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コラム
2006年08月08日
○ ゼロ金利解除により動き始める現金 8月2日に7月の日銀券発行残高(マネタリーベース統計)が公表された。前年比0.7%と、これで4ヶ月連続、1%に満たない伸びとなっている。(図表1)。今後、預金金利が上昇することで、20兆円を越えると言われている「タンス預金」が、再び預金に戻り日銀券発行残高の伸び率がマイナスになる可能性が高いだろう。そうなると、日銀券残高を上限として実施されている毎月1.2兆円の国債買入の見直しが気になるところだ。
日銀の国債買入は量的金融緩和スタート時点では月額4000億円だったが、その後増額され2002年10月以降、現在の月額1.2兆円となった。債券市場にとって国債買入は、ある意味金利が上がらないという安心材料になっている。減額となれば、98年末に、当時の大蔵省資金運用部が国債買い切りの停止を発表すると長期金利が急騰した、いわゆる「運用部ショック」の悪夢も想起され、市場の動揺は無視できないものとなろう。 7月14日のゼロ金利解除において、日銀が月額1.2兆円の買入国債維持をわざわざ表明したのは、こうした市場の思惑に対して少しでも安心材料を提供しようという配慮があったからに他ならない。 7月末時点で日銀が保有する長期国債の残高は、55.9兆円。一方、日銀券発行残高は74.1兆円である。両者の乖離は18.2兆円もある。また日銀の保有国債の償還もこれからかなりあり、日銀券発行減少が5-10%というがなりのピッチとなっても両者の残高が一致するまでにはまだ2年程度時間がかかりそうである(図表2)。
しかし、来年の後半にでも米国の利下げストップ観測が出始めれば(筆者は2007年の夏以降と見ているが)、日本では2009年と予想されている消費税の引き上げ前に、日銀が毎四半期に1回程度のピッチで短期金利を引き上げるのではとの見方が強まる可能性が高い。そうなると、国債買入れ減額の先読みは一挙に高まることは必至だ。 ○ 福井総裁は国債買入に対しては消極的だった 一方で、市場には中期的に見ても長期金利が急上昇しないだろうという、別の安心感がある。そこには、現在の財政状況等からすれば、日銀の国債買入見直しは最小限にとどめる方向性になり、債券市場にはやさしい策が打ち出されるはずとの読みがある。 ただ、ここにおいても今後、福井総裁の本音と市場の温度差がどれくらい離れているのか見極める必要があると筆者は考えている。 福井総裁は、速水前総裁下では日銀としてためらっていた非伝統的手段に踏み込むなど、量的緩和を強力に推し進めた。しかし、一方で、速水前総裁下で増額してきた国債買入については否定的であった。 図表3は、日銀の国債買切りオペの増額の推移を表している。量的緩和政策の導入前には毎月4000億円だったが、その後、速水総裁下で当座預金残高の引き上げに伴って増額され、2003年10月には月1兆2000億円となった。 しかしその後福井総裁になり、当座預金残高は2倍のピッチで引き上げられたが、国債の買入れの増額は全く行われていない。
例えば、就任前に行われた国会答弁(2003年3月18日)においても、「いま日銀の国債保有残高は非常に大きくなってきている。(中略)とりあえずは、銀行券の発行残高の範囲内という目に見える限度を置いている。現実にこれによって、日銀が金融政策実行上の規律を守るという意思表示、ひいては日銀がいつの間にか無限に国債の引き受け機関に化して、政府の財政政策や国債管理政策が規律を失うことへの歯止めにもなっているかもしれない」との発言を行っている。答弁全体の中では買入れ資産を今後幅広く購入することを含め、緩和策全般に対してかなり前向きな発言を強く行う中で、国債買入れに対しては言葉を選んでいるものの、消極的な姿勢を示していた。 福井総裁の任期は2008年3月。 速水前総裁のように本音を全面的に打ち出してくることはなさそうだが、任期満了を前にして、本音が少し前に出てくる可能性はある。 時間的な猶予はあるが、現在市場が抱く「市場に優しい策」を打ち出し続けるとの見方となるのかどうか、福井総裁を含めた日銀のスタンスにかかる発言が、今後とも注目されるところだ。 |
(2006年08月08日「エコノミストの眼」)

03-3512-1837
経歴
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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