コラム
2011年09月20日

臨時増税に世代間の公平性を

桑畠 滋

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足元、東日本大震災からの本格的な復興に向けた第3次補正予算の財源(10兆円程度)確保に向け、臨時増税をめぐる議論が本格化しており、9月16日の政府税制調査会においては、具体的案として、(1)所得税・住民税と法人税、(2)(1)にたばこ税などの個別間接税を加えたもの、(3)消費税の3案が提示された。今後は政府税調のとりまとめ案と、民主党税調での取りまとめ案をもとに政府・与党としての最終増税案を決める方針となっている。

ただし、消費税については、社会保障・税一体改革の成案の中で今後、2010年代半ばまでに10%まで引き上げ社会保障の目的税とすることが明記されていることから、現実的には所得税・住民税と法人税の引上げを中心に復興財源を確保する可能性が極めて高い。

臨時増税の財源確保について政府は、「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うことを基本とする。」との考え方を基本方針に掲げているが、所得税、法人税を中心とする臨時増税策では「今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う」とは到底思えない。

国民生活基礎調査を基に年齢階級別に所得税納付額をみると、70歳以上世帯の50%超が非課税となっていることが見て取れ、その他の世代と比べて突出している。この理由として、高齢者世帯の所得そのものが低いことに加え、年金給付から差し引くことのできる公的年金等控除が大きく、給与所得者に比べ年金受給者の課税最低限が高く設定されていることが挙げられる。財務省によれば、夫婦のみ給与所得者の場合、課税最低限が156.6万円である一方、65歳以上の年金受給世帯では205.3万円と約50万円の開きがある。

このことは臨時増税による所得税率引き上げが実施された場合、主に給与所得世帯を中心に負担が増加することを意味しており、世代間により不公平が生じると言わざるを得ない。誤解を与えないために言うが、筆者は臨時増税により負担が増大することに反対しているのではない。大多数の国民同様、震災からの復興を、国民全体の問題として捉え、「今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う」という考え方には賛成である。ただし、高齢者世代のみ優遇されるような制度であってはならない。これは臨時増税に限らず、所得税制そのものの課題であると言えるが、少なくとも臨時増税に際し、世代間の不公平を助長しないためにも公的年金等控除の縮小を盛り込むなどの工夫があっても良いのではないだろうか。
所得税年間納付額の分布(世帯主年齢階層別)
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桑畠 滋

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