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コラム
2006年06月26日
1.会社は誰のものか? 「会社は株主のものだ」と主張する人達は、株式市場に上場している以上、会社は株主を選ぶことはできないということは当たり前のことだと言う。このため、買収などによって会社の経営が影響を受けることを懸念して株式市場から撤退する企業も出てきた。しかし、経営陣やその背後にいる会社の従業員は、本当に株主を選ぶことはできないのだろうか? 株式の魅力を高めるために配当を増やすべきだという話をしたら、いまどき配当を目的に株式投資をする人などいませんよという声が返ってきた。確かに新聞やテレビでは1日の間に売買を繰り返す個人のデイトレーダーが大きく取り上げられる。株式投資の目的は、株を安く買って高く売るというキャピタル・ゲインを狙ったものだというのは、当たり前のことになっている。こうした短期の株価上昇を狙った投資家である株主が、従業員よりも会社の長期的な運命に関心を持っているとは言いがたいだろう。会社は株主だけのものではないという悲鳴が聞こえてくるのも理解できる。 2.会社がこんな株主を選んだ しかし、これまでの企業の行動が会社の株を保有している人々をそういうタイプの投資家ばかりにしてしまった、という側面も否定できないのではないか?日本企業の配当性向は米国企業などと比べてもはるかに低く、配当利回りも低い。値上がり益を考慮しなければ、今後金利が上昇していくと国債などの金利と比較して、長期的な投資の対象として魅力が低下する恐れが大きい。しかし、値上がり益を狙って株式投資をするのでは、どんなに素晴らしい会社だと思っていても、株式を保有し続けることでは利益が出ず、どこかで株を売らなくてはならない。配当性向の低さが、長期に株式を保有する投資家を市場から追放してしまったのではないか。つまりは日本企業の行動が、自らの株主を経営者や従業員の長期的な利害と対立するような株主ばかりにしてしまったとも言えるだろう。もちろんその背後には、そうした企業の行動を促進してしまうような税などの社会的な仕組みが存在する。 「会社は株主のものであり、経営者は株主のために株価を高くすることが使命である」という意見もあるが、株主重視の経営は株価重視の経営とは必ずしも同じではない。株主と言っても実は多様である。株式投資の考え方も一様ではなく、株主間の利害すらも一致するとは限らない。逆に、株主と従業員や経営陣との利害も常に対立するわけではない。会社が利益を上げ、発展していけば利益を得るという意味では、株主も従業員も経営陣も利害は一致しているのである。問題は、短期的には株価の上昇をもたらすが長期的には会社の発展や利益にマイナスに働くことがあることだ。 3.長期保有にもっとメリットを 短期の株の値上がり益だけを狙う投資家が、会社の長期的な発展や安定にとって好ましくないのであれば、経営者は投資家が長期に株を保有することでもっと利益を得られるようにすれば良い。これは短期的な利益を狙う株主の割合を低下させ、長期に株を保有し続けてくれる株主の割合を増加させる。会社は誰が株主になるかは選べないが、どのような投資家が株主になるかは選択の余地がある。 敵対的買収対策に様々な対応が考えられているようだが、株主の利益を損なうのではないかと懸念されるものもあるようだ。敵対的買収対策においては、会社の長期的な発展を望む株主がメリットを得られるようにするということが、最も基本のことではないだろうか。 |
(2006年06月26日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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