コラム
2016年01月18日

高齢者を狙う不適正商法への新たな対抗策―消費者契約法の改正では消費者保護の要請と健全な事業活動確保とのバランスも重要

生活研究部 部長   松澤 登

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1月7日に消費者委員会本会議が開催され、消費者契約法と特定商取引法の二つの法律に関する報告と答申がなされた。これらはひとつには超高齢社会を迎えた日本における高齢者の消費被害の実態を踏まえて検討されてきたものだ。本稿ではこれらのうち消費者契約法1について取り上げてみたい。

消費者契約法を検討した専門委員会ではさまざまな論点について議論されてきたが、その多くが検討継続となり、今回報告書で提言された主なものは6点ある。このうち、特に重要と思われる2点について考えてみたい。

ひとつめであるが、現行法では事業者が消費者に対し、不実の「重要事項」を告げて契約を締結させたときに、消費者は契約を取り消せることとなっている(法第4条第1項第1号)。ただ現行法では「重要事項」は商品や契約そのものに係るもの、たとえば商品の質や用途、権利内容などに限定されている。今回の提言は、この「重要事項」に消費者が契約を行なう「動機」に係るもの、すなわち「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を含むこととするよう法改正を求めている。

たとえば床下の柱が腐っているという不実の告知をしてリフォーム工事をさせる事例のように、工事契約そのものではなく、契約をすることを消費者が決めた理由、すなわち「動機」が形成された情報が不実である事例がある。この場合、現行法では取消対象とならないが、提言はこの場合も取消の対象にしようとするというものだ。改正がなされれば、事業者側から積極的に不実の情報を提供する不適正販売手法に基づく契約を取り消しすることができ、不適正商法への大きな抑止力になると思われる。

ただ、気をつけなければいけないのは、当然のことながら、大多数の健全な事業者にもこの条文の適用があることである。特に、一般にはさほど重要ではないが、当該消費者にとっては重要な「動機」について問題がありそうである。この場合、消費者側からの質問に販売員が回答する形になることも多いであろうが、販売員がその情報がさして重要なものとは認識できないまま、そしてたとえば最新情報を知らなかったため結果的に不実の内容で回答してしまったような場合に取消という重大な権利を付与すべきなのかという問題がある2

この点に関し、現行法でも「重要事項」は、契約を締結するかどうかの判断に「通常影響を及ぼすべきもの」に限られている。しかし「動機」という人によって異なりうる事情に関しては、条文の書き方やその解釈しだいで健全な経営を行なっている大多数の事業者にとっての予測可能性という面からの不安が残る。
 

もうひとつは、日常的に必要とされる量を著しく超える量の契約であり、そのような契約を必要とする特別な事情がないことを知りながら事業者が勧誘・販売をした場合に、そのような契約も取り消せるようにすべきとする提言である。これは合理的な判断をすることが出来ない事情を利用して契約を締結させる典型例として立法すべきとされたものである。

被害例には大量の呉服やふとんの販売などの事例があるようである。これらは高齢者をターゲットとしたものが目立つが、不必要な量の商品を勧誘・販売する不適正な営業を行なう事業者への対抗手段として有効であろう。

この提言のポイントは「特別な事情がないことを知りながら」というところである。たとえば近所の一人暮らしの高齢者がふとんを3組ほしいと街の寝具店にやってきた場合に、寝具店としては特別な事情があるかどうか(たとえば遠方のこどもの家族が泊まりに来るので寝具を新調する)を確認すべきなのであろうか。これは高齢者の購入活動の自由を制限することにつながりかねず、また事業者の負担も大きく、否定されるべきと思う。しかし個人経営の寝具店の店主と高齢者がごく親しく近所づきあいをしていて、何も聞いていないといった場合はどうであろう。微妙なケースは出てきそうであり、何らかの更なる要件の縛りが必要となるように思われる。
 

消費者関連法の議論で常に問題となるのが、不適正な販売行為を抑制しようとすると大多数の健全な販売行為を行なっている事業者にまで影響が及ぶことである。考えうる不適正販売行為を幅広にカバーしようとすると健全な事業者への影響は大きくなるが、かといって現状行なわれている不適正な販売行為をピンポイントで抑制しようとすると抜け穴を見つけられてしまう、いわゆるいたちごっこになる。

更にいえば、悪質な業者は営業所や商号を頻繁に変えるため、そもそも法律があっても適用が難しく、健全な事業者だけがルールに悩まされるということもある。

超高齢社会を迎え、高齢者、特に判断力が低下した方をターゲットとした不適正商法の抑制は重要であること間違いない。今回の提言に基づく立案作業が文言の作りこみも含め適切に行なわれ、また行政等の運用や実際の裁判等で不適正販売を適切に抑止しつつ、健全な事業者に過度な萎縮効果を与えないように解釈が行なわれていくことを期待したい。
 
1 消費者契約法は民法の特別法で、事業者と消費者との間のすべての契約に適用される。
2 ひとつ例を挙げれば、ゴルフ場に行くことを主な目的として自動車を買おうとしているゴルフ愛好家がそのことを告げずにA社製自動車とB社製自動車のどちらかを選ぼうとしているとする。このときに、A社販売員にB社自動車の(ゴルフバックを入れることになる)トランクの広さを聞いたことに対し、A社販売員がB社自動車の新モデルの広いスペックではなく、そのときに覚えていた一代前の狭いスペックで回答した場合などが考えられる。

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生活研究部   部長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
生活研究部統括

(2016年01月18日「研究員の眼」)

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