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欧州保険会社が2019年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-
中村 亮一
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1―はじめに
これらの報告書については、これまでの4年間も保険年金フォーカス等で報告してきた。例えば2018年のSFCRについては、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2018年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)~(4)」(2019.7.1~2019.7.22)及び基礎研レポート「欧州保険会社の内部モデルの適用状況(標準式との差異)-2018年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)からのリスクカテゴリ毎の差異説明の報告-」(2019.7.29)(以下、「以前のレポート」と呼ぶ)で報告した。
各社が公表した2019年のSFCRについては、まずは、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(3)」(2020.6.15)において、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が保険会社に与える影響に関してのSFCRにおける記述内容に絞って紹介した。
今後複数回のレポートで、それ以外のSFCRの概要について報告していくが、まずは、今回のレポートでは、SFCRの全体的な状況について報告する。次回以降のレポートで、欧州大手保険グループのSFCRから一部の項目(長期保証措置と移行措置の適用による影響、内部モデルと標準式の差異等)を抜粋して報告する。
2―SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)とは
SFCRは、ソルベンシーII制度の下で、パブリック・ディスクロージャー資料として、一般に公開される資料であり、まさに、ソルベンシーと財務状況についての詳細な内容をまとめた報告書である。
SFCRの内容や構造については、ソルベンシーII指令2009/138/ECの第51条~第56条、委任規則(EU) 2015/35の第290条~第298条等に規定されている。
これによれば、SFCRの項目は、以下の通りとなっており、
A.ビジネスとパフォーマンス
B.ガバナンス制度
C.リスクプロファイル
D.ソルベンシー目的のための評価
E.資本管理
に関する記述が求められる。
SFCRでは、これらの項目に関する定性的かつ定量的な情報が記載される。また、記載内容については、(1)年度末の状況と前期間と比較しての重要な変化の分析、(2)評価についてはソルベンシーIIベース、いくつかの要素については財務諸表ベース、(3)資産、技術的準備金やその他の負債の価額に関しての重要な差異の説明、等が含まれている。なお、構造や最低限の内容以外の説明部分についてはフリーフォーマットとなっている。
A.事業と実績
A.1事業
A.2引受業績
A.3投資実績
A.4その他の活動の実績
A.5その他の情報
B.ガバナンス態勢
B.1ガバナンス態勢に関する一般的な情報
B.2適合・適切要件
B.3リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)を含むリスク管理態勢
B.4内部統制体制
B.5内部監査機能
B.6保険数理機能
B.7アウトソーシング
B.8その他の情報
C.リスクプロファイル
C.1引受リスク
C.2市場リスク
C.3信用リスク
C.4流動性リスク
C.5オペレーショナルリスク
C.6その他の重要なリスク
C.7その他の情報
D.ソルベンシー目的のための評価
D.1資産
D.2技術的準備金
D.3その他の負債
D.4評価のための代替的手法
D.5その他の情報
E.資本管理
E.1自己資本
E.2ソルベンシー資本要件(SCR)及び最低資本要件(MCR)
E.3ソルベンシー資本要件(SCR)計算におけるデュレーションベースの株式リスクサブモジュール(DBER)の使用
E.4標準式と使用された内部モデルとの差異
E.5最低資本要件(MCR)の不遵守とソルベンシー資本要件(SCR)の不遵守
E.6その他の情報
また、SFCRとともに公表される「ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(Solvency II annual quantitative reporting templates:QRTs)」については、EIOPAがITS(Implementing Technical Standards)で規定しているが、以下の項目に関する情報を特定するものとなっている。
S.02.01.02 貸借対照表
S.05.01.02 事業毎の保険料、保険金請求及び事業費
S.05.02.01 国毎の保険料、保険金請求及び事業費
S.22.01.22 長期保証措置及び移行措置の影響
S.23.01.22 自己資本
S.25.02.22 ソルベンシー資本要件
S.32.01.22 グループの範囲にある会社
独立監査人報告書
取締役の責任の声明
等が附属資料として添付されている。
1 「報告と公衆開示に関するガイドライン」(EIOPA-BoS-15/109EN)(このガイドラインは、SFCRだけでなく、RSR (Regular Supervisory Report:定期監督報告)についても含まれている)
https://eiopa.europa.eu/GuidelinesSII/EIOPA_EN_Public_Disclosure_GL.pdf#search=%27solvency+%E2%85%A1+SFCR%27
EU指令対象の(再)保険会社は、毎年、SFCR(単体のSFCR及びグループSFCR(グループレベル又はシングルSFCR))を開示しなければならない。SFCRはAMSB
(administrative, management or supervisory body )による承認が必要で、承認後に公表できる。なお、比例原則が適用される。
単体のSFCRについては、欧州経済地域(EEA)に本拠を置く会社について求められる。
一定の状況下では特定の情報を開示しないことも認められる。他の法的ないしは規制要件に基づいて行われた公衆開示を利用することも認められる。さらには、追加的にボランタリー・ベースでソルベンシーと財務状況に関する情報や説明を開示することもできる。開示された情報に大きな影響を与える重要な進展が見られた場合には情報の更新を行う必要がある。
ソルベンシーIIにおいて求められるSFCR等の報告書の監督当局等への提出・開示スケジュールについては、報告書の作成に大変な労力と時間を要することから、準備期間を考慮して、数年かけて段階的に本来的な期限へと早期化が図られてきている。
具体的には、SFCRについて、単体ベースでは2016年の20週間以内から、2019年の14週間以内へ、グループベースでは2016年の26週間以内から、2019年の20週間以内へと短縮されていくことになる。SFCRについては、パブリック・ディスクロージャー資料として、一般に公開される報告となっている。
より具体的には、2016年決算の場合、単体が2017年5月20日、グループが2017年7月1日、2017年決算の場合、単体が2018年5月6日、グループが2018年6月17日、2018年決算の場合、単体が2019年4月22日、グループが6月3日となっており、毎年2週間ずつ早期化されてきた。この結果として、2019年のSFCRについては、単体が2020年4月8日、グループが2020年5月20日と、本来的なスケジュールに基づいた公表が行われていくこととなっていた。
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大を受けての監督報告と公衆開示の締切りに関するEIOPAの対応-四半期報告やSFCR等-」(2020.5.7)で報告したように、一部の資料を除いて、単体及びグループのSFCRの提出について8週間の延期が認められることとなった。
3―2019年のSFCRの全体的な状況
この章では、2019年のSFCRの全体的な状況について、過去のSFCRとの比較を含めて、主として欧州大手保険グループ5社(AXA、Allianz、Generali、Aviva、Aegon)のSFCRに基づいて、報告する。
SFCRのボリューム(ページ数)については、附属資料等を除いた本体部分だけで、欧州大手保険グループ5社のグループSFCRだけをみても、60ページから120ページとかなり幅のあるものとなっている。その他の会社では20ページに満たない会社もある。もちろん各社の会社構造等の違いもあることから、外形的なボリュームだけに基づいて、SFCRの内容の評価はできない。さらには各ページにおける記述密度も会社によって異なっている。従って、ページ数よりも記載内容がより重要であることは言うまでもない。
なお、過去のSFCRとの本体ページ数の比較では、2016年から2017年にかけては、会社によっては大きな変化があったが、2017年以降は各社ともあまり大きくは変わっておらず、その意味では各社における記載内容等の様式が定着してきている。
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