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- 活発化する世界のスタートアップへの投資~増加するSPACを通じた株式市場への上場
2020年11月09日
1――回復に向かうスタートアップによる資金調達
各国中央銀行による大規模な金融緩和や、金融市場の安定化を背景に世界のベンチャー投資は回復に向かっている。本稿では、2020年7-9月期のベンチャー投資の動向について見ていきたい。
図表1は世界のスタートアップによる資金調達の推移を示している。これを見ると、2020年第三四半期の世界のスタートアップの資金調達は756億米ドルと、2020年第二四半期の549億米ドルから大幅に増加している。コロナ禍により経済が低迷する中でも、将来に向けたスタートアップへの投資が活発に行われていることが分かる。
国・地域別の調達金額について見ると、米国が361億米ドル、中国が152億米ドル、イギリスが49億米ドル、インドが52億米ドル、日本が10億米ドルなどとなっており、米国や中国、インドでの資金調達が増加している。インドではホテル事業を行うOYO(オヨ)など多数のスタートアップが成長しており、米国、中国に次ぐ市場として期待されている。
図表1は世界のスタートアップによる資金調達の推移を示している。これを見ると、2020年第三四半期の世界のスタートアップの資金調達は756億米ドルと、2020年第二四半期の549億米ドルから大幅に増加している。コロナ禍により経済が低迷する中でも、将来に向けたスタートアップへの投資が活発に行われていることが分かる。
国・地域別の調達金額について見ると、米国が361億米ドル、中国が152億米ドル、イギリスが49億米ドル、インドが52億米ドル、日本が10億米ドルなどとなっており、米国や中国、インドでの資金調達が増加している。インドではホテル事業を行うOYO(オヨ)など多数のスタートアップが成長しており、米国、中国に次ぐ市場として期待されている。
2――電気自動車、オンラインサービス関連のスタートアップが資金を調達
図表2を見ると、電気自動車(Electric vehicle:EV)関連のスタートアップによる資金調達が多かった。米国のRivian Automotiveや中国のWM Motor Technology、Guangzhou Xiaopeng Motors Technology、China Evergrande New Energy Automobileがこれに該当する。EVの生産・開発に活発に出資が行われていることが分かる。
従来の自動車メーカーや、新興EVメーカーがEVの製造や関連技術で多種多様の開発を競っている。その中でも車載用電池の研究・開発が極めて重要となっている。車載用電池は、航続距離などEVの性能や価格に大きく影響する。また、EVの生産のために、車載用電池の安定した供給の確保も重要となっている。
今年1月、ドイツ大手自動車メーカーのダイムラーは同社の電気自動車「メルセデス・ベンツ・EQC」の生産目標を6万台から3万台に引き下げた。同社は、これについて車載用電池を十分に調達出来なかったためとしている1。EV生産の増加により、車載用電池の確保が難しくなっていることが背景となっている。こうしたことから、車載用電池の調達先の安定的確保と並行して、テスラなど一部のメーカーは車載用電池の製造を内製化し始めている。
テスラは米国のマックスウェル・テクノロジーズの買収や自社工場の建設など車載用電池の研究開発を継続して進めている。今年9月に開催された同社のイベント「バッテリー・デイ」では、車載用電池の性能向上や製造コストを半減するなどの目標を公表2、これにより競争優位性を強化していくと見られる。従来の自動車メーカーでも、十分な研究開発や投資を行わなければ、EVの製造技術や安定的な生産において、新興企業などに遅れをとる可能性があるだろう。
2020年7月、テスラの時価総額がトヨタを上回った。これには様々な見方があるが、将来的に自動車製造の主要企業やシェアは大きく変化するかもしれない。
電気自動車関連以外では、2020年7-9月期はインドのFlipkart Online Services などEコマースやオンライン教育などオンラインサービス関連のスタートアップによる資金調達も多かった。Flipkart Online ServicesはインドのEコマース最大手であり、米国の小売大手ウォルマートなどが出資している。コロナ禍により、オンラインサービスの活用が進む中で、こうしたスタートアップの成長が期待される。
1 ロイター通信 「Mercedes halves EV production target due to battery shortage - Manager Magazin」 2020年1月23日 https://in.reuters.com/article/daimler-electric-eqc/mercedes-halves-ev-production-target-due-to-battery-shortage-manager-magazin-idUSL8N29S3HR
2 テスラ 「2020 Annual Meeting of Stockholders and Battery Day」 2020年9月22日https://www.tesla.com/ja_jp/2020shareholdermeeting
従来の自動車メーカーや、新興EVメーカーがEVの製造や関連技術で多種多様の開発を競っている。その中でも車載用電池の研究・開発が極めて重要となっている。車載用電池は、航続距離などEVの性能や価格に大きく影響する。また、EVの生産のために、車載用電池の安定した供給の確保も重要となっている。
今年1月、ドイツ大手自動車メーカーのダイムラーは同社の電気自動車「メルセデス・ベンツ・EQC」の生産目標を6万台から3万台に引き下げた。同社は、これについて車載用電池を十分に調達出来なかったためとしている1。EV生産の増加により、車載用電池の確保が難しくなっていることが背景となっている。こうしたことから、車載用電池の調達先の安定的確保と並行して、テスラなど一部のメーカーは車載用電池の製造を内製化し始めている。
テスラは米国のマックスウェル・テクノロジーズの買収や自社工場の建設など車載用電池の研究開発を継続して進めている。今年9月に開催された同社のイベント「バッテリー・デイ」では、車載用電池の性能向上や製造コストを半減するなどの目標を公表2、これにより競争優位性を強化していくと見られる。従来の自動車メーカーでも、十分な研究開発や投資を行わなければ、EVの製造技術や安定的な生産において、新興企業などに遅れをとる可能性があるだろう。
2020年7月、テスラの時価総額がトヨタを上回った。これには様々な見方があるが、将来的に自動車製造の主要企業やシェアは大きく変化するかもしれない。
電気自動車関連以外では、2020年7-9月期はインドのFlipkart Online Services などEコマースやオンライン教育などオンラインサービス関連のスタートアップによる資金調達も多かった。Flipkart Online ServicesはインドのEコマース最大手であり、米国の小売大手ウォルマートなどが出資している。コロナ禍により、オンラインサービスの活用が進む中で、こうしたスタートアップの成長が期待される。
1 ロイター通信 「Mercedes halves EV production target due to battery shortage - Manager Magazin」 2020年1月23日 https://in.reuters.com/article/daimler-electric-eqc/mercedes-halves-ev-production-target-due-to-battery-shortage-manager-magazin-idUSL8N29S3HR
2 テスラ 「2020 Annual Meeting of Stockholders and Battery Day」 2020年9月22日https://www.tesla.com/ja_jp/2020shareholdermeeting
3――増加するSPACを通じた株式市場への上場
コロナ禍の中でも、ベンチャー投資は活発に行われているが、既に過熱感があるのかもしれない。その一つの兆候として見られるのが、SPAC(Special Purpose Acquisition Company: 特別買収目的会社、「スパック」と読む)の増加だ。通常、取引所への上場はIPO (Initial Public Offering: 新規株式公開)によって行われる場合が多い。しかし、近年、米国株式市場ではIPOに替わってSPACを通じたスタートアップの上場が増加している。
SPACは、主に未公開企業の買収を目的とした投資ビークルである。SPAC自体は実際の事業を持たないが、企業を買収することを約束し、IPOにより株式市場から資金を調達する。その後、調達した資金を用いてスタートアップなど未公開企業の買収を行う。SPACはブランク・チェック・カンパニー(白紙小切手の会社)とも呼ばれている。
図表3はSPACのIPOの件数・調達金額の推移を示している。これを見ると、2020年第三四半期の件数は80件と、2020年第二四半期の23件から4倍程度まで急増していることが分かる。金融緩和による株高やスタートアップのIPOへの投資が人気を集めていることがSPACへの投資資金流入の背景となっている。
SPACは個人投資家も少額の資金からスタートアップへの投資を行いやすくなるメリットがある。また、資金を調達する側にとってもIPOよりも速やかに資金調達を行え、コストや株式の希薄化を抑えられるとといったメリットがある。しかし、投資家がSPACに投資する段階では、実際の投資先企業は分からないといったリスクがある。こうしたリスクが指摘されながらも、SPACのIPOが急速に増加している現状には、注意が必要かもしれない。
SPACは、主に未公開企業の買収を目的とした投資ビークルである。SPAC自体は実際の事業を持たないが、企業を買収することを約束し、IPOにより株式市場から資金を調達する。その後、調達した資金を用いてスタートアップなど未公開企業の買収を行う。SPACはブランク・チェック・カンパニー(白紙小切手の会社)とも呼ばれている。
図表3はSPACのIPOの件数・調達金額の推移を示している。これを見ると、2020年第三四半期の件数は80件と、2020年第二四半期の23件から4倍程度まで急増していることが分かる。金融緩和による株高やスタートアップのIPOへの投資が人気を集めていることがSPACへの投資資金流入の背景となっている。
SPACは個人投資家も少額の資金からスタートアップへの投資を行いやすくなるメリットがある。また、資金を調達する側にとってもIPOよりも速やかに資金調達を行え、コストや株式の希薄化を抑えられるとといったメリットがある。しかし、投資家がSPACに投資する段階では、実際の投資先企業は分からないといったリスクがある。こうしたリスクが指摘されながらも、SPACのIPOが急速に増加している現状には、注意が必要かもしれない。
4――まとめ
本稿では、2020年7-9月期のベンチャー投資の動向を調べた。世界のスタートアップによる資金調達は増加傾向にあり、コロナ禍により経済が低迷する中でも、将来に向けたスタートアップへの投資が活発に行われている。
しかしながら、米国において、SPACのIPOが急増するなど、スタートアップへの投資は、過熱感があるのかもしれない。SPACへの投資は、投資家がSPACに投資を行う時点では、実際の投資先企業は分からないといったリスクがある。しかしながら、SPACは個人投資家がスタートアップへ投資する機会を得られる。また、スタートアップの側から見ても上場手段の多様化といった利点があり、今後の動向が注目される。引き続き、世界のベンチャー投資の動向に注目していきたい。
しかしながら、米国において、SPACのIPOが急増するなど、スタートアップへの投資は、過熱感があるのかもしれない。SPACへの投資は、投資家がSPACに投資を行う時点では、実際の投資先企業は分からないといったリスクがある。しかしながら、SPACは個人投資家がスタートアップへ投資する機会を得られる。また、スタートアップの側から見ても上場手段の多様化といった利点があり、今後の動向が注目される。引き続き、世界のベンチャー投資の動向に注目していきたい。
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(2020年11月09日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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