2016年03月03日

金融リテラシーと老後への準備-ライフプランの設計に必要な知識が不足している

北村 智紀

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■要旨

2004年に公的年金の実質的な削減が決まり、老後の生活のための準備は、ますます自助努力による資産形成の重要性が高まっている。老後を豊かに暮らすためには、ライフプランの設計が欠かせない。適切なライフプランを立てるには、一定の金融・経済に関する知識(「金融リテラシー」)が必要である。例えば、将来、生活費としてどのくらいのお金がいるかを予測し、それを貯めるためには、毎年、どの程度の貯蓄をすれば良いかわかる必要がある。また、どのような金融商品で貯め、運用するかについても考えなければならない。このような金融リテラシーがなければ、適切なライフプランを自分で設計したり、あるいはファイナンシャル・プランナー等に設計してもらったりしても、それを理解することが難しいはずである。しかし、残念ながら、30~35歳家計の金融リテラシーの水準は十分ではない。このような状態は、自助努力による資産形成が必要な時代にはあっておらず、改善が必要であろう。しかし、改善手段にも限りがあることも確かである。近年、確定拠出年金(DC)や、少額投資非課税制度(ニーサ)の導入があり、金融機関から一定の運用に関する知識や情報提供等がある機会が増えたはずである。それにも関わらず、大きな改善はみられていない。金融リテラシーの向上は時間がかかるものであり、長期的に取り組んでいく必要があろう。

■目次

1――はじめに
2――分析方法
3――分析結果
4――結論と課題

1――はじめに

1――はじめに

2004年に公的年金の実質的な削減が決まり、老後の生活のための準備は、ますます自助努力による資産形成の重要性が高まっている。老後を豊かに暮らすためには、ライフプランの設計が欠かせない。ファイナンスの研究に従えば、適切なライフプランを立てるには、一定の「合理性」が必要である。例えば、将来、生活費としてどのくらいのお金がいるかを予測し、それを貯めるためには、毎年、どの程度の貯蓄をすれば良いかわかる必要がある。そのためには、複利計算や現在価値への割引という概念を知っていなければならない。また、どのような金融商品で貯め、運用するかについても考えなければならない。これには、金融商品に対する一定の基礎的な知識も必要である。
 
このような金融・経済に関する知識(「金融リテラシー」)がなければ、適切なライフプランを自分で設計したり、あるいはファイナンシャル・プランナー等に設計してもらったりしても、それを理解することが難しいはずである。Lusaridi and Mitchell (2011)等の国内外における研究でも、金融リテラシーと資産形成には、大きな関連性があるとされている。そこで、日本の家計に金融リテラシーどの程度あるのか、また、金融リテラシーの程度の違いにより、老後のための資産形成の方法にどのような違いがあるのか、独自のデータを利用して検証した。
 

2――分析方法

2――分析方法

利用したデータは2014年に筆者等がインターネットを利用して実施した「生活に関するアンケート」である。30~59歳までの男女を対象とした調査である。このうち、国民年金加入者、厚生年金加入者のうち年収が相対的に低いグループと、高いグループの3つのグループにわけて検証を行った。国民年金加入者は、主として自営業者が中心であり、老後の資産形成を行うにあたり、特に自助努力のウエイトが高いグループである。そのため高い金融リテラシーが求められるはずである。これに対して厚生年金加入者は、会社員が中心である。厚生年金の受給額は国民年金よりも高く、一定の老後の生活資金を確保できる。そのため、金融リテラシーが低くても構わないという考え方もできる。一方で、会社には退職給付制度や、確定給付年金、確定拠出年金など年金制度があり、一定の研修会や情報提供等が行われる。そのため、金融リテラシーが高まる傾向も考えられる。なお、年収を2つのグループにわけた理由は、過去の研究により、年収が高いほど金融リテラシーが高くなる傾向が予測されるためである。
 
金融リテラシーの程度を測るために、以下の5問の金融・経済に関するクイズを回答者に答えてもらった。これらはLusaridi and Mitchell (2011)等の研究を参考にしたもので、国内外の研究で有名な質問である。
 
複利計算:普通預金に100万円を預金しているとして、金利が年率20%であるとします。5年後、口座残高はいくらになっているでしょうか。
(1)2百万円より多い、(2)2百万円ちょうど、(3)2百万円より少ない、(4)わからない、[正解(1)]
 
国債価格:現在の金利が1%だとします。将来、金利が3%に上昇した場合、10年満期の1%利付国債の価格はどうなるでしょうか。
(1)上昇する、(2)変わらない、(3)下落する、(4)わからない、[正解(3)]
 
外国投資:米ドル建て外貨預金に1000ドル預金しているとして下さい。3ヵ月後、円ドル為替レートが円安となった場合、この預金の円ベースでみた価値はどのようになるでしょうか。
(1)増える、(2)変わらない、(3)減る、(4)わからない、[正解(1)]
 
リスク分散:トヨタ自動車の株価と日経平均連動株式投信(インデックスファンド)では、どちらが変動性(値上がり、値下がりするリスク)が小さい(安全)でしょうか。
(1)トヨタ自動車、(2)ほぼ同じ、(3)日経平均連動株式投信、(4)わからない、[正解(3)]
 
ドルコスト平均法:次のうち、ドルコスト平均法の説明として正しいものはどれですか。
(1)各銀行が提示するドル為替レートの平均値で投資すること、(2)定期的に一定額ずつ投資すること、(3)値上がりしている時に買い、値下がりしている時に売る投資のこと、(4)わからない、[正解(2)]
 
「複利計算」は、遠い将来のお金と現在のお金の関連性を考えるための重要な概念である。「国債価格」に関しては、現状のような低金利状態は、この先、長い期間を考えれば、何れ解消されることが予想できる。金利上昇時には、満期が長期の債券や預貯金で運用していた場合には、それが安全資産だと考えられていたとして、一定の損失をする可能性がある。このような概念は長期で運用する場合には、知っておく必要があろう。「外国投資」に関しては、日本国内のみの金融市場と比較して、世界の金融市場の方が魅力的な運用ができる機会が大きい。このような状況では、為替レートと外貨建て資産で運用した場合の関係を理解することは必須であろう。「リスク分散」に関しては、株式投資を行うにはリスクの分散化させることが重要な概念であり、株式や株式投信で運用を行うには、知っていく必要がある。「ドルコスト平均法」に関しては、株価が値下がりしたら株数を多く買い、値上がりしたら少なく買うことで、平均購入価格を下げ、長期的に損益を安定させる効果がある。株価の変動に関わりなく、このように定期的に一定の金額を積み立てるのは、老後のための資産形成のような長期積立投資には重要な概念である。
 
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北村 智紀

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