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- 米国大統領の仕掛けた貿易戦争-争いの構造を理解する
2018年07月05日
1――見えてきた貿易戦争の構図
2――国際社会が生んだ火種
米国がこの時期に貿易戦争を仕掛けるのはトランプ大統領の誕生だけが要因ではない。米国はこれまで唯一の基軸通貨国として大量にものを消費し、他国はその力を貿易取引によって吸収することで成長してきた。技術が進歩してグローバル化が進むと企業は生産コストの低い国へ生産拠点を移管した。移管された国では所得が増加して中間層が生まれて新たな市場が形成された。新興国は市場に集まる企業から技術を獲得することで発展を加速。今日の経済体制は、各経済主体が利益最大化を追求した結果であるが、米国内の雇用流出や米国の覇権を脅かす存在の台頭などの新たな歪も同時に生んだ。貿易戦争の火種は長い時間をかけて構築された既存の経済体制の中で生まれたものなのである。
米国が特に中国を問題視するのは、米国の利益が不当な手段で奪われていると考えるからだ。2018年1月に米国通商代表部(USTR)が発表した2017年次報告では、中国がWTO加盟時の経済改革の約束を果たしておらず、その承認を国際貿易の支配的なプレーヤーになるために利用してきたと非難している。実際、加盟時に約束した外資出資制限撤廃の多くが期限内に実行されておらず、緩和された規制にも新たな条件が課されているため、実質的に内外無差別原則にそぐわない事態も生じている。また、知的財産権や技術に関する問題はさらに深刻で、中国政府が違法な手段による獲得に関与または支援していたと認定した。米国の厳しい対中姿勢には、このような不満も反映されているのである。
米国が特に中国を問題視するのは、米国の利益が不当な手段で奪われていると考えるからだ。2018年1月に米国通商代表部(USTR)が発表した2017年次報告では、中国がWTO加盟時の経済改革の約束を果たしておらず、その承認を国際貿易の支配的なプレーヤーになるために利用してきたと非難している。実際、加盟時に約束した外資出資制限撤廃の多くが期限内に実行されておらず、緩和された規制にも新たな条件が課されているため、実質的に内外無差別原則にそぐわない事態も生じている。また、知的財産権や技術に関する問題はさらに深刻で、中国政府が違法な手段による獲得に関与または支援していたと認定した。米国の厳しい対中姿勢には、このような不満も反映されているのである。
3――貿易戦争の実態
1|中国の覇権を阻む戦い
米国は21世紀の覇権を賭けた戦いを中国に仕掛けている。特に米国が警戒しているのが、人工知能(AI)や次世代通信規格(5G)などのハイテク分野である。遠くない将来、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代の到来が予想される。企業はIoT時代にビッグデータを解析することで新たなアイデアや有益な情報を得ることができる。優れたAIは、企業の競争優位性を確保するための重要な鍵となるのだ。また、実用化に向けて研究の進む自動運転や遠隔ロボットの操作では、超高速・多数接続・超低遅延という特徴を持つ5Gが基盤インフラとなる。ハイテク分野は安全保障にも影響するため、覇権維持を望む米国には譲れない分野だ。中国通信大手の中興通訊(ZTE)に対する制裁の発動は、正にこの争いが表面化した部分であると言えよう。
米国は21世紀の覇権を賭けた戦いを中国に仕掛けている。特に米国が警戒しているのが、人工知能(AI)や次世代通信規格(5G)などのハイテク分野である。遠くない将来、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代の到来が予想される。企業はIoT時代にビッグデータを解析することで新たなアイデアや有益な情報を得ることができる。優れたAIは、企業の競争優位性を確保するための重要な鍵となるのだ。また、実用化に向けて研究の進む自動運転や遠隔ロボットの操作では、超高速・多数接続・超低遅延という特徴を持つ5Gが基盤インフラとなる。ハイテク分野は安全保障にも影響するため、覇権維持を望む米国には譲れない分野だ。中国通信大手の中興通訊(ZTE)に対する制裁の発動は、正にこの争いが表面化した部分であると言えよう。
米国は貿易面でも中国の産業高度化を阻む姿勢を示している。6月に最終発表された500億ドル相当の対中制裁課税リストには、中国の長期戦略である「中国製造2025」を狙い撃ちした産業用ロボット・航空機・船舶・自動車・半導体装置などの品目が並んでいる(図表2)。このような米国の強硬な対中政策は。今後も続くものと予想される。通商政策の策定では、ライトハイザー通商代表やロス商務長官、ナバロ通商製造政策局長など保護貿易を推進する人物が多く関わる(図表3)。そのうえ経済面の安全保障を話し合う国家経済会議には、ポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官など対外強硬派が揃う。政策立案に関わる人物を見る限り、対外強硬姿勢は変わらないだろう。
2|米国の貿易赤字を削減するための戦い
トランプ大統領が貿易政策について語るとき「公正な」という言葉を多用する。実のところ「公正な」貿易という概念は米国に長らく存在してきた概念だ。この概念は、諸外国が米国市場に自由にアクセスできる一方で、自らの市場を不公正な障壁で保護し、米国の輸出を拒んできたと感じる米国民の不満を代弁してきた。トランプ大統領がユニークだった(誤解している)点は、貿易赤字が悪で黒字が善だとする考え方であり、米国にとって不公平な状況を打破する試みは、これまでも歴史上何度か試みられてきたものである。その意味で前述の対中政策とは、明確に区別されるべきだろう。
2017年度の米国の貿易赤字は、前年比+9.0%となる▲8,075億ドルとトランプ大統領の就任後も拡大してきた(図表4)。貿易赤字の計上先は上位5ヵ国で全体の約8割を占める(中国46.6%、メキシコ9.4%、日本8.7%、ドイツ7.9%、イタリア3.9%、合計76.5%)。貿易赤字全体の約半分は中国が占めて最大となっているが、日本や欧州などの同盟国も大きな比重を占めている(図表5)。
トランプ大統領が貿易政策について語るとき「公正な」という言葉を多用する。実のところ「公正な」貿易という概念は米国に長らく存在してきた概念だ。この概念は、諸外国が米国市場に自由にアクセスできる一方で、自らの市場を不公正な障壁で保護し、米国の輸出を拒んできたと感じる米国民の不満を代弁してきた。トランプ大統領がユニークだった(誤解している)点は、貿易赤字が悪で黒字が善だとする考え方であり、米国にとって不公平な状況を打破する試みは、これまでも歴史上何度か試みられてきたものである。その意味で前述の対中政策とは、明確に区別されるべきだろう。
2017年度の米国の貿易赤字は、前年比+9.0%となる▲8,075億ドルとトランプ大統領の就任後も拡大してきた(図表4)。貿易赤字の計上先は上位5ヵ国で全体の約8割を占める(中国46.6%、メキシコ9.4%、日本8.7%、ドイツ7.9%、イタリア3.9%、合計76.5%)。貿易赤字全体の約半分は中国が占めて最大となっているが、日本や欧州などの同盟国も大きな比重を占めている(図表5)。
03-3512-1790
経歴
- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
2018年 ニッセイ基礎研究所へ
2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
公式SNSアカウント
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