、といった課題もある。
3|トリアージ区分は4つしかないため、同じ判定の傷病者でも優先度が大きく異なることがある
トリアージでは、緊急度・重症度に応じて、傷病者を4つに区分する。これは簡便ではあるが、同じ色に判定された傷病者の中で、治療や搬送の優先度が大きく異なるケースを生むことにつながりかねない。例えば、同じ赤色タッグでも、緊急度・重症度が高く、一刻も早く治療や、搬送が必要な傷病者と、黄色タッグよりは重症度が高いものの、全ての傷病者の中で最優先の治療・搬送が必要とまでは言えない傷病者が、混在することがある。
4|トリアージは軍隊を起源としていて、一般市民には、なじまないとの見方もある
そもそも、トリアージは戦時における軍人・軍属を対象とした軍隊のシステムであり、一般市民を対象とする災害医療には、なじまないという見方もある。 例えば、軍隊であれば、軍規などで、トリアージの過誤に対する補償ルール等が、事前に明確化されている。しかし、災害時の一般市民の傷病者に対するトリアージでは、このような過誤に対する責任問題は、事前に明確化されていない。
23 死亡診断書(死体検案書)は、医師法及び歯科医師法により、医師及び歯科医師に作成・交付が義務付けられている(死体検案書を交付できるのは医師のみ)。死亡者が傷病で診療継続中であった患者で、かつ、死亡の原因が診療に係る傷病と関連したものである場合に死亡診断書が、それ以外の場合に死体検案書が交付される。なお、両者の様式は同一となっている。
(2016年08月03日「基礎研レポート」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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