2023年10月31日開催

パネルディスカッション

中国リスクの軽減(デリスキング)と今後の国際戦略「コメント・討論」

パネリスト
川島 真氏 東京大学大学院総合文化研究科 教授
大庭 三枝氏 神奈川大学 法学部・法学研究科 教授
伊藤 隆氏 三菱電機 執行役員経済安全保障統括室長
三尾 幸吉郎 ニッセイ基礎研究所 上席研究員
コーディネーター
伊藤 さゆり 常務理事

文字サイズ

5―4. 幹部不在の不安と中印関係
■伊藤さゆり ありがとうございました。
早くも非常に充実したお話を伺っている間に残り時間10分ほどになってしまいましたが、私から川島様に基調講演での論点を含めまして2点ご質問させていただきたいと思います。

一つは、今の経済のお話とかぶるところなのですが、今の経済政策、特に市場経済的なマネジメントに精通した幹部の不在に関する市場関係者などの不安に関する質問です。不動産バブルの問題など、今までは中国当局が適切に管理してくれるという期待があった。今もその期待は消えてはいませんが、もしかしたらうまくマネジメントできないような事態が起こり得るのではないかという不安も以前より大きくなっているように思います。その点について、川島様のご意見を伺えればと思います。

もう一つは、今日の基調講演でご紹介いただきました清華大学の脅威認識の意識調査に関連する質問です。ご講演の中では、中国とロシアとの関係について詳しくお話を頂きましたが、インドと中国の関係、特に中国側から見たインドというのはどんな姿なのかについて教えていただければと思います。

というのも、私などは日本にいて、かつヨーロッパの政策などを研究しておりますと、インドというのは西側とも対立せず、かつグローバルサウスの国々とも連携を強めていて、今G7と西側からかなり強いデリスキングの圧力を受けている中国に比べると、インドはより良いポジション取りをしているように見えます。人口動態の面、あるいは所得水準の面からも、世界の成長の重心がインドに移っていくのではないかという印象を持つのですが、中国にとっての将来的な脅威認識の対象は、引き続きアメリカであって、インドは視野に入っていないのかどうか。その2点について教えていただければと思います。
 
■川島 ありがとうございます。
1点目の経済について、実は劉鶴は今でも経済、金融関連の会議に時々出ているのですが、劉鶴が副首相というポストからいなくなって、その前に財政部部長だった楼継偉もいなくなった。あの二人の存在が大変大きかったわけです。やはりアメリカの前で、英語で先進国の論理も踏まえて議論ができたわけです。特に金融の世界はやはりドルの世界ですので、とりわけ金融、財政の面での力を発揮できたあの二人が第一線から引いたことは重要です。また中央銀行における人事もこうした欧米組はリーダーにはなっていない印象です。

西側の論理といった話が分かっている人がいなくなったのではないかということも全くそのとおりだと思います。何立峰さんでは、劉鶴たちと同じ役割を担えません。そうした意味での不安はつきまとうわけです。

習近平にインタビューしたわけではありませんが、この問題について、習近平は多分こう説明するだろうなということは思い浮かびます。例えば二つの循環、双循環というのがあります。あれは、国内大循環と国際大循環とがありますが、そこでも国内大循環がメイン、中心なのです。加えて、共同富裕にしてもそうですが、基本的に内側を見ているのです。国内の需要がGDPの中心ですから、あまり国際的な問題に関して、特に欧米先進国との調整事にそこまで力を割かなくてもいいのではないか、だから国内経済がわかっている何立峰でいいのではないか、ということです。これが一つです。

あともう一つは、トップセブン、常務委員を含めて何かの専門家はいないということです。ここが大変大きな問題です。専門家不在、つまり例えば外交に関してもトップセブンに専門家がいないわけです。あらゆる問題に関して専門的な知識を持つ人間を下へ下へと追いやる傾向があるのではないでしょうか。もちろんトップ24までいけば王毅がいるのですが、これも人事の特徴ではないでしょうか。

しかし、ちょっと先ほど言いましたが、実態として必要になるのはやはり劉鶴さんでしょう。時々今でも会議に名前が出たりしますので、再登板までは無理でしょうが、何かしらの格好でいろいろな会議に出続けるということはあるかもしれません。ここは必要に迫られた、先ほどの私の発表の中で言う、リアリズムと言いますか、現実的な必要性の中で生じるものです。しかし、その程度、匙加減が問題と思います。それから今回の東北地方、満州における経済復興を一体誰が主導するのか、ということもポイントになるのだろうと思っています。

すなわち、国際経済、国際金融をわかっている人材がいないことが不安材料ということはよくわかるのですが、習近平政権としては国内政治の方向性と符合した経済政策を行っている、というのではないでしょうか。しかし、これでは多分現実には耐えられないので、何かしらの補充をするだろうと思います。

それから中印関係ですが、基本的にインドとの関係が悪いということを中国は言いにくいのですね。中印関係がこれだけ悪いにもかかわらず、です。つまり中印国境で、武器を使ってはいけなかったので、木の棒にいっぱいくぎをくっ付けてインドの人を殴って、殺傷事件を起こしたわけです。インドの対中感情は極めて悪いわけです。また加えて、ネパール、さまざまなその周辺の国に中国が進出して、インドは中国への警戒心を強めてしまっています。

ただ中国国内において、インドのことを悪く言う宣伝は抑制されているのは事実です。やはりインドまでもが中国に反対するという構図は、先ほど私が申し上げた、先進国と非先進国が対抗していて、中国が非先進国側のトップと自分で位置付けられるという図からすれば受け入れられません。インドとけんかしたらこの論理が崩れてしまうわけです。今のところ、どんなにインドとの関係が悪化しても、何とかインドとはうまくやっているふりをするというところだと思います。

ところが、今回の今年1月のグローバルサウス・サミットにおいて、インドが中国を呼ばなかったわけです。中国だけを呼ばなかったわけではないのですが、これは中国にとって相当なショックだろうと思います。ですので、やはりモディさんの外交スタイルもいろいろあるのでしょうけれども、別に中国を全部無視しているわけではないので、ケースバイケースなわけですが、やはり中国としては、先進国アメリカとの競争を意識していたら、開発途上国の世界の方から火がついたという感じだろうと思います。

しかしだからといって、習近平が2017年に発表したような将来に向けた目標を今のところ変えるというところまでいっていないと思います。

ただ、今後、中国がこれでインドのことを本気になって警戒し始めると、言葉を全部組み替えないといけない。外交の説明の言葉を全面的に変える必要があるので、ちょっと習近平としては自己否定につながります。これは相当やりにくいことだろうと思われます。ただ人口ももう抜かれますし、中国としては、これまでの先進国対非先進国型の説明では対応できなくなっていくのかもしれません。彼らからしても世界の変化が早過ぎるというか、予想より早いということなのかもしれません。以上でございます。
5―5. まとめ
■伊藤さゆり ありがとうございました。本当に大変新しい視点を頂いたようでございます。ありがとうございました。

残り時間が極めて限られてまいりました。少々、微妙に6時を超過してしまうかもしれないのですが、本日のテーマに関して、言い足りなかったこと、付け加えたいこと、まとめのご発言などをお一人様1分以内ぐらいで、頂ければと思います。また大庭様からということで、よろしいですか。よろしくお願いいたします。

■大庭 もう十分、私が言いたいことはここでは言えたかなと思います。やはり日本で見る視点、それからヨーロッパ、アメリカ、中国から見る視点と、東南アジア諸国、それぞれから見る視点がかなり異なるということを、改めてここで認識するとともに、それぞれの視点を生かさないと、世界の今の情勢というのは理解できないなと感じます。中国が与えるリスクというのも、日本ではすっと「こうだろう」と思われるものも、実は世界から見るとそうではないということを、忘れてはいけないのだなと改めて感じた次第です。今日は本当にありがとうございました。

■伊藤さゆり 伊藤様、お願いいたします。

■伊藤隆 ありがとうございます。今日の議題に関して言い足りないことはありませんが、一つだけ。私ビジネスマンとしてこちらに伺っておりますので、ビジネスマンの見地で申し上げますと、リスク分析、世界情勢、中国、米中関係に関して学ぶ機会というのは非常に多いのですが、これを自分の会社の直面するリスクとして解析し、アクションにつなげないと、経済安全保障は単なる情報収集に留まってしまいます。その意味ではアクションが実は活動の8割ぐらいを占めています。

そうしたアクションに伴う経験を共有する企業の方々とお話し合いする機会も多くなっておりますので、ご関心のある方はぜひご連絡を頂ければと思っております。

すみません。ニッセイさんの仕事を取ることはないですけれども(笑)。

■伊藤さゆり ありがとうございます(笑)。

■伊藤隆 どうもありがとうございます。

■伊藤さゆり では三尾さん、お願いいたします。

■三尾 私も特に言い足りないことはないのですが、今日は私自身、いろいろな形、局面からの見方を知ることができて、大変勉強になりました。ありがとうございました。

■伊藤さゆり 川島様、お願いいたします。

■川島 私は中国研究者なのですけれども、くれぐれも誤解していただきたくないのは、私が中国のことを好きで研究しているわけではないということです(笑)。

ただ、何を言いたいかというと、それでもなお中国のことを理解しようというときは、やはり中国側が何を言っているか、まずそれを理解しないといけないなとは思うのですね。やはりまずそれを理解するということがあって、その上でいろいろなことを議論したいと思うのが1点です。

それから、日本における中国論というのが必ずしも客観的というわけではない、ということです。やはり世界各地において、いろいろな見方があります。それこそNHKの朝のワールドニュースで示されるように、いろいろな国でさまざまな中国への見方があります。それを見ると、日本の見方が少し相対化できると思います。

3点目に、中国自身も依然としてかなり多様です。いろいろな人がいるし、地域ごとで全部見方が違うので、政府はこう言っているけれども、いろいろな人がいるということ、つまり多様性も忘れてはいけないと思っています。以上でございます。

■伊藤さゆり ありがとうございました。本日のテーマ「中国をどう理解し、どう向き合うか」。今回のパネルは、中国の多様性といったこととともに、中国に対する見方、アプローチの仕方も多様なのだということをさまざまな角度から議論して、皆さま方にご理解いただければと思い企画させていただきました。私自身も非常に勉強になりました。恐らく何らかの形で、皆さまの日々のご活動にも役立つ情報をご提供できたのではないかと思っております。

これを持ちまして、このパネルディスカッションの締めくくりとさせていただきたいと思います。皆さまありがとうございました(拍手)。

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

ピックアップ

【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ページTopへ戻る