2020年02月07日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(4)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-

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1―はじめに

前回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2019年12月17日に公表した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2019(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2019)」1の第3のセクションから、VA(ボラティリティ調整)の適用状況について、その国別の適用状況やSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率への影響等を報告した。

今回のレポートは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)とTP(技術的準備金に関する移行措置)という移行措置、DBER(デュレーションベースの株式リスクサブモジュール)とED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)という株式リスク措置及びERP(ソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告する2,3
 
1 News
 https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-publishes-its-fourth-annual-analysis-on-the-use-and-impact-of-long-term-guarantees-measures-and-measures-on-eq-ri.aspx
 報告書
 https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/LTG%20Report%202019.pdf
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2019」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
 

2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)

2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-TRFR及びTTP-

この章では、TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)とTTP(技術的準備金に関する移行措置)という移行措置の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR 比率への影響等を報告する。

1|TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)
(1)適用会社
TRFRは4カ国(ドイツ、ギリシャ、アイルランド、英国)からの6社が適用している。前回の報告書に比べてフランスからの1社が減少している。

全てが生命保険会社又は生損保兼営会社である。

なお、グループで見れば、ドイツとオランダと英国の3つのグループとなっている。
TRFRの国別適用状況(会社及びグループ数)
TRFRを用いた3つの会社の市場シェアの合計が国内市場の23%であるギリシャを除いて、TRFRを用いた会社の技術的準備金における市場シェアは、EEA(欧州経済地域)と各国レベルの両方で無視できるレベルである。

また、TRFRとVA(ボラティリティ調整)を同じ負債に同時に適用することができるが、TRFRを適用する6社のうち、5社はVAも適用している。
(2)SCR比率への影響
TRFRの非適用により、適用会社全体の平均SCR比率は188%から140%に48%ポイント低下する。

適用会社のSCR比率の分母のSCRは平均11%増加し、分子の適格自己資本は平均18%減少する。
図表 TRFR非適用のSCR比率への影響(措置適用会社)
(3)技術的準備金への影響
TRFRの非適用により、適用会社の技術的準備金は3.2%増加する。
図表 TRFR非適用の技術的準備金への影響(措置適用会社)
(4)TRFRに関する追加情報
TRFRによるリスクフリー金利に対する平均調整は、2016年の約1.6%、2017年の約1.2%に対して、2018年は約1.1%であった。

保証レベル帯域別の最良推定値やデュレーションの分布は、以下の図表の通りとなっている。保証レベルが2%から3%の帯域での最良推定値の金額が顕著に高くなっている。また、最近の保証利率水準の引き下げ動向を反映して、一般的には保証レベルが低い帯域ほどデュレーションがより長くなっている傾向がある。
図表 保証レベル帯域別の最良推定値の分布/図表 保証レベル帯域別のデュレーションの分布
2|TTP(技術的準備金に関する移行措置)
(1)適用会社
TTPは11カ国からの159社が適用している。なお、前回の2018年の報告書では11カ国からの162社が適用していたので、EEA全体としては3社が減少しただけで大きな変化は見られなかった。ただし、11カ国の内訳では、イタリアが新たに加わって、リヒテンシュタインの適用会社がなくなっている。また、前年に4社増加していたフランスで新たに3社増加した。

国別では、ドイツが58社で最も多く、次が英国の26社、フランスとスペインが20社となっている。
TTPの国別適用状況(会社数)
EEA全体では、技術的準備金の25%に対して、TTPが適用されているが、国別では英国が約14%、ドイツが約5%を占めている。
図表 TTPを適用している会社の技術的準備金のEEA市場シェア
TTPとMA(マッチング調整)やVAとの併用会社の状況については、それぞれ前々回及び前回のレポートのMA、VAの項目で報告したが、TTPとMAを併用している会社は27社で技術的準備金のシェアは15%、TTPとVAを併用している会社は123社で技術的準備金のシェアは18%となっている。

なお、TTPを適用しているEEAグループは80グループとなっている。
(2)SCR比率への影響
TTPを適用しなかった場合のSCR比率の影響については、以下の図表の通りである。

TTPを適用しているEEAの会社全体では227%から146%に81%ポイント低下する。

国別では、ドイツでは499%から227%に272%ポイント低下し、フランスでは311%から177%に133%ポイント低下し、オーストリアでは276%から157%に118%ポイント低下しており、これらの国々における影響の大きさが明らかになっている。
図表 TTP適用によるSCR比率への影響
なお、SCR比率の分母と分子に当たるSCRと適格自己資本へのTTPの非適用による影響は逆方向となっており、TTPの非適用により、EEA全体では、SCRは5.5%増加し、適格自己資本は32.1%減少する。

国別では、ドイツにおいて、SCRが11.5%増加し、適格自己資本が49.3%減少し、フランスにおいては、SCRが10.1%増加し、適格自己資本が37.1%減少し、オーストリアにおいては、SCRが13.8%増加し、適格自己資本が35.1%減少し、加盟国の中では最大規模の影響度となっている。

以下の図表が、TTPを適用している会社のSCR比率の適用前後の状況を示している。

TTPを適用している会社の52%の絶対的な影響は0%から100%ポイントの範囲内となっている。また、19%の会社がTTPを適用しない場合、SCR比率が100%未満となる。さらに、1%の会社が、TTPを適用しない場合、適格自己資本がマイナスになる。

なお、生命保険会社と損害保険会社及び生損保兼営会社の間で、影響度に明確な差異は見られない。
SCR ratio
(3)技術的準備金への影響
TTPを適用しなかった場合の適用会社の技術的準備金への影響は、以下の図表の通りである。

EEA全体では、適用会社の技術的準備金は5.2%増加する。

国別では、ドイツの適用会社が11.0%と最も大きな影響を受け、オーストリアが9.8%、スペインが9.0%、フランスが8.1%と続いている。
図表 TTP適用による技術的準備金への影響
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中村 亮一

研究・専門分野

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