コラム
2022年08月12日

世界の時差に関する話題

中村 亮一

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はじめに

昨今は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を契機として、グローバルベースでオンラインでの会議が頻繁に行われるようになっている。COVID-19が収まりを見せてくれば、海外出張需要も一定回復してくると思われるが、出張旅費が節約できることもあり、今後も海外とのビジネスミーテングがオンライン会議で行われることが多くなるものと思われる。この場合には、当然のことながら、相手方との時差を考慮した上での会議時間の設定が行われていくことになる。

私も国際関係組織の委員を担当していた時に、欧州諸国、米国・カナダ、アジア等からの参加者による電話会議がほぼ2カ月に1回のペースで開催され、それに参加していた。この場合、日本での開始時刻は、夜の11時(欧州は午後の3時か4時、米国東部は午前9時か10時、米国西部は午前6時か午前7時)からということになっていた。欧州や米国からの参加者が多いのでやむを得ないことなのだが、議論が活発になって、こちらの深夜の1時を過ぎても会議が続いていると、事務局や他の参加者は少しは時差のことを考慮してくれているのかな、と疑問に思ってしまうことも時々経験した。

今回は、世界の時差に関する話題について取り上げてみる。

時差とは

時差は、その名の通り、ある2つの地域間の時刻の差異を示している。実際には、「協定世界時(Coordinated Universal TimeUTC」との差で示される、各国・地域の「標準時(standard time」がUTCとの時差として示され、これらの差異として、2つの地域間の時差がわかることになる。

各国・地域の「標準時」としては、歴史的には「グリニッジ平均時(Greenwich Mean TimeGMT」(グリニッジ標準時)が基準に採用されており、1884年にワシントンで開催された国際子午線会議で、経度計測のための本初子午線をグリニッジ子午線にすると決定され、この子午線が標準時やタイムゾーン(同じ標準時を使用する地機全体)を決定するためにも使用された。1日24時間なので、地球を経度が15°(1時間)ずつ異なる24の区域に分けて、各区域の中央の時間をその区域の時間とするGMTシステムが1885年1月1日に全世界で採用された。日本では、1886年に兵庫県明石市がある東経135度を日本標準時子午線とすることが決定され、日本時間はGMTより9時間進んだ時間が採用されてきている。

UTCは、国際原子時 (TAI) に由来する原子時系の時刻である。国際協定により、UTCはGMTと基本的には等しいことになっているが、その測定方法は異なっており、GMTは正午から測定されるのに対して、UTCは午前0時から測定されている。その差はわずかな整数秒となっており、うるう秒1等の採用により、太陽はUTC12時にグリニッジ子午線を超えるようになっている。
 
1 「うるう秒」については、研究員の眼「時間・時刻の定義-「うるう秒」の調整はどんな意味があるのか-」(2015.6.22)で報告しているので、参照いただきたい。

世界の時差

世界の主要都市の時差を、協定世界時との関係で示すと、以下の通りとなっている。
各国・地域の主要都市の時差(標準時のU TCとの差異)

時差に関する話題(同じような経度でも同じ時間帯とは限らない)

世界の主要都市を見てみた場合に、例え同じような経度にあっても同じ時間帯とは限らない。

例えば、ロンドン、パリ、マドリードはほぼ同じ経度にあり、西からマドリード、ロンドン、パリの順番になっているが、マドリードやパリとロンドンとは1時間の時差がある。
ロンドン、パリ、マドリードの時差
最近何かと話題になることが多い、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、トルコの代表的な都市であるサンクトペテルブルグ、ミンスク、キーウ(キーエフ)、イスタンブールについては、それぞれの経度と時間帯は、以下の通りとなっている。これらの都市はほぼ同じ経度に位置しており、夏の時間帯は共通している。
サンクトペテルブルグ、ミンスク、キーウ(キーエフ)、イスタンブールの時差

時差に関する話題(面積大国の時間帯)

面積の大きな国は幅広い経度にわたって領土を有しているので、時間帯も複数有している場合が多い。一方、国全体で統一されている場合もある。代表的な面積大国の時間帯は以下の通りとなっている。

ロシアは世界最大の面積を有する国で、世界で最も多くの標準時を持つ国であり、 UTC+2 から UTC+12 の時間帯に11の標準時を持っている。また、面積で第2位のカナダは 7つ(夏時間の有無を含む、以下同じ)、第3位の米国は9つの標準時を有している。これに対して、(カナダ、米国とほぼ同じ面積を有する)第4位の中国は、1つの標準時しか有していない。
面積大国の時間帯
中国は、東西における経度差が約60度あるが、時差は設けられていない2。中国の標準時は、首都北京(東経116度23分)に最も近い東経120度の子午線に基づいている。この理由としては、もちろん中国が中央集権的な社会主義国家であることが挙げられると思うが、加えて、中国の人口の9割以上の人々がハルピン(東経126度39分)と成都(東経104度4分)の間に住んでおり、この2つの都市の経度の差が約22度であることから、2つの都市のほぼ中間に位置している首都北京をベースに統一時間を採用することのメリットが大きく、合理性があるということが挙げられるようだ。

因みに、面積第5位のブラジルは4つ、第6位のオーストラリアは6つ、第7位のインドと第8位のアルゼンチンは1つ、第9位のカザフスタンは2つ、第10位のアルジェリアは1つの標準時を有している。

面積が第11位以下の国でも、例えば、メキシコやインドネシアは3つの標準時を有している。

因みに、南極も基地の場所によって、複数の時間帯を有する形になっている。

当然のことながら、面積だけが重要なわけではなく、国の形状(南北の長さ、東西の長さ、島々の分布等)が関係してくることになる。
 
2 中華民国の時代(1912~1949年)には5つの標準時があったが、中華人民共和国の成立に伴い、現在の標準時に一本化された。

時差に関する話題(時間帯は1時間刻みとは限らない)

時差と言えば、通常は1時間単位を考えるかもしれないが、30分単位や15分単位の国もある。「標準時にしたい地点で、夏至の日に太陽が真上に来る時刻を正午にする」と言うのが一般的な考え方のため、その国の位置にあった時差を利用するため、時間を30分や15分ずらす国や地域があることになる。このような例としては、以下の国・地域が挙げられる。

例えば、インドの場合、国土は東経 68度7分から97度25分の範囲にあり、その中心は約83度で、83÷15=5.53 となることから、5時間30分の差異を設けることに合理性があることになる。なお、首都のニューデリーの経度は東経77度20分となっている。

また、ネパールの首都カトマンズの経度は東経85度19分であり、85.19÷15=5.746 となることから、UTCとは5時間45分の差異を設けることに合理性があることになる。インドとの関係もあることから、インドと同じ5時間30分とすることも考えられるが、こうした考え方は採用していないようだ。
時間帯は1時間刻みとは限らない

時差に関する話題(夏時間(サマータイム)の実施、その実施時期等)

夏時間(サマータイム)を実施している国・地域もある。その通常時間帯との差異は通常1時間である(即ち通常の標準時に比べて、夏時間は1時間早くしている)が、オーストラリアの本土から東に600km離れたところにあるロード・ハウ島のように夏時間と通常の時間の差異が30分というケースもある。

夏時間を採用している主要な国・地域とその実施時期は、以下の通りとなっている。

このように、夏時間の実施時期に関して、北米(米国・カナダ)の2カ国は統一され、欧州の実施諸国でも統一されているが、同じ北半球の北米と欧州諸国の実施時期が統一されているわけではない。また、南半球のオーストラリアとニュージーランドの実施時期も同じではない。
夏時間を実施している主要な国・地域とその実施時期
なお、夏時間に関しては、その他に、メキシコ、チリ、パラグアイ、イスラエル、イラン、シリア、パレスチナ等でも実施されている。

因みに、日本も連合国軍の占領期の1948年~1951年に夏時間を実施していた。中国、インド、ロシア等、過去に夏時間を実施していたが、現在は実施していない国・地域も多い。

まとめ

以上、今回は、世界の時差に関する話題について取り上げてきた。

一言で「時差」といっても、必ずしも機械的に定められているわけではなく、極めて政治的な要素が含まれている場合もある。ただし、実際にその標準時の地域に住んでいる人々にとっては、できれば「夏至の日に太陽が真上に来る時刻を正午にする」という考え方が、感覚にマッチしていると考えられることから、これに応じた標準時が設定されていくことが望まれることになる。

仮に、標準時が国内で統一的に設定されているというような理由で、それぞれの地域の実態に沿わない場合でも、実際の人々の生活は本来的な標準時に則った形で送られているようである。その意味では、標準時というのは、あくまでも「決めの問題」という一面もあるということなのかもしれない。
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(2022年08月12日「研究員の眼」)

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