2021年02月05日

2021年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.287]

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(執筆時点1月15日)

2021年初の金融市場では、先行きへの楽観が強まり、株価が連日で高値を更新する展開となった。また、じわりと進んできた円高もとりあえず一服した。ただし、内外情勢の先行き不透明感は引き続き強い。

1―2020年はコロナと政策効果で激動

まず、昨年の市場の動きを振り返ると、ドル円レートは年初に円安に振れた後、3月に新型コロナの拡大に伴う世界経済の失速とFRBの利下げを受けて急落し、一時1ドル101円台まで円高が進んだ(図表1)。しかし、その直後には流動性確保のために国際決済通貨であるドルを求める動きが広がり、111円台に急騰するなど乱高下した。春以降はFRBによるドルの大量供給と金融緩和の長期化表明、米財政赤字拡大を受けてドル売りが優勢となり、年末にかけて103円台まで円高が進んだ。
[図表1]ドル円相場と株価(2020年~)
一方、日本株(日経平均株価)は年初に24000円台に乗せた後、3月に新型コロナ拡大に伴う世界経済失速と円高によって急落し、一時は17000円を割り込んだ。春以降は、主要国で経済活動の再開が進んだうえ、何より各国政府・中央銀行による未曽有の規模の財政出動と金融緩和の強力なポリシーミックスが投資家心理の改善を通じて株価の強い追い風となった。さらに、年終盤にはコロナワクチンの開発が進んで欧米で接種が開始されたこと、米大統領選で大規模な財政出動を掲げるバイデン氏が勝利を確実にしたことも好感され、約30年ぶりに27000円台を回復した。2020年は多くの材料があったが、「新型コロナとその政策対応を受けて激動した一年」と総括できる。

2―2021年はどんな年?

それでは、2021年は金融市場にとってどのような年になるだろうか?内外の注目材料を点検してみる。
(1)世界共通:コロナ感染収束の可否
まず、世界共通かつ最重要のテーマとなるのは「新型コロナ感染収束の可否」だ。現在も、主要国では感染の拡大が続いているが、感染収束のための最大のカギはワクチンとなる。ワクチンの普及によって集団免疫が獲得できれば、感染収束に伴う経済活動の正常化が期待できる。

昨年末以降、欧米等でワクチンの接種が始まっているが、まだ安心はできない。ワクチンの有効性や持続性、大きな副作用の有無については、今後明らかになってくる。また、先行する一部のワクチンは取扱いが難しいこともあり、普及が遅延する恐れもある。

こうした課題をクリアして、早期に有効なワクチンの普及が進むかどうかが注目される。
(2)海外材料
次にコロナ以外の材料に目を転じよう。(図表2)
[図表2]2021年の主なスケジュール(見込み)
1) 米国:バイデン新政権とFRB
まず、米国ではバイデン新政権の政策運営が問われることになる。新政権に率先して求められるのは少なくとも当面は続くコロナ禍における景気の下支えだ。市場は早期の追加経済対策を織り込んでおり、その実現性や規模が焦点となる。

また、公約に掲げていた各種政策の実現に向けた取り組みもテーマになる。特に2兆ドルの環境・インフラ投資(株価上昇要因)や増税・規制強化(株価下落要因)、米中対立(緩和なら株価上昇要因)の行方が注目される。

なお、これに関連して、1月5日に実施されたジョージア州上院決選投票で民主党が勝利し、トリプルブルー*が実現した。この結果、新政権は政策を進めやすくなる。ただし、上院はぎりぎりの過半数に過ぎないうえ、党内に極端な意見を持つ急進左派を抱えることから、一筋縄ではいかないだろう。

また、今年はこれまで世界的に株価を支えてきたFRBの大規模緩和の持続性にも注目が集まる。米国の物価上昇率が2%を大幅に下回るなか、FRBは当面2%を上回る物価上昇を許容する方針を示していることから、利上げ再開が数年先の話になる点は疑いがない。しかし、現在の大規模な量的緩和をいつまで続けるか(いつから縮小を始めるか)については不透明だ。
 
* 大統領に加え、上院と下院の過半数を民主党が占めることを示す
2) 欧州他:独選挙と地政学リスク
欧州の注目材料は9月に予定されているドイツの総選挙だ。同選挙をもって、メルケル首相は長きにわたって務めてきた首相の座から退くことを表明済みだ。同氏はドイツのみならず、EUの中心的な指導者としての役割を担ってきただけに、退任の影響は軽視できない。ドイツ・EUの政治の安定が保たれるか、後任人事が重要になる。

その他地域では、北朝鮮や中東の地政学リスクが注目される。北朝鮮の金委員長はトランプ米大統領と個人的に良好な関係を築いてきたが、同氏の退任に伴ってリセットされることになる。バイデン新政権の姿勢や対応次第で北朝鮮指導部がミサイル発射実験等の示威行為を再開し、市場が緊迫化する恐れが出てくる。

また中東では、イランと米国の関係が注目材料になる。バイデン新大統領はイラン核合意への復帰を模索している。仮に復帰によって米国による制裁が緩和されれば、イランと米国の対立は緩和するだろう。ただし、その際にはイランを敵視するイスラエルやサウジアラビアなどが警戒姿勢を強め、中東の緊迫感が高まる可能性がある点には留意が必要になる。
(3)国内材料:菅政権と総選挙
金融市場は海外の影響を強く受け、国内材料は副次的な存在となってきたが、菅政権の政権運営は注目点だ。政権はかつてコロナの感染抑制と経済の両立を目指してきたが、後者に力点を置きすぎたためか、昨年終盤から感染が急拡大した。このため緊急事態宣言を再発令し、経済活動の制約を強めざるを得なくなっている。従って、今後は早期に感染を抑制して経済活動を再開し、両者の最適なバランスを保つことができるかが問われる。また同時にこれまで打ち出したデジタル化や温暖化対策などで実現に向けた取り組みを着実に進めていけるかもポイントになる。

上記に関連して、任期末である10月下旬までに行われる衆議院選挙も大きな材料になる。現在自民党は単独で議席全体の6割、公明党と合わせた与党として2/3を確保しており、これが政治の安定や政策推進力の下地になってきた(図表3)。与党での過半数割れは距離があるため考えにくいが、自民党が大幅な議席減に追い込まれるような事態となれば、政治の安定に対する懸念から円高・株安に振れる可能性が高い。菅政権の支持率はコロナへの対応などを巡って急落していることから、早急に立て直せるかがカギになる。
[図表3]衆議院 会派別議席数

3―メインシナリオと下振れリスク

以上、今年の注目材料を見てきたが、最も重要な材料は世界経済を左右する「コロナ感染収束の可否」となる。

メインシナリオとしては、ワクチンの普及や知見の蓄積によって、感染が次第に収束に向かうと見ている。そうなれば内外経済活動も正常化に向かうと見込まれ、株価の追い風になる。また、経済が正常化に向かうなかでもFRBをはじめ主要国中銀が大規模な緩和を維持すると見込まれることも株価の支援材料になる。米大統領選の翌年は米株価が比較的上昇しやすいという経験則もある。年間を通じた方向感は「上昇」と予想している。

ただし、これまでの急速な株価上昇によって、内外株価のPER(株価収益率)は大幅に上昇しており、割高感が高まっている。来年以降の景気回復を先んじて織り込んだ形となっているため、日本株の上値は限られそうだ。

また、ワクチンをはじめ、新型コロナを巡る不確実性は明らかに高いため、ワクチンへの期待後退といった下振れリスクへの警戒は怠れない。さらに、米国経済が思いのほか順調に回復した場合にも新たなリスクが浮上する。米量的緩和の年内縮小開始は考えにくいものの、縮小への地ならしが始まるだけで、内外株価の逆風になるだろう。

ドル円については、日米ともに金融政策の大幅な変更が見込まれないうえ、円もドルもともに安全通貨とみなされ、多くの通貨に対して同方向に動く傾向が強まっていることから、大幅な変動は見込まれない。そうした中、米国の経済活動が正常化に向かうことで米金利がやや上昇すると見込まれることは円安ドル高材料になるだろう。米国の大規模な財政赤字と金融緩和がドルの余剰感を通じてドルの上値を抑えるものの、円安方向への緩やかな調整が入ると見ている。次第に1ドル105ー110円のレンジへと回帰していくと予想している。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年02月05日「基礎研マンスリー」)

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