2016年02月02日

医療の国際数量比較-日本の医療は世界一か?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本では、高齢化が進み、社会保障制度、特に医療制度への関心が高まっている。日本の公的医療保険制度は1961年に国民皆保険を達成し、誰でもどの病院にも自由に受診できるフリーアクセスが確立している。しかし、財政面や、サービス面で様々な問題も生じている。高齢化は、先進国を中心に世界的に進みつつあり、各国で医療制度について議論され、改正が行われてきている。そこで、本稿では、各国の医療の現状を比較し、それを通じて、日本の医療制度の特徴を見てみることとしたい。

一般に、医療制度を評価する場合、クオリティー、コスト、アクセス、の3つの評価要素があると言われる。また、各要素を支える基盤となる医療資源は、医療スタッフ、医療施設、医療設備に分けて見ることができる。各国の比較分析には、これらの要素を念頭に置いておくことが有効であろう。
医療の話は、専門的で、難解なものとなりやすい。本稿は、各国の医療制度を詳細に分析することは、目的とはしない。医療の比較を通じて、日本の医療制度の特徴を、見ていくことを主眼に置く。
 

2――12種類の医療データで比較を実施

一口に医療データと言っても、様々なものがある。本稿では、医療制度の3つの評価要素や、医療資源の要素として、全部で12種類の統計指標について、データを比較していくこととしたい。なお、比較には、各国のデータをまとめた、OECD Health Statistics 2015を用いることとする1
図表1. 統計指標
 
1 OECDのデータ(アドレスは、http://www.oecd.org/els/health-systems/health-data.htm)を、グラフ化して表示する。
2 CTはComputerized Tomography(コンピューター断層撮影法)、MRIはMagnetic Resonance Imaging(磁気共鳴映像法)の略。

3――医療制度の比較

1日本は、平均寿命や乳児死亡率が優れており、医療の質は世界トップクラス
まず平均寿命を見てみよう。日本は女性で世界トップとなっている。男性でもトップ層に位置する。ヨーロッパ主要国では、女性はスペイン、男性はスイスの平均寿命が長い。アメリカの平均寿命は、相対的に短い。
 
図表2-1. (1)-1平均寿命 [女性]/図表2-2. 81)-2平均寿命 [男性]
次に、乳児死亡率を比較する。日本は、欧米主要国よりも低い水準にある。ヨーロッパ主要国では、スペインやスウェーデンが低い。アメリカの乳児死亡率は、相対的に高い。
図表3. (2)乳児死亡率 (出生千人あたり)
2日本の医療費は、高齢化に伴って、主要国の中位程度まで増加
まず、国内総生産(GDP)に対する医療費の割合を見てみる。2004年には、日本の医療費割合は低かったが、直近では主要国の中位程度まで増加している。アメリカは、医療費の割合が高い。これは、市場主義に基づく医療費の制御が、うまく機能していないことを表している。ドイツやフランスも医療費の割合が高く、その増大に悩まされてきた。逆に、イギリス、イタリア、スペインは、医療費割合が低い。イギリスは、伝統的に、医療に大きなコストをかけてこなかった。しかし、その結果、患者が専門医に受診するまでに数ヵ月間も待たされるといった、医療の待機問題を生んでいる。
 
図表4. (3)対GDP医療費割合
次に、1人あたり医療費を見てみよう。ここでも、アメリカの突出ぶりが目に付く。2004年には、日本の1人あたり医療費は低かったが、直近ではイギリス、イタリアを上回り、フランスに迫っている。オランダ、スイス、スウェーデンでは、大きな伸びを見せている。これらの国では、日本と同様、高齢化に伴う医療費の増加が進んでいることがうかがえる。
図表5. (4)1人あたり医療費
3日本は、医療機関への受診が容易で、利用頻度が高い
続いて、1人あたり受診回数を見てみる。日本の受診回数は、主要国の中で最も多い。一方、ドイツは、受診回数が大きく増加している。これは、旧東ドイツ地域の医師不足を補うために、看護師や医療助手を患者の自宅に派遣する事業3の推進など、都市・地方間の医療供給格差の是正に努めた結果によるものと考えられる。なお、アメリカの受診回数は、日本の3分の1程度と少ない。
図表6. (5)1人あたり受診回数
最後に、入院患者の平均在院日数を見てみよう。主要国が数日であるのに対して、日本は30日以上と突出している。イギリス、デンマーク、スウェーデンでは、外来手術患者の早期回復を促すための取り組み4の導入により、手術後の在院日数の短縮が図られている。在院日数の長さは、医療費の多寡に直結するため、その短縮に向けた検討や、取り組みが各国で進められている。
図表7. (6)入院患者の平均在院日数
 
3 2005年に始められた「アグネス(AGnES)事業」と呼ばれるもので、主に、慢性病を有し、通院が困難な高齢患者が対象。
4 ERAS(Enhanced Recovery After Surgery) という術後回復強化プログラムのことで、1990年代後半に北欧で始められた。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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