2022年08月05日

人口減少下の財政問題-政府の借金をどう返すか

基礎研REPORT(冊子版)8月号[vol.305]

経済研究部 准主任研究員   高山 武士

少子高齢化 日本経済 などの記事に関心のあるあなたへ

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米テスラ社CEOのイーロン・マスク氏がツイッターで「当たり前のことを言うようかもしれないが、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」と述べたことが話題になった。

海外との流出入がなければ、出生数が死亡数を下回る国で人口が減り続けるというのは当たり前だが、そのような経済を想像することは良い頭の体操にもなる。

そこでこのコラムでは、海外とのやりとりがないとして人口減少下の日本が抱える財政問題を考えてみたい。財政問題とは、端的には日本政府の支出が収入を上回っているために、国債などの借入でその支出を賄っており、この借入額が増加し続けているという「問題」である。

政府が借入するためには貸してくれる相手が必要であるが、日本の場合は銀行などの金融機関が国債保有等を通じて貸している。また、金融機関の貸出原資は家計や企業の現預金などである。つまり、我々の預金が銀行を経由して、政府に貸されていることになる。

政府の歳出は、社会保障など行政サービスの提供や年金・給付金といった再分配にあてられる。したがって歳出、つまり政府の支出といっても、最終的には家計や企業がモノやサービスを購入するために使われている。

この歳出のうち税金で賄われる部分は間接的に利用者自身が払っていることになる。一方、借入で賄われる部分は家計や企業など利用者の借入ではなく、政府の借入として認識されている。

ただし、政府の借入といっても政府の運営者が(労働を増やすなどして)返済すべきものではない。政府の借入の解消は歳入を増やすか歳出を減らして、収支を黒字にしないと返済できない(借りをチャラにするという手段もあるが、その場合は貸している人、例えば、金融機関やその原資を提供している家計・企業が損失を被る)。

さて、人口減少が進む過程(厳密には少子高齢化が進む過程)では、「労働などを通じてモノやサービスを提供してお金を稼ぎ貯蓄をする世代」(貸す世代)が減り、「退職等でモノやサービスを利用する世代」(借りる世代、あるいは貸しを取り崩す世代)が増える。つまり、経済全体で見た個人の貸す力が減少することになる。

貸す力が減れば政府も借入規模を維持することが困難になる。人口が減少下では政府の行政サービスや再分配に対するニーズも減るため、借入規模が減少しても問題ないかもしれない。ただし、貸す力の減少スピードに比べて行政サービスや再分配に対するニーズが減るスピードが遅い場合は問題が生じる。この場合は政府が必要な借入規模を維持することが困難となるかもしれない。

また、政府の借入とは別の面で問題が生じる可能性がある。

人口減少の過程で少子高齢化が進み「労働などを通じてモノやサービスを提供する人」(生産をする人たち)が減り、「退職等でモノやサービスを利用する人」(消費をする人たち)の割合が相対的に増加した場合、消費力に対して生産力が維持できるかという問題が生じる。

この生産が需要に応じられるかという問題は、政府の借入とはまた別の問題であり、冒頭で言及した意味での財政問題とは異なるが、大きな課題である。政府が借入を続けられても、行政サービスを提供する人が不足したり、再分配されたお金で買うモノやサービスがなかったりすれば借りる意味がなくなってしまう。

実際には人口が急に減少するわけではないので、現実的な解決策としては、需要に応じられるだけの生産を確保するため、労働による生産性を徐々に上げていくことが必要となるだろう。また、「モノやサービスを提供し貯蓄をする人」(生産をする人たち)の割合をできるだけ増やすこと、つまり長く働き労働参加率を高めるといったことも解決策になる。

政府と言っても、それを運営しているのは国民(例えば公務員)であり、政府の借入でモノやサービスを享受するのも国民である。単純化すれば、どんな経済を見ても、国民がモノやサービス(行政サービスを含む)を生み出して、国民がそれらのモノやサービスを利用しているだけである。政府の借入を介していても結局、国民がモノやサービスを生み出して返さなければならない。

返済負担は、国民間でなるべく公平にすることが必要だが、すでに発生している借入の負担をなくすことはできない。この借入がすでにかなり積みあがっていることが財政の「問題」と言えるだろう。

それだけに成長戦略、とりわけ1人あたりの生産性を伸ばすこと、生産力を維持することが、人口減少に直面する国においては、ますます重要となっていくように思われる。
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経済研究部   准主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

(2022年08月05日「基礎研マンスリー」)

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