- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- 医療保険制度 >
- 精神医療の現状 (後編)-「治療同盟」のもとで、時間をかけた治療が行われる
精神医療の現状 (後編)-「治療同盟」のもとで、時間をかけた治療が行われる

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
25 心電図上のQT時間が延長し、心室頻拍を誘発する恐れがある病態。心室頻拍は、突然死を招く危険性が高いとされる。
26 この複合体は、GABA-BZ-Clイオンチャネル受容体複合体と呼ばれる。なお、GABAは、γ-アミノ酪酸(Gamma-AminoButyric Acid)の略で、神経伝達物質の1つ。
4|双極性障害には、気分安定薬と第二世代抗精神病薬が併用されることが一般的
気分障害のうち、双極性障害には躁状態とうつ状態が現れる。躁状態に対応するものとして、気分安定薬と抗精神病薬が併用されることが一般的となっている。なお、双極性障害は、統合失調症よりも、過鎮静や錐体外路症状などの副作用が生じやすいとされる。このため、第二世代抗精神病薬を使用する際には、使用量に注意が必要とされている。一方、うつ状態に対しては、気分安定薬を単独で、もしくは抗うつ薬と併用して、治療していくことが一般的となっている。
気分安定薬として、主に、炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンが用いられる。このうち、ラモトリギンは、抗躁効果は乏しいため、躁状態への治療にはあまり用いられない。なお、これらの薬剤が体内でどのように作用しているのか(「作用機序」といわれる)については、現在のところ不明点が多い。
前編(前稿)でみたように、日本では認知症は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症の4つが中心的となっている。このうち、アルツハイマー型とレビー小体型について保険適応のある抗認知症薬が治療に用いられている。
抗認知症薬には、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬と、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬という、2つのタイプがある。
AChE阻害薬は、シナプス間隙にあるアセチルコリン分解酵素を阻害して、アセチルコリンの濃度を高めて神経細胞間の情報伝達の活性化を図る。
一方、NMDA受容体拮抗薬は、過剰なグルタミン酸による刺激から神経細胞を保護して、カルシウムイオンの細胞内への流入を抑制することで、アポトーシスと呼ばれる神経細胞の自然死を防ぐ。
抗認知症薬として、つぎの4つの薬剤が保険適応となっている。ドネペジルは、1999年発売で最も歴史が長く使用実績が多い。剤形も、豊富である。リバスチグミンは、貼付剤であり、嘔気の副作用が少ない。医師は、病態に応じて、それぞれの薬剤の特徴を踏まえながら処方していくこととなる。
以上、薬物療法に用いられる薬剤を概観してきた。みてきたとおり、向精神薬は種類が多く、効果、副作用、作用時間、剤形等、薬剤によってさまざまな特徴がある。薬物療法で効果を得るためには、医学や薬学の専門知識が必要となる。繰り返しになるが、患者は、服用の際は、医師や薬剤師の指示に従って、用法・用量を厳守することが必要となる。
27 エーザイ社(日本)とバイオジェン社(アメリカ)は、2018年7月に、新薬候補として共同開発中の「BAN2401(開発名)」について、「早期アルツハイマー病856 人を対象とした臨床第Ⅱ相試験(201試験)において、事前設定した重要なエンドポイントを達成するトップライン結果を取得した」と発表した(同社プレスリリース(2018年7月6日)より)。
28 2018年2月にはメルク社(アメリカ)が臨床試験を行っていた「ベルベセスタット」が開発中止となった。また、6月にはイーライ・リリー社(アメリカ)とアストラゼネカ社(イギリス)が共同で開発・商品化を進めていた「ラナベセスタット」が、開発中止となった。
5――睡眠の役割
1|睡眠はノンレム睡眠中心からレム睡眠中心へと移っていく
睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠の2種類がある。レム睡眠は、大脳が起きていて、身体が眠っている状態。ノンレム睡眠は、大脳が眠っていて、身体が起きている状態をいう。
睡眠は90分を1サイクルとする。一晩の睡眠をみると、睡眠当初はノンレム睡眠の割合が大きい。その後、サイクルを重ねると、レム睡眠の占率が大きくなるというパターンをとる。これは、睡眠では、まず大脳の休息を優先させていることを意味する。大脳を休ませるために、ノンレム睡眠をしっかりとることで、目覚めたときに「ぐっすり眠った」という爽快感が得られることとなる。
(2018年08月02日「基礎研レポート」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/02/06 | バレンタインジャンボ2025の検討-狙いは一攫千金? 超高額当せん? それともポートフォリオを作る? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/02/04 | 気候変動と食品ロス・廃棄物削減-消費者がすぐに貢献できる気候変動対策のポテンシャルは大きい | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/01/28 | 屋根裏部屋の電球の問題-デジタルの感性とアナログの感覚をうまく組み合わせる | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/01/21 | 気候変動 保険活用への影響-保険の“3つのA”はどのような影響を受けるか? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2025年02月06日
2025年度の社会保障予算を分析する-薬価改定と高額療養費見直しで費用抑制、医師偏在是正や認知症施策などで新規事業 -
2025年02月06日
バレンタインジャンボ2025の検討-狙いは一攫千金? 超高額当せん? それともポートフォリオを作る? -
2025年02月06日
PRA(英国)やACPR(フランス)が2025年の監督・政策上の優先事項や作業プログラムを公表 -
2025年02月06日
インバウンド消費の動向(2024年10-12月期)-2024年の消費額は8.1兆円、訪日客数は3,687万人で過去最高 -
2025年02月05日
インドネシア経済:24年10-12月期の成長率は前年同期比+5.02%~消費が持ち直して再び5%成長に
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【精神医療の現状 (後編)-「治療同盟」のもとで、時間をかけた治療が行われる】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
精神医療の現状 (後編)-「治療同盟」のもとで、時間をかけた治療が行われるのレポート Topへ