2020年02月07日

円高が進まなくなった理由~ドル円市場の構造変化

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(1月):リフレ派の後もリフレ派を指名

(日銀)維持
日銀は1月20日~21日に開催された決定会合において金融政策を維持した。フォワードガイダンス(以下、FG)も変更なし。会合後に公表された展望レポートでは、政府の経済対策の効果を織り込んで成長率の見通しを前回10月分から上方修正する一方、物価上昇率の見通しを小幅に下方修正した。日銀はコンセンサスよりも相当高めの物価見通しを当初に示した後、段階的に下方修正する動きを繰り返してきたが、今回も従来通りのパターンになった。
 
会合後の総裁会見では、黒田総裁が物価上昇率見通しの下方修正について、「既往の原油価格下落や自然災害など」を理由に挙げ、「物価の基調が変わったとは見ていない」と説明した。一方、海外経済の下振れリスクについては、「ひと頃よりも幾分低下した」ものの、「依然として大きい」と評価。「引き続き、緩和方向を意識した金融政策をとっていく」との考えを維持した。なお、マイナス金利政策については、「副作用に留意は必要」としつつも、「現時点では政策の効果がコストを上回っている」との評価を示した。

当時、流行が目立ち始めていた新型肺炎については、「今の時点でSARSや鳥インフルエンザのような影響があり得るとか、その可能性が高いとはみていない」としつつ、「よく動向を注視していきたい」との見方を示した。
 
なお、政府は先月28日、日銀の審議委員に証券会社所属の安達誠司氏を充てる同意人事案を国会に提示した。3月下旬に任期満了となる原田審議委員の後任人事に当たる。安達氏は原田氏と同様、金融緩和に積極的な「リフレ派」として知られている。結果的に、日銀政策委員9名のうち、「リフレ派」と目される委員は3名(残りの2名は若田部副総裁と片岡委員)で変わらないことになる。安部政権としては、リフレ派を後任に充てることで、大規模金融緩和継続を望む意思を示す狙いがあったと思われる。

日銀内でのパワーバランスは変わらず、当面の金融政策(現状維持の継続)への影響は殆どないと見込まれるが、リフレ派が1/3の勢力として残り続けることになったという意味合いはある。大規模金融緩和の長期化は既定路線だが、その可能性を裏付ける人事となった。
展望レポート( 2 0年1月)政策委員の大勢見通し(中央値)/日銀展望レポート物価見通しの変遷
(今後の予想)
足元、米利下げの停止などから追加緩和圧力が低下しているうえ、日銀はもともと緩和余地が乏しく、副作用への警戒を要する状況にあるため、今後とも追加緩和を回避し、必要に応じてFGを変更する程度の措置に留めるだろう。副作用への警戒がさらに高まれば、副作用緩和策(日銀当座預金への付利拡大など)を実施する可能性もある。

一方で、仮に新型肺炎の影響拡大等によって景気が失速したり、大幅な円高が進行する場合などには、マイナス金利深堀り(副作用緩和策とセットで)を主軸とする追加緩和に踏み切る可能性も。
 

3.金融市場(1月)の振り返りと予測表

3.金融市場(1月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
1月の動き 月初-0.0%台前半でスタートし、月末は-0.0%台後半に。
月初、米国とイランの関係緊迫化を受けてやや低下し、-0.0%台前半でスタートしたが、両国の対立激化に歯止めがかかり、懸念が後退したことを受けて上昇へ。米政権が中国に対する為替操作国認定を解除した14日には0.0%台前半とプラスに転じた。ただし、プラス圏では国内投資家による強い需要によって金利上昇が抑えられ、しばらく0.0%を挟んだ膠着した展開になった。その後、月の終盤には、新型肺炎の流行拡大に伴って安全資産である国債の需要が高まったことで金利は低下に向かい、月末は-0.0%台後半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(1月)
(ドル円レート)
1月の動き 月初108円台前半でスタートし、月末は109円付近に。
月初、米国とイランの関係緊迫化を受けたリスクオフで円が買われ、108円台前半でスタート、イランが報復攻撃を行った8日には107円台まで円高に振れたが、翌9日には両国の対立激化に歯止めがかかり109円台に上昇。さらに米政権が中国に対する為替操作国認定を解除した14日には110円台に乗せた。その後、しばらく110円前後での値動きが続いたが、月終盤には新型肺炎の流行拡大に伴って再びリスクオフ地合いとなり、27日には108円台後半に下落。月末も109円付近で着地した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
1月の動き 月初1.11ドル台後半でスタートし、月末は1.10ドル台半ばに。
月初、1.11ドル台後半で推移した後、独経済指標の悪化を受けて8日に1.11ドル台前半に低下。その後はドルもユーロも決め手に欠け、1.11ドル前後での一進一退の推移が続いたが、ECB理事会後のラガルド総裁会見でECBの緩和長期化が意識され、24日には1.10ドル台前半に下落。さらに月の終盤には新型肺炎拡大に伴って流動性の高いドルが買われたことで、29日に1.10ドルに下落。月末も1.10ドル台前半で終了した。
金利・為替予測表(2020年2月7日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年02月07日「Weekly エコノミスト・レター」)

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