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2025年10月31日

保険型投資商品の特徴を理解すること(欧州)-欧州保険協会の解説文書

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――はじめに

2025年10月9日、欧州保険協会は、保険型投資商品(Insurance-Based Investment Products :IBIPs)の特徴を解説する文書1を公表した。以下その概要を紹介する。
 
1 UNDERSTANDING THE DISTINCT NATURE OF LIFE INVESTMENT PRODUCTS (2025.10.9  INSURANCE EUROPE)
Understanding the distinct nature of life investment products (3).pdf
(解説文書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)

2――解説文書の内容

2――解説文書の内容

1|背景・目的・適用範囲
EUにおいては一般に、投資商品の設計・販売などは、EU金融商品市場指令Ⅱ等の規則に従うことを通じて、金融市場における効率性、強靭性、透明性を高めるとともに、投資家保護を確保している。

その対象となる金融商品の範囲は一定程度定められているものの、IBIPについては、仮にこうした規制に従うと、保険機能の特殊性を十分に反映することができないため、現時点ではこの金融商品規制の対象外となっている。特殊性としては、死亡・疾病等保障、価格保証の機能、リスク軽減手法といった、より洗練された設計を必要とする重要な機能が多く含まれることが挙げられる。

消費者にとって最終的に重要なのは、ニーズを満たしつつ、十分に理解していないリスクにさらされることなく、保険商品の提供を受けることである。この点において、構造がシンプルに見える商品が、より洗練された設計のものよりも必ずしも安全であるとは限らない。例えば、株式は構造的にはシンプルかもしれないが、投資にあたってはその背後にある市場リスクを深く理解する必要がある。逆に、IBIPのなかには相当複雑に見える商品もあるが、それは高度なリスク管理により、消費者を保護できるように設計されているためである。

したがって、IBIPの高度な商品設計は必然的なものであり、例えば、現代の自動車に使用されている技術と同様に、消費者に利益をもたらす。かといって消費者はIBIPの技術的な基盤を理解する必要はない。例えば、人々は日常的に飛行機に乗ったり、スマートフォンを使用したりする際、その背後にある技術的な詳細を知る必要がない。それと同様に、消費者はIBIPを構成する保険の複雑な仕組みや投資戦略をすべて理解する必要はなく、必要なのは、これらの保険商品を自身の財務上の目的達成のために、効果的に活用するための重要な情報と適切なガイダンスである。

以下では、IBIPの仕組みに関するいくつかの疑問に答えて、消費者に真の価値を提供するためにIBIPの機能がいかに慎重に設計されているかを説明する。
2|IBIPは、投資と保障が融合した保険商品であること
IBIPは、消費者個人では投資の意思や能力がなくても、一定程度投資の恩恵を受けられるよう提供される既製の保険商品である。また、価格の最低保証機能、リスク管理手法、保険による補償により、不安定な環境下でも安定性を提供できる。そのため、IBIPは単なる保険というだけではなく、長期にわたる包括的な資金準備手段となりうる。保険会社は、積極的に資産を選定・監視し、多くの場合、投資の一部を直接運用し、専門知識を活用して投資戦略を調整する。
 
人生において困難な状況に陥ったとき、IBIPが加入者を支援する事例を挙げる。

・ある人は、年金受給が可能な時期までの資金を補うために長期投資を行なうこととした。その際IBIPが提供する資産運用における価格保証のおかげで、自分の財産が金融市場の急激な下落から守られるという安心感を得ることができる。

・ある人が突然亡くなったとする。その場合、IBIPによる死亡保障により、遺族は直ちに保険金という安全な資金を受け取ることができるため、当面の生活費用を賄い、経済的な安定を維持することができる。

・ある工場労働者は、職場で事故に遭い働けなくなった。この場合にも、IBIPに付帯されている障害保障を通じて保険会社から給付金を受け取り、収入が途絶えた状況でも生活を維持できた。

他の投資商品(ETFなど)とは異なり、IBIPには長期的な投資期間があることで、消費者に必要な安心感を与えると同時に、EU経済への投資を促し、回復力、競争力、そして成長を支える。

さらに、IBIPは、保険の補償範囲、除外事項、免責金額、保証レベル、支払い方法など、幅広いオプションを提供しており、消費者のニーズや財務状況に合わせて商品をカスタマイズできる。

消費者は、金融商品や保険契約、プロバイダーも含めた関連書類を個別に管理する必要がなく、統合された単一商品を利用することで煩雑な手続きを省くことができ、例えば、充分な保障を得ること、資産運用における市場売買タイミングのミスをなくすこと、早期解約を回避すること、などのメリットを享受できる。このように、IBIPは投資メリットと生命保険リスク(死亡、障害など)の保障を両立させた標準化保険商品である。
3|IBIPなら、消費者が自由にオプションを選択できること
マルチオプション商品(MOP)は、消費者がニーズと支出能力に合わせて様々な投資を選択できる仕組みであり、個々のニーズに応じた資金計画を可能にする。この柔軟性は、就職したばかりの時期から退職後の資金計画、あるいは予期せぬ事態への対応まで、様々なライフステージにおける実際のニーズを反映している。EU規則に従って、基礎となるファンドが標準化された形式で提示され、消費者がその主な特徴を理解できるようにしている。投資の選択肢以外にも、保険の補償範囲、除外事項、免責額、保証レベル、支払い方法といった多様なオプションがある。これらのオプションにより、消費者の商品をカスタマイズすることができる。
4|IBIPには、リターンだけにとどまらない、より幅広い価値があること
IBIPは、1つの契約で複数のサービスを提供する。各コンポーネント(投資、死亡・疾病等保障、管理、販売、アドバイス)には、明確な消費者メリットと相応のコストがある。

EUにおける保険販売指令およびこうした小口保険商品の重要説明文書の規則では、明確なコスト開示を義務づけている。消費者にとって重要なのは、まず商品の総コストに関する情報を受け取ることであり、さらに詳細な内訳については、消費者の要求に応じて保険会社が提供できるようになっていることである。このアプローチによって、実質的な透明性を確保し、消費者に商品の重要かつ適切なコスト情報を提供できる。
 
しかし注意すべき点は、価格が安いことが常に良いとは限らないことである。

例えば、ETFは手数料が低水準に抑えられているかもしれないが、市場の価格変動リスクに直接さらされており、保険による損失補償や元本保証はない。市場が低迷すると、ETFの価格は、組み込まれた安全策がないままに急落する可能性があり、消費者は大きな損失を被る可能性がある。一方、IBIPは、まさにそのようなシナリオから消費者を守る契約上の保証と保護メカニズムを提供する。

このように、消費者に価格の低さのみを基準に選択を促すことは、結果的に資産価格下落や利益減少につながる可能性があり、必ずしも消費者の最善の利益とはならない可能性があることに留意する必要がある。

重要なのは、消費者が十分な情報を得た上で、必要に応じて保険会社や販売業者から情報を得られることであって、一般にEU金融規則の枠組みは、高レベルの消費者保護をめざしているものである。
5|IBIPでは、消費者ニーズに合わせたリスクとリターンのマッチングが可能なこと
・IBIPは、安全性と安定性を重視するリスク回避志向が強い消費者を含む、幅広い消費者層に対応できるよう設計されている。IBIPは、様々なレベルの保護、保証、投資戦略を提供し、消費者がニーズに合わせてリスクとリターンのバランスの取れたソリューションを見つけるのに役立つ。
 
まず消費者はIBIPの重要説明文書を受け取ることになるが、そこにはサマリーリスク指標、パフォーマンスシナリオ(様々な市場状況下で消費者が受け取る可能性のあるいくつかのケース)、そしてコストがリターンに与える影響に関する情報が記載されることになっている。

IBIPは多くの場合アドバイザーを通じて販売される。アドバイザーは、消費者がリスクとリターンの期待値を含めた商品の仕組みを理解し、ニーズに合った商品を購入していることを確認する必要がある。またその後の開示情報やアドバイスによって、消費者が自身のリスクプロファイルに適した商品やオプションを見つけることができる。
 
最終的に、商品の仕様や設計が、例えば死亡・疾病等保障、価格の最低保証、リスク軽減手法などが消費者をリスクから保護する上で機能している場合、これらの高度な機能は消費者の利益となる。最終的に重要なのは、消費者が自分にとって最適なものを選択できることである。

3――おわりに

3――おわりに

わが国においては変額保険、変額年金がIBIP類似の商品と考えられる。また、運用手段を選択できるという部分は、確定拠出年金制度がこれに近い制度といえる。今後それ以外にも新しい保険商品を検討する場合などに、欧州の保険型投資商品の仕組みや現状が参考になるかもしれない。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月31日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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