2021年05月12日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2020年決算数値等に基づく現状分析-

中村 亮一

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3|Generali
Generaliは、2016年11月26日に開催した「投資家の日(Investor Day)」において、現在事業展開している市場を、(1)既に一定のプレゼンスを有して、規模があり魅力的な市場(6~9市場)、(2)プレゼンスが十分でないが魅力的な市場(16~18市場)、(3)魅力的な市場でもなくプレゼンスも無い市場(13~15市場)、の3つに分類して、(3)については合理化を進めることを計画している、と述べていた。

さらに、2020年11月19日に開催された「投資家の日」のプレゼンテーションにおいて、資本配分の最適化を図るため、保有契約の生命保険ポートフォリオをさらに売却する可能性があることを述べていた。Generaliは、ここ数年Generali Lebenの株式のViridium Groupへの売却や保証利率水準の高いオランダやベルギーの事業等を売却してきており、主として保証水準の引き下げによって、さらなる生命保険事業の資本集約度の引き下げを目指してきている。

 (1)地域別の業績-2020年の結果-
Generaliは、欧州を中心に世界の50カ国程度で事業展開をしている。

各種の指標において、自国のイタリアに加えて、ドイツとフランスで高い構成比を有しているが、さらにその他の欧州における構成比も高いものとなっている。

欧州における生命保険と損害保険の市場シェア及びポジションについては、以下の通りとなっている。

・イタリア   : 生保16.9%(第1位)、損保13.9%(第2位)、生損保合算では第1位
・ドイツ    : 生保6.9%、損保5.1%、合算で第2位
・フランス   : 生保5.1%、損保4.7%(第8位)、傷害&医療7.5%(第5位)
・オーストリア : 生保14.9%、損保15.3%、合算で第3位
・ハンガリー    : 生保9.9%、損保18.4%、合算で第2位
・ポーランド  : 生保4.2%、損保4.8%、合算で第6位
・チェコ    : 生保22.6%、損保29.9%、合算で第2位
・スロバキア  : 生保9.5%、損保11.4%、合算で第3位

一方で、他の欧州大手保険グループとは異なり、欧州域外でのプレゼンスは現時点ではあまり高くない。

アジアでは、 中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ及びベトナムの8つの国と地域で保険事業を展開している。
保険事業の地域別内訳(2020年)
うち 欧州の主要国別内訳
(2)地域別の業績-2019年との比較-
2019年との比較では、全体で、保険料(生保)はほぼ横ばいだが、営業利益(生保)は16%のマイナス進展となった。

保険料(生保)は、ユニットリンク保険の21.7%(イタリアで58.0%、フランスで9.6%、ドイツで6.4%、ACEER(オーストリア、中東欧、ロシア)で4.5%)の増加、保障や医療におけるフランスでの提携による増加で、ドイツや従業員給付事業の低迷を補った。

営業利益(生保)は、投資結果の低下やスイスにおける保険契約者への保証のための準備金により、欧州で大きなマイナス進展となった。

一方で、新契約価値は、より収益性の高い商品への商品ミックスのリバランスや貯蓄・年金商品における金融保証の継続的な再調整の結果として、4%増加した。
保険事業の地域別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Generaliは、2020年に、以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2020年1月8日には、2019年7月に発表したポルトガルでのSeguradoras Unidasとサービス企業のAdvance Careの100%買収が完了した。この買収は、Generaliの欧州でのリーダーシップ強化を目指すグループの3カ年戦略を実行する上で重要なステップとなる、と述べている。

・2020年10月1日には、ポルトガルの100%所有の保険子会社全ての法的な合併のプロセスを終了したと発表した。

・2020年12月31日には、AXAのギリシャ子会社であるAXA Insurance S.A.の(2019年の収益の12.2倍に相当する1億6,500万ユーロでの)買収と、2040年までのALPHA BANKとのバンカシュアランス契約の延長により、ギリシャでのプレゼンスを強化すると発表した。この買収は、欧州でのリーダーシップを強化し、損害保険及び健康保険事業へのエクスポージャーをさらに拡大するというGeneraliの戦略に沿ったものであり、これにより、Generaliはギリシャの保険市場で主導的な役割を果たし、損害保険及び健康セグメント、また生命セグメントでの存在感を強化する、と述べている。
4Aviva
2019年3月にAvivaのグループCEOに就任したMaurice Tulloch氏は、複雑な事業体構成を見直し、より強い説明責任と経営の焦点化を図る観点から、英国の生命保険と損害保険事業を分割すると述べ、また、アジア事業の戦略的選択肢を検討していくと述べていた。また、これにより最大20億ドルの価値のある取引でアジア事業を売却すると想定されていた。その後、2020年7月にAmanda Blanc 氏がCEOに就任し、この戦略を引き継いだ形になっている。

Avivaは、これまで世界の十数カ国で事業展開し、英国、フランス、ポーランド、アイルランド、イタリア、カナダ、シンガポール、Aviva Investorsを8つの主要市場(Major markets)として位置付けていた。ただし、現在はポートフォリオを簡素化するための戦略として、英国、アイルランド、カナダの事業等のグループのコア市場(Core Markets)に焦点を置いた「持続可能で耐性力のある」方針を推進している。この戦略に従って、セグメントの管理も「英国&アイルランド(生命保険)」、「損害保険(英国&アイルランド&カナダ)、「Aviva Investors」及び「Manage-for-value」に区分している。英国、アイルランド、カナダ以外の事業は「Manage-for-value」で管理され、戦略的な目標を満たさない場合には撤退する方針を掲げている。この考え方に従って、Avivaは、後述のように、2020年には、アジアのシンガポールのマジョリティ、インドネシアや香港のジョイントベンチャー、ベトナム事業等の売却を完了している。さらに、2021年に入ってからもフランス、イタリア及びポーランドの事業の売却を発表している。

(1)地域別の業績-2020年の結果-
英国での生命及び貯蓄市場の市場シェアは23%(2020年9月末までの12か月ベース)で、英国で最大の保険会社となっている。また、アイルランドの生命保険の市場シェアは13%(2019年ベース)で第4位となっている。また、英国とアイルランドの損害保険の市場シェアは、それぞれ10%、13%(2019年ベース)となっている。さらに、カナダの損害保険は8%の市場シェア(2019年ベース)で第3位となっている。

Avivaの保険料、営業利益の9割程度は欧州からのものである。欧州では、英国&アイルランド(生保&医療)が保険料では35%だが、営業利益では67%を占めている。それ以外では英国&アイルランド(損保)、フランス、イタリア及びポーランドの構成比が高くなっている。

ただし、先に述べたように、フランス、イタリア及びポーランドの事業からは撤退することが発表されており、これらが完了すれば「Manage-for-value」の数値は有意なものでなくなることになる。
保険事業の地域別内訳(2020年)/うち 欧州の主要国別内訳
(2)地域別の業績-2019年との比較-
先に述べたように、Avivaは2020年に多くの事業を売却していることから、2019年との比較には注意が必要になっている。

2019年の数値を調整したベースでの比較では、保険料及び営業利益とも、カナダはプラス進展であったが、「英国&アイルランド」と「Manage-for-value」でのプラスとマイナスが相殺された形で、グループ全体ではともに減少した。なお、「Manage-for-value」の営業利益の増加は、主としてイタリアにおける管理資産の増加による手数料収入の増加と損害保険における良好な請求経験による、としている。

一方で、新契約価値は、「英国&アイルランド」において増加した。
保険事業の地域別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)
(参考)地域別ROEの状況
Avivaは、地域別のROEを開示しているが、IFRSベースでは、各地域で10%を超える高いROEを計上している。全体では12.8%で、2019年の13.4%からは若干低下した。
保険事業のIFRS ROE(資本収益率)の地域別状況
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Avivaは、2020年に、以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2020年3月6日には、インドネシアの合弁会社PT Astra Aviva Lifeの株式をAvivaの合弁パートナーであるPT Astra International Tbkに売却し、インドネシアから撤退することに合意したと発表した。この取引は2020年11月18日に完了した。

・2020年7月16日には、Friends Provident International Limited (FPIL)の、International Financial Group Limited (IFGL)の子会社であるRL360 Holding Company Limited (RL360)への売却を完了した。

・2020年9月11日には、Aviva Singaporeの過半数の株式をSingapore Life Ltd (Singlife)が率いるコンソーシアムに売却し、国内有数の保険会社の創設を支援することに合意した。この取引は、2020年11月30日に完了した。

・2020年11月23日には、イタリアの生命保険合弁会社であるAviva Vita SpAの80%の株式を、パートナーのUBI Bancaに、約4億ユーロの現金対価で売却することを発表した。この取引により、2020年6月30日現在のAvivaの純資産価値は1億2,000万ポンド増加し、AvivaのソルベンシーIIの資本剰余金は2億2,000万ポンド増加し、株主ベースでのソルベンシーII比率は約4%ポイント増加する。なお、この取引に関しては、2021年4月1日に完了したことが発表された。

・2020年12月10日には、香港の合弁会社であるAviva Life Insurance Company Limitedの全株式の合弁パートナーであるHillhouse Capitalへの売却を完了したことを発表した。

・2020年12月14日には、ベトナムでの完全所有の生命保険事業であるAviva Vietnam Life Insurance Company Limited(「Aviva Vietnam」)の全株式をManulife Financial Asia Limitedに売却することに合意した。この取引により、AvivaのIFRS純資産価値及びソルベンシーII剰余が約1億ポンド増加すると想定されている。この取引は、規制当局の承認を含む特定の完了条件の対象であり、2021年の後半に完了する予定である。

さらに、2021年に入ってからも、以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2021年2月23日には、フランス事業であるAviva FranceをAéma Groupeに32億ユーロで売却すると発表した。これにより、例えば、ソルベンシーIIの資本剰余金が約8億ポンド増加し、ソルベンシーII比率は約22%ポイント増加する、としている。

・2021年2月24日には、トルコでの合弁事業であるAviva SA Emeklilik ve Hayat AS(「Aviva SA」)の40%の株式を、1億2,200万ポンドの現金対価で、Ageas Insurance International NVに売却することに合意した。この取引により、AvivaのIFRS純資産価値及びソルベンシーII剰余金が約1億ポンド増加すると想定されている。この取引は、規制当局の承認を含む通常の完了条件の対象であり、2021年に完了する予定である。

・2021年3月4日には、イタリアにおける生命保険及び損害保険事業であるAviva Italyを8億73百万ユーロで(生命保険事業をCNP Assurancesに5億43百万ユーロで、損害保険事業をAllianzに3億30百万ユーロで)売却することを発表した。この取引により、ソルベンシーIIの資本剰余金が約2億ポンド増加し、ソルベンシーII比率が約7%ポイント増加すると想定されている。

・2021年3月26日には、Aviva Poland の全株式を25億ユーロの現金対価でAllianzに売却することを発表した。
5Aegon
Aegonは、現在、自国のオランダや英国を中心とする欧州と、米国、ブラジルを中心とする米州が2大地域となっている。

Aegonは、これまで世界の20カ国以上で事業展開してきたが、例えば2010年から2017年までに4カ国の保険事業から撤退し、さらに、2018年にはAegon Ireland の売却、米国の生命保険再保険事業の最後のブロックの売却、チェコとスロバキアの事業売却(2019 年 1 月 8 日に完了)を行ってきた。2019年には日本における変額年金ジョイントベンチャーの 50%持分をそのパートナーであるSony Lifeに売却(2020 年 1 月 29 日に完了)した。さらに、2020年に入ってからも、後述するように、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコでの保険、年金、資産管理事業の売却を発表する等、Aegonが主導的なポジションを得ることができる市場に焦点を当てるという観点から、積極的な対応を行ってきている。

(1)地域別の業績-2020年の結果-
営業利益では、自国のオランダの構成比が38%、英国を中心としたその他の欧州等が18%で、米国及び中南米からなる米州の構成比が47%と他の欧州保険グループに比較して、極めて高くなっている。

Transamericaのブランドを中心とする米国子会社のAegon USA Groupは、2020年末の認容資産で、生命保険・健康保険グループで第12位(2019年末は第11位)となっている。

なお、損害保険事業は、欧州で展開しているが、その全体における位置付けは高くない。
保険事業の地域別内訳(2020年)
うち 欧州の主要国別内
(2)地域別の業績-2019年との比較-
2019年との比較では、全体では、保険料及び営業利益とも2桁の減少となった。

地域毎に見た場合、保険料は各地域で減少している。

米国において、COVID-19による直接的及び間接的な影響(死亡率の増加や低金利)に加えて、生命保険や介護保険(LTC)の準備金のための前提の更新(利率の引き下げ等)の影響により、営業利益が大きく減少した。

新契約価値については、全体で44%と大きく減少した。
保険事業の地域別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)
(参考)地域別のROE
なお、Aegonは、地域別のROEを開示しているが、その状況は以下の図表の通りとなっている。
保険事業のROC(Return on Capital)の状況
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Aegonは、2020年に、以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2020年10月9日には、英国を拠点とする傷害保険商品のプロバイダーであるStonebridgeを英国の仲介及び引受グループであるEmbignellの一部門に約6000万ポンド(6500万ユーロ)で売却する予定であると発表した。この取引は、Aegonの資本ポジションと結果に重大な影響を与えることはない、としていた。なお、この取引は、2021年3月1日に完了した。この取引は、事業ポートフォリオを積極的に管理し、魅力的な資本利益率の可能性が高く、Aegonが成長に適したポジションにある事業に資本を割り当てるという会社の戦略に沿ったものである、と述べていた。

・2020年11月29日には、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコでの保険、年金、資産管理事業をウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)に8億3,000万ユーロで売却することに合意した、と発表した。この取引により、IFRS資本が505百万ユーロ増加し、ソルベンシーII比率は約8%ポイント増加すると想定されていた。この取引は、この種の取引に慣習的な規制及び独占禁止法の承認の対象であり、2021年の後半に完了する予定である、と述べていた。ただし、この取引に関して、2021年4月7日に、VIGは、ハンガリー内務省がハンガリーのAegon企業の外国投資家による意図的な買収を拒否すると発表した法令を受け取ったと発表した。
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中村 亮一

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