2025年01月30日

EIOPAによる2024年保険ストレステストについて-EIOPAの結果報告書の概要-

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2|流動性への影響
流動性については、シナリオによる流動性ニーズの増大に対応するために必要な流動資産の十分な利用可能性の重要性が示された7

不利なシナリオにより、主に解約返戻金の支払いの必要性から、重大な流動性ニーズが生じた。流動性ポジション(ネットフローと現金及び現金同等物の合計)は十分ではなく、ベースラインの1,103億ユーロのプラスから409億ユーロのマイナスとなった。これにより、保険会社はリアクティブな経営行動を講じ、主に投資の方向転換を行い、実質的に3,056億ユーロの資産の純売却を強いられる形になった。リアクティブな経営行動は14のグループに属する31の会社によって、44の措置が適用された。講じられた全ての措置(組み込み及びリアクティブな経営行動)の結果、流動性ポジションは合計で611億ユーロのプラスに改善する8。なお、流動性ポジションへのマージンコール9フローの寄与は、ベースラインの▲21億ユーロが、ストレスシナリオでは▲59億ユーロになった。

一方で、流動性ポジションに他の流動資産(ヘアカット後)を加えたサステナビリティ指標では、ベースラインに対して7,211億ユーロ減少するが、それでも15,641億ユーロで十分な水準を確保している。

流動性ニーズと流動資産を比較すると、全ての参加会社にとって、流動資産はストレスシナリオによって生じた流動性ニーズを安定的に維持するのに十分だった。必要な流動性リソースとしての資産の重要性と、主な流動性ニーズが解約によって生み出されるという事実は、2021 年のストレステストと同様だった。
流動性指標への影響
マクロプルーデンスの側面では、資産の売却は、資本と流動性の両方で参加会社にとって、主に使用されたリアクティブな経営行動の一つであると特定された。流動性コンポーネントの構造は、組み込み及びリアクティブな経営行動から生じる影響の両方を考慮して、そのような影響をより包括的に特定することを可能にした。特に流動性については、ベースラインの932億ユーロの純購入から、純売却額が3,056億ユーロに達し、これはEEAレベルでの四半期平均債券取引高の約4.0%に相当している。
 
7 流動性コンポーネントは、資本コンポーネントと同じ事業体を対象としているが、分析は単体レベルで行われ、132の保険会社が特定されている。
8 流動性コンポーネントについては、資本コンポーネントの場合のソルベンシー比率の存在等とは異なり、保険会社の流動性ポジションに関する一般的に認識されている枠組みや指標が存在しないため、違反時に是正措置を発動するための共通の指標や関連する臨界値は特定できない。
9 ボラティリティ発生時等のヘッジ取引等における追加の証拠金・担保に伴う資金拠出等
3|今後の対応
EIOPAは、保険セクターの全体的なレジリエンスを向上させるために、リスクが特定された関連側面について勧告を発行する必要性を評価する。テストの結果は、欧州及び各国レベルでの監督プロセスに情報を提供する。ストレス下の業界の行動に関して収集された知見は、ソルベンシーIIレビューの文脈における政治レベルでの資本解放に関する議論にも情報を提供することになる。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAによる2024年保険ストレステストの結果報告書の概要について報告してきた。

今回のストレステストは、昨今の環境を踏まえて、地政学的な状況と経済見通しを取り巻く、高い不確実性等をシナリオに反映したものとなっている。結果として、欧州の保険会社が地政学的な緊張のさらなるエスカレーションの結果に対処できるポジションにあることが確認されているが、一方で、その場合でもその対処に活用する必要がある資本と流動性が相当なものであることも確認されている。

今回のストレステストは、欧州の保険会社を対象としたものになっているが、そのストレスシナリオは欧州だけでなくグローバルベースでも大きな影響が考えられるものとなっている。その意味においては、今回のストレステストの結果を踏まえて、EIOPAが今後どのような対応を行っていくのかについては関係者が注目している点であり、引き続きその動向について注視していくこととしたい。

(2025年01月30日「保険・年金フォーカス」)

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