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間接金融が「悪」にならない為に-自己正当化本能にご用心
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1年ほど前から、フィリピンにある漁村が一部のマニアの注目を集めている。最寄りの空港から車で、しかも身の危険を感じるほどのスピードで3時間半以上も掛かる辺鄙な村である。それにもかかわらず、大勢の人々が世界中から集まってくる。発端は、近海で獲ったオキアミを用い、世界最大の魚類であるジンベエザメ(甚兵衛鮫)の餌付けに成功したことだ。世界中のダイバーが、野生のジンベエザメが群れる姿見たさに集まってくる。
ご存知の通り、こうした餌付けに対する批判は少なくない。環境学者ではないので批判の本質は分かっていないが、個体の食物獲得能力とは無関係に餌を与えることで、生態系が崩壊するなどの悪影響があるからであろう。しかし、生態系ピラミッドの最下層を主食とするジンベエザメに、食物獲得能力の差などほとんどないのではないか。だとすれば、生態系に悪影響を与えないとも言える。それともこのように考えるのは、上述のアクティビティに興じたことに対する自己正当化本能のなせる業なのだろうか。
さて、日本における資金調達の中心は間接金融である。さながら餌付けのように、金融機関が分別なく資金を融通すればその多くが不良債権となる。1990年代後半に不良債権が過大となり実質債務超過に陥った銀行が破綻したことや、後に破綻を免れた銀行の大半が国から多額の公的資金注入を受けたことを顧みれば、不適切な資金融通が社会に悪影響をもたらすことは明らかだろう。ジンベエザメの例では食物獲得能力の差は無いので悪影響はないとの見解もあり得たが、事業の収益性や返済能力には歴然とした差がある。つまり、間接金融の良し悪しは、金融機関における審査能力やリスク管理能力の高低に帰着する。
近年、リーマン・ショックや欧州の銀行に対する不安など、金融をめぐる取引懸念が後を絶たない。その一方で、審査やリスク管理の理論や手法もめまぐるしく進展している。理論や手法の進展は破綻を回避すべく金融機関が積極的に取り組んだ結果だろうか。それとも、金融当局の規制の手を上手く 掻い潜りたいといった動機で取り組んだ結果だろうか。5~6年前に導入された規制は金融機関の自主性発揮を重視しており、理論や手法は大きく進展した。しかし不幸にも先の金融危機が起きた。その反省を踏まえ新たな規制や手法の検討が進む中、リスク管理能力が評価され牽引役を担って来た米大手金融機関が多額の損失を出した。併せて、金融危機の反省も踏まえて改善されたはずの最新手法の欠陥を認めた。このような経緯を見ていると、破綻を回避すべく取り組んでいるが多分に改善の余地があるだけなのか、そもそも動機が不健全なのか分からなくなる。
審査やリスク管理手法の改良を検討する際、現在の手法との整合性を考慮し現手法を踏襲することが多々ある。過去の英知を活用するという意味で重要なプロセスであることに疑いの余地はない。しかし、人間に自己正当化本能が宿っているとすれば、このプロセスには一つ大きな落とし穴が潜んでいるように感じる。それは自己の過去の投資行動を正当化するように、「過去の英知を活用すること」を笠に着て、改良の方向性を歪めてしまう可能性があることだ。特に、規制の手を上手く掻い潜ることが目的である場合、自己正当化本能の落とし穴に嵌りやすいのではないだろうか。
生態系ならぬ経済システムへ悪影響を与えないためにも、審査やリスク管理手法の改良を検討する際に、自己正当化本能の落とし穴に嵌っていないか、より望ましい方向へ改善するという本来の目的を見失っていないか、冷静に振り返ることが重要なのではないだろうか。
(2012年12月07日「研究員の眼」)
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