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欧州保険会社が2019年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-
中村 亮一
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グループSFCRで使用される言語については、委任規則(EU) 2015/35の第360条に規定されている。
これによると、その第1項で「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、グループSFCRをグループ監督当局が定めた言語で開示するものとする。」と規定されている。ただし、第2項において「監督カレッジが複数の加盟国の監督当局から構成されている場合、グループの監督当局は、関連する監督当局及び当該グループと協議した後、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社に対して、監督カレッジでの合意により、第1項に言及された報告書を、関係する他の監督当局によって最も一般的に理解される別の言語で開示することを要求できる。」としている。さらに、第3項において、「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社の保険及び再保険子会社のいずれかが、その公用語が第1項及び第2項の適用によってSFCRを開示している言語と異なっている加盟国に本店を有する場合、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、当該報告書の要約を当該加盟国の公用語に翻訳しなければならない。」と規定されている。
この規定に基づいて、例えば、欧州大手保険グループ5社は、そのグループSFCRについて、基本的には自国語版や英語版を作成している。さらに、AXA、Allianz、Generali等は、グループSFCRの要約について、保険子会社が存在する加盟国の公用語に翻訳したバージョンを公表している。なお、5社以外の会社でも、英語版を平行して作成したり、当初は自国語版のみを公表して、後ほど英語版をWebサイトで公表している会社もある。
一方で、単体のSFCRについては、基本的には当該単体の管轄地域の言語だけの対応となっている。ただし、欧州大手保険グループ5社については、一部の主要単体会社や主要国でない場合等についても、英語で作成しているケースもある。
具体的な各社の状況として、例えば以下の通りとなっている。
AllianzはグループのWebサイトで、グループの構成会社のうちの13の単体のSFCRを公表しているが、そのうちの2社(Allianz Insurance plc(英国)とEuler Herms(ベルギー))のみが英語版となっている。英語圏以外では、ベルギーの子会社が自国以外の言語の英語で作成していることになり、その他は子会社の監督当局の本拠地の国の言語のみで作成されている。従って、主要な単体保険会社であるAllianz SEについてもドイツ語版のみとなっている。また、要約版については、英語・ドイツ語圏以外で、子会社が本店を置くEU加盟13カ国の公用語で作成しているが、それぞれ1ページ程度の内容である。
GeneraliはWebサイトで17の単体のSFCRを公表している。2016年においては、Ceská pojištovna A.S.(チェコ)が英語で作成されていたが、2017年以降は当該会社を含めて、管轄地域の言語でのみ作成されている。また、単体の親会社のAssicurazioni Generali S.p.A.について、2018年まではイタリア語版だけでなく、英語版も作成していたが、2019年はイタリア語版のみとなっている。また、要約版については、英語とイタリア語以外では、子会社が本店を置くEU加盟13カ国の公用語で作成しているが、Allianzとは異なり、それぞれ6ページ程度の紙面を費やしている。
AXAの場合、要約版について、英語・フランス語圏以外で、子会社が本店を置く全てのEU加盟8カ国の公用語で作成しているが、それぞれ1ページの内容である。
グループ会社において、その構成会社である全ての単体のSFCRが当該単体の管轄地域の言語で作成されているというわけでもないが、当該市場において一定の市場シェアを有する会社の場合には、当該監督当局から、当該国の言語で作成することを要請されることになっており、こうした傾向が反映されている。
ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(年次QRTs)の報告については、SFCRの附属資料としている会社と別途資料としている会社がある。
年次QRTsは、SFCRに提示された情報を補完し、2―2|で述べたように、国別や事業別の貸借対照表項目、保険料、保険金請求及び事業費、技術的準備金、自己資本及びソルベンシー資本要件の金額、長期保証措置と移行措置の適用による影響等を明らかにしている表で構成されている。
SFCRについては、監査を強制されているわけではない。ただし、EIOPAは監査を推奨し、いくつかの国の監督当局は監査の必要性を強く主張している。
こうした状況下で、今回のSFCRでの欧州大手保険グループ5社の対応は分かれている。具体的には、AXA、Generali、Aviva については、独立監査人による監査報告書(例えば、GeneraliはEYによる6ページの監査報告書)をSFCRの附属資料として添付しているが、AllianzとAegonのSFCRには添付されておらず、AegonはSFCRの内容については、監査対象外である旨の記載を行っている。こうした状況は前年度までと同様である。
独立監査人による監査を、品質管理の一環として利用するとのスタンスを有している会社もあれば、重要かつ堅実な社内レビューを通じてチェックを行っているとのスタンスの会社もある。
監査を行う場合、監査が困難又は不可能な技術的な手法等の使用が制約を受けるとともに、説明のために内部情報の開示の必要性が高まることになる。
SFCRは、その趣旨からして、できる限り保険契約者や投資家等が理解できるものを提供していくことが求められている。こうした観点から、多くの会社が、用語集を付け加えて、複雑な専門用語の説明を行っている。さらには、テキストや図表を積極的に使用して、読者にわかりやすいものを目指している会社もある。ただし、補足的な情報や解説については、限定的で、基本的な要件だけを満たしている会社が多い。
4―2020年のソルベンシーIIレビューにおけるSFCR改正の動き
EIOPA(欧州保険年金監督局)は、現在2020年のソルベンシーIIレビューの検討を進めているが、2019年7月12日には、監督上の報告及び公衆開示に関するCP(コンサルテーション・ペーパー)を公表2している。この中で、SFCRの見直しについても、これまでの利害関係者等からの意見を踏まえて、いくつかの提案を行っている。その概要については、保険年金フォーカス「EIOPAが監督上の報告と公衆開示の比例性向上に関するCPを公表-2020年のソルベンシーII改革に向けた動き-」(2019.8.26)で報告した。
6.ソルベンシー財務状況報告書
51.公衆開示要件に関して、目的適合分析は、専門家と非専門家の読者の異なるレベルの専門知識を考慮して、会社が様々な利害関係者の情報ニーズに合わせて公開しなければならない情報を調整する必要性を特定した。保険契約者に関心を持たせるために、情報の範囲は短く、読みやすく、しかしソルベンシーIIの関連分野に対処している必要がある。一方、SFCRのプロの読者は、一部の領域で現在提供されている情報よりも少ない情報を必要とし、他の領域でより詳細で構造化され調和した情報を必要とし、より厳しいテキストに対処できる。
52.このレビューでは、SFCRのアクセシビリティとユーザビリティも改善の恩恵を受ける可能性があることがわかった。
53. EIOPAは、保険契約者向けの情報を含む短いセクションをSFCRに含めることを提案している。SFCRの2番目のセクションは、現在の形式に従い、プロの読者のみを対象とする必要がある。
54.プロの読者の情報ニーズとの整合性を高めるために、SFCRに現在必要な情報の一部、例えばガバナンスのシステムに関する詳細情報は、RSR(Regular Supervisory Reporting:定期監督報告)に移動できる。これは、RSRが現在SFCRと同じ情報を含むが、より詳細なRSRとの重複の解消に貢献する。
55.ただし、プロの読者は、開示された情報に重要なギャップがあることも確認した。これは、関連する完全な定量的情報を含めることを意味する。これには、追加のQRT及びSCR感応度に関するナラティブ情報及び年間の自己資本変動が含まれる。比較可能性を改善するには、可能な限りグラフや表などのより構造化された形式を使用する必要がある。
56. EIOPA提案には、一般向けの全てのSFCRへの集中アクセスを提供するために、中央リポジトリを確立する計画とともに、SFCRのテキストとQRTが機械可読で処理可能である必要がある。この提案の技術的な詳細は、今年の後半に行われる協議の第2波で公に相談される。
57.提案は、更新ではなく公開されたSFCRの修正がいつ必要であり、そのような正誤表がどのような形をとるべきかに関する規制をさらに求めている。
なお、2020年のソルベンシーIIレビューに向けての検討の中で「報告と開示」については、2019年10月15日の「ソルベンシーIIの2020年レビューにおける技術的助言に関するコンサルテーション・ペーパー」3の中でも、「定期監督報告(RSR)」と「グループの報告及び開示」の問題が取り上げられていた。さらには、2020年2月5日には「ソルベンシーII監督報告及び公開開示に関するパッケージの技術的実施措置のレビューに関するコンサルテーション・ペーパー」4の中でも技術的な課題が取り上げられていた。それぞれのCPに対する利害関係者からのフィードバックの期限は、前者が2020年1月15日、後者が2020年6月1日(元々は2020年4月20日だったものを新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、延期)となっていた。
欧州の保険業界団体であるInsurance Europe(保険ヨーロッパ)は前者のCPに関連して、欧州委員会に意見提出を行ったが、さらには、欧州保険会社のCFO及びCROの集まりであるCFO Forum及びCRO Forumと共同で、2020年1月15日に先の「報告と開示」の項目を含めたEIOPAからのCPに対する意見を提出5している。この内容についても、保険年金フォーカス「EIOPAのソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPに対する反応-欧州保険業界団体等からの意見-」(2020.4.27)で報告している。その中で、SFCRについては、以下のように述べている。
(2)SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)
・業界は、グループSFCRの翻訳要件が撤廃されたことを歓迎する。
・新しい監査要件に対する提案に強く反対する。
・この協議文書全体に広がっている様々な報告・開示提案の追加は支持しない(VA、LTG措置に関するリスク管理/開示規定、最良推計及び補外)。
・SFCRは、非常に短い単純な保険契約者区分とナラティブのための何らの要件がない公開QRTsデータの単純なデータ抽出のみで構成されるように簡素化すべきである。
EIOPAは、これらのCPに対する利害関係者等からの意見を踏まえて、今後見直しを行っていくことになっており、2020年12月末までに、欧州委員会に見直しに関する助言を提出することになっている。
2 News:https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-consults-on-increased-proportionality-of-supervisory-reporting-and-public-disclosure.aspx
CP(カバーノート):https://eiopa.europa.eu/Publications/Consultations/EIOPA-BoS-19-304_Cover%20Note_2020%20Review%20Reporting_Disclosure.pdf
3 EIOPAによる公表
https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-consults-on-technical-advice-for-the-2020-review-of-Solvency-II.aspx
協議ペーパー
https://eiopa.europa.eu/Publications/Consultations/EIOPA-BoS-19-465_CP_Opinion_2020_review.pdf
4 EIOPAによる公表https://www.eiopa.europa.eu/content/review-technical-implementation-means-package-solvency-2-supervisory-reporting-and-public
協議ペーパー
https://www.eiopa.europa.eu/sites/default/files/publications/consultations/consultation-paper-review-technical-implementation-means-for-the-package-onsolvency2.pdf
5 https://www.insuranceeurope.eu/solvency-ii-review-eiopa-draft-advice-must-focus-far-more-areas-mandated-ec
https://www.insuranceeurope.eu/sites/default/files/attachments/Response%20to%20consultation%20on%20EIOPA%E2%80%99s%20second%20set%20of%20advice%20to%20EC%20on%20Solvency%20II%20review.pdf
5―まとめ
次回以降のレポートで、欧州大手保険グループ各社の2019年のSFCRから一部の項目(長期保証措置と移行措置の適用による影響、内部モデルと標準式の差異等)を抜粋して報告する。
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中村 亮一
研究・専門分野
(2020年07月01日「保険・年金フォーカス」)
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