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- ベンチャーキャピタルの「ビジネスモデル危機」と将来への期待
コラム
2009年08月18日
日本のベンチャーキャピタルは現在ビジネスモデルの危機に見舞われている。ベンチャーキャピタルは、これまでベンチャー企業の資金ニーズに応えるリスクマネー供給者として、同時に、経営者と共に汗を流す支援者として機能してきた。ベンチャー企業に投資されたリスクマネーは、画期的な新製品を世に送り出したり、新技術の開発を加速させたり、旧来は存在しなかったビジネスを新たに創出するといったことを通じ、日本のイノベーションを推進する役割を果たしてきた。
日本のベンチャーキャピタルのビジネスモデルの特徴は、ファンドを通じたベンチャー投資(出資による未公開株式の取得が通例)の資金回収を株式公開後の売却によるキャピタルゲインに大きく依存するところにある。ベンチャー投資は、ハイリスクである。現場での経験則では、10社に投資して3社から意味ある回収ができれば上出来の部類に入る。残り7社は、「鳴かず飛ばず」、悪くすれば倒産であり、資金回収は多くは期待できない。
投資ウエイト捨象等による過度の単純化の恐れはあるが、ベンチャー投資の採算は、株式公開できた3社からのキャピタルゲインで、回収不能となった残り7社への投資分を補えないと黒字化しない。ここでは、成功した3社には、大きなキャピタルゲインにより投資金額の何倍もの金額が回収されることが期待されている。
現在直面している危機は、キャピタルゲインの急速な縮小傾向に原因がある。この背景には、株式市場、とりわけ、新興市場の不振がある。例えば、マザーズ指数は、2006年初旬の高値以降、2009年初旬にかけて下げ続け、約十分の一の水準となった。
この株価下落過程では企業の業績の変動だけでなく、問題企業の不祥事に起因する投資家の離反の要素が大きい。また、企業の不祥事は上場審査基準の運用厳格化にも繋がり、新規上場を目指す企業にとってのハードルが上がる。当然、体制整備のコスト負担増もあって株式を新規公開できる確率も経営者の意欲も低下する。
足許ではベンチャー企業が厳しい条件を達成して新規公開に漕ぎ着けたとしても、市場では低い株価しかつかない。企業にとっては公募増資での調達資金が減り、保有株式を売却するベンチャーキャピタルにとっては運用するファンドが獲得できるキャピタルゲインが縮小する。ファンドの運用成績が悪化すると、ベンチャーキャピタルが受け取る成功報酬が激減するだけでなく、投資家が出資を躊躇することで新ファンド組成も難しくなる。ファンドが組成できないと、そこから管理報酬を得ているベンチャーキャピタルはこの面からも収益悪化に直面する。
このような負の連鎖の中で、日本のベンチャーキャピタルは難しい舵取りを強いられている。本来のベンチャー投資だけでなく、ある程度出来上がった企業にも投資先を分散してリスクを軽減する。転売を前提としたバイアウト投資も行って、資金回収機会の分散を行う。あるいは、海外のベンチャー投資の機会を探るといった努力が繰り広げられている。足許、全体としては、わが国のベンチャー投資は減少しており、日本のイノベーションを推進する力が落ちていることが懸念される。
今後、日本のイノベーションが、製品・技術・ビジネスモデルといった経済的なリターンの最大化に貢献する領域に止まらず、社会貢献とビジネスモデルの融合、地域振興やそこでのソーシャルキャピタル(社会関係資本)の活用といった社会的なリターンの領域でも創出されることを筆者は期待する。ベンチャーキャピタルには、その推進者として機能することを期待しているので、まずは自分自身のビジネスモデルにイノベーションを創出し、新たな期待に応える姿を描いて欲しいところだ。
日本のベンチャーキャピタルのビジネスモデルの特徴は、ファンドを通じたベンチャー投資(出資による未公開株式の取得が通例)の資金回収を株式公開後の売却によるキャピタルゲインに大きく依存するところにある。ベンチャー投資は、ハイリスクである。現場での経験則では、10社に投資して3社から意味ある回収ができれば上出来の部類に入る。残り7社は、「鳴かず飛ばず」、悪くすれば倒産であり、資金回収は多くは期待できない。
投資ウエイト捨象等による過度の単純化の恐れはあるが、ベンチャー投資の採算は、株式公開できた3社からのキャピタルゲインで、回収不能となった残り7社への投資分を補えないと黒字化しない。ここでは、成功した3社には、大きなキャピタルゲインにより投資金額の何倍もの金額が回収されることが期待されている。
現在直面している危機は、キャピタルゲインの急速な縮小傾向に原因がある。この背景には、株式市場、とりわけ、新興市場の不振がある。例えば、マザーズ指数は、2006年初旬の高値以降、2009年初旬にかけて下げ続け、約十分の一の水準となった。
この株価下落過程では企業の業績の変動だけでなく、問題企業の不祥事に起因する投資家の離反の要素が大きい。また、企業の不祥事は上場審査基準の運用厳格化にも繋がり、新規上場を目指す企業にとってのハードルが上がる。当然、体制整備のコスト負担増もあって株式を新規公開できる確率も経営者の意欲も低下する。
足許ではベンチャー企業が厳しい条件を達成して新規公開に漕ぎ着けたとしても、市場では低い株価しかつかない。企業にとっては公募増資での調達資金が減り、保有株式を売却するベンチャーキャピタルにとっては運用するファンドが獲得できるキャピタルゲインが縮小する。ファンドの運用成績が悪化すると、ベンチャーキャピタルが受け取る成功報酬が激減するだけでなく、投資家が出資を躊躇することで新ファンド組成も難しくなる。ファンドが組成できないと、そこから管理報酬を得ているベンチャーキャピタルはこの面からも収益悪化に直面する。
このような負の連鎖の中で、日本のベンチャーキャピタルは難しい舵取りを強いられている。本来のベンチャー投資だけでなく、ある程度出来上がった企業にも投資先を分散してリスクを軽減する。転売を前提としたバイアウト投資も行って、資金回収機会の分散を行う。あるいは、海外のベンチャー投資の機会を探るといった努力が繰り広げられている。足許、全体としては、わが国のベンチャー投資は減少しており、日本のイノベーションを推進する力が落ちていることが懸念される。
今後、日本のイノベーションが、製品・技術・ビジネスモデルといった経済的なリターンの最大化に貢献する領域に止まらず、社会貢献とビジネスモデルの融合、地域振興やそこでのソーシャルキャピタル(社会関係資本)の活用といった社会的なリターンの領域でも創出されることを筆者は期待する。ベンチャーキャピタルには、その推進者として機能することを期待しているので、まずは自分自身のビジネスモデルにイノベーションを創出し、新たな期待に応える姿を描いて欲しいところだ。
(2009年08月18日「研究員の眼」)
常務取締役理事
神座 保彦 (じんざ やすひこ)
研究・専門分野
ソーシャルベンチャー、ソーシャルアントレプレナー
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