2018年08月24日

中国経済見通し-18年下期は6.3%前後へ減速、米中貿易戦争が激化すればさらなる下振れも

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

中国国家統計局が7月16日に公表した18年4-6月期の国内総生産(GDP)は22兆178億元となり、経済成長率は実質で前年比6.7%増と1-3月期の同6.8%増を0.1ポイント下回った。また、消費者物価は前年比1.8%上昇と1-3月期の同2.1%上昇を0.3ポイント下回った(図表-1)。GDPを産業別に見ると、第1次産業は同3.2%増と前四半期(同3.2%増)と同じ伸び率となり、第3次産業は同7.8%増と前四半期(同7.5%増)を上回ったものの、第2次産業が同6.0%増と前四半期(同6.3%増)を下回ったことから、全体ではやや減速することとなった(図表-2)。
(図表-1)実質成長率と消費者物価/(図表-2)産業別の実質成長率
他方、製造業PMIを見ると、5月の51.9%を直近ピークに6月は51.5%、7月は51.2%と2ヵ月連続で低下した。同予想指数も5月の58.7%を直近ピークに6月は57.9%、7月は56.6%と低下してきており、製造業には陰りが見られる。非製造業PMI(商務活動指数)も7月は54.0%と6月の55.0%を1.0ポイント下回り、同予想指数も4月の61.5%を直近ピークに3ヵ月連続で低下して7月は60.2%となっており、非製造業の絶好調にも陰りが見え始めている(図表-3)。

一方、痛みを伴う経済構造の改革は静かに進んでいる。18年1-7月期の工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)を見ると、過剰設備・過剰債務問題を抱える産業では、鉱業(石炭など)が前年比1.6%増、鉄精錬加工も同5.2%増と全体の伸び(同6.6%増)を下回った。一方、新たな牽引役として期待される産業では、コンピュータ・通信・その他電子設備が同12.6%増、電気機械・器材も同7.3%増と全体の伸びを上回り、経済成長の下支え役を果たしている(図表-4)。
(図表-3)製造業と非製造業のPMI/(図表-4)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上、18年1-7月期)

2.消費の動向

2.消費の動向

消費の伸びはやや減速した。消費の代表指標である小売売上高を見ると、18年1-7月期は前年比9.3%増と17年通期の同10.2%増を0.9ポイント下回った。内訳を見ると、住宅バブル抑制策による住宅販売低迷を背景に家具類が同10.3%増、家電類が同9.0%増と17年通期の伸び率を下回った。また、自動車も15年夏の株価急落時に導入された小型車(排気量1.6L以下)減税が撤廃された影響で同2.0%増と低い伸びに留まった。一方、電子商取引(EC)はBAT(百度、阿里巴巴、騰訊)を代表とするプラットフォーム企業が新たな消費需要を生み出す流れが続き同29.3%増と極めて高い伸びを維持、小売売上高に占めるシェアは2割前後に達した(図表-5)。
(図表-5)業績別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き/(図表-6)消費者信頼感指数
今後の消費動向を考えると、調査失業率(31大都市)が14ヶ月ぶりに5%台へと上昇し、消費者信頼感指数がピークアウトするなど不安材料が浮上している(図表-6)。しかし、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費需要を喚起する流れは健在であり、住宅バブル抑制策で低迷していた分譲住宅販売面積が7月に前年比11.0%増と18年1-6月期の同3.2%増を上回るなど底打ちの兆しもある。また、乗用車保有状況を見ると、都市部でも100戸当たり35.5台とまだ普及の途上にあるため、小型車減税撤廃の悪影響は早期に薄れると見ている。従って、消費には先行き不安が残るものの、底堅い伸びを維持すると予想している(図表-7)。
(図表-7)消費の先行き

3.投資の動向

3.投資の動向

(図表-8)業種別の投資動向(2018年1-7月期) 投資の伸びは減速した。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、18年1-7月期は前年比5.5%増と17年通期の同7.2%増を1.7ポイント下回った。内訳を見ると、交通運輸倉庫等や水利環境等といったインフラ関連の伸びが低位に留まったのに加えて、過剰設備・過剰債務を抱える構造不況業種では採掘業が前年比3.7%増と低位に留まり、投資減速の主因となった。一方、構造不況業種でも鉄精錬加工が前年比10.0%増と高い伸びを示したのに加えて、「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する新興産業ではコンピュータ・通信機器等(製造業)が同17.0%増と引き続き高い伸びを示したほか、消費サービス関連でも文化・体育・娯楽が同17.6%増と高い伸びを維持して投資を下支えした(図表-8)。
今後の投資動向を考えると、低位ながらも底堅い伸びを維持すると予想している。構造不況業種では引き続き過剰設備・過剰債務の整理が進むため投資の伸びは低位に留まる可能性が高い。一方、「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する領域では、中国政府による手厚い政策支援を背景に積極的な投資が続くと見られる。また、18年1-7月期にはインフラ投資がマクロプルーデンス政策による「金融リスクの確実な防止・解消」に伴って落ち込んだが、中国政府は7月に「財政政策をさらに積極化させる」として研究開発費に対する減税を拡大、8月には地方政府にレベニュー債の前倒し発行を指示しており、インフラ投資の底打ちは近いと見られる。

なお、米中貿易摩擦に伴う先行き不透明感から民間投資が落ち込めば、官民連携(PPP)プロジェクトを推進し失速を回避するだろう。中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)1」に伴う交通物流関連の需要が大きく、17.8兆元(約300兆円)とされるPPPの前倒しが可能だ(図表-9)。
(図表-9)投資の先行き
 
1 新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。
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三尾 幸吉郎

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