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- 築年数が経過しても賃料が下がりにくい地域はどこか?~マンション賃料形成要因の地域別分析
2018年05月01日
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1――はじめに
マンション賃料は、一般的に、築年数の経過に伴い下落する。それ故、賃貸マンション投資を行う際には、築年数が経過しても賃料が大幅に下がらない物件を見極めることが重要となる。そこで、本稿では、マンション賃料形成要因の地域別分析を行い、賃料が下がりにくい地域はどこなのかを考察する。
2――マンション賃料形成要因の分析
1|分析対象
本稿では、J-REIT投資法人が2017年時点で保有していた賃貸マンションの賃料データ(エリア;東京都区部)を用いて、マンション賃料の形成要因に関する計量分析を行う。具体的には、当該物件における賃貸事業収入および稼動面積を基に算出した「継続賃料単価(円/月・坪)」を採用した。
本稿では、J-REIT投資法人が2017年時点で保有していた賃貸マンションの賃料データ(エリア;東京都区部)を用いて、マンション賃料の形成要因に関する計量分析を行う。具体的には、当該物件における賃貸事業収入および稼動面積を基に算出した「継続賃料単価(円/月・坪)」を採用した。
2|分析方法
分析手法は、地価分析などの不動産市場分析で多く用いられているヘドニック・アプローチに基づく計量分析を採用した。ヘドニック・アプローチでは、賃料が、建物の状況(築年数、等)や交通利便性、住環境等、複数の要因の合成物であると考える。この考え方に基づき、推定式に構築し、マンション賃料に対する各要因の影響度を推定する。
従来の不動産市場分析においては、推定式にOLS(最小二乗法)に代表されるグローバル回帰モデルを採用している事例が多いが、本稿ではローカル回帰モデルを採用し分析を行う。グローバル回帰モデルは、対象地域全体で各要因に1つずつパラメータ(係数)が推定されるのに対し、ローカル回帰モデルではサンプル(物件地点)ごとに異なるパラメーターが推定される。そのため、エリアによる賃料の形成要因の違いを観測することができる。具体的には、東京都区部のどの地域に立地する物件が、築年数が経過した場合に賃料が下がりにくい(あるいは下がりやすい)のかということを知ることができる。本稿では、ローカル回帰モデルの中で「地理的加重回帰モデル」(GWR)を推定式に採用した。また、分析対象エリアは、東京都区部とした。
マンション賃料を形成する要因(説明変数)は、(1)築年数(年)、 (2)当該物件から最寄駅までの徒歩時間(分)、 (3)最寄駅から都心(東京駅)までの所要時間(分)、(4)1戸あたり平均住戸面積(m2)を採用した。
分析手法は、地価分析などの不動産市場分析で多く用いられているヘドニック・アプローチに基づく計量分析を採用した。ヘドニック・アプローチでは、賃料が、建物の状況(築年数、等)や交通利便性、住環境等、複数の要因の合成物であると考える。この考え方に基づき、推定式に構築し、マンション賃料に対する各要因の影響度を推定する。
従来の不動産市場分析においては、推定式にOLS(最小二乗法)に代表されるグローバル回帰モデルを採用している事例が多いが、本稿ではローカル回帰モデルを採用し分析を行う。グローバル回帰モデルは、対象地域全体で各要因に1つずつパラメータ(係数)が推定されるのに対し、ローカル回帰モデルではサンプル(物件地点)ごとに異なるパラメーターが推定される。そのため、エリアによる賃料の形成要因の違いを観測することができる。具体的には、東京都区部のどの地域に立地する物件が、築年数が経過した場合に賃料が下がりにくい(あるいは下がりやすい)のかということを知ることができる。本稿では、ローカル回帰モデルの中で「地理的加重回帰モデル」(GWR)を推定式に採用した。また、分析対象エリアは、東京都区部とした。
マンション賃料を形成する要因(説明変数)は、(1)築年数(年)、 (2)当該物件から最寄駅までの徒歩時間(分)、 (3)最寄駅から都心(東京駅)までの所要時間(分)、(4)1戸あたり平均住戸面積(m2)を採用した。
3|分析結果
ローカル回帰モデル(GWR)による推定結果を図表1に示した。比較のために、グローバル回帰モデル(OLS)による推定結果も併記した(表右列参照)。
賃料のグローバル回帰モデル(OLS)の推定結果から、東京都区部のマンション賃料(坪単価)は、平均して、(1)築年数が1年古くなると0.92%下落、 (2)最寄駅までの徒歩時間が1分長くなると0.91%下落、 (3)最寄駅から都心までの所要時間が1分長くなると0.46%下落、(4)1戸あたり平均住戸面積(m2)が1m2広くなると0.14%下落することが分かった。
一方、賃料のローカル回帰モデル(GWR)の推定結果をみると、各物件地点によりパラメーター推定量が大きく変化している。例えば、築年数が1年経過した場合の賃料変化率は、-2.68%から+0.49%となり、物件地点の違いにより大きく異なっている。この結果から、同じ東京都区部内でも、築年数が経過しても賃料が相対的に下がりにくい(あるいは大幅に下がりやすい)地域が存在することが示唆される。
また、「最寄駅までの徒歩時間」(1分延長当たりの賃料変化率が-2.25%~+1.13%)や「最寄駅から都心までの所要時間」(1分延長当たりの賃料変化率が-2.14%~+0.53%)も、各物件地点によりパラメーター推定量が大きく変化する結果となった。
ローカル回帰モデル(GWR)による推定結果を図表1に示した。比較のために、グローバル回帰モデル(OLS)による推定結果も併記した(表右列参照)。
賃料のグローバル回帰モデル(OLS)の推定結果から、東京都区部のマンション賃料(坪単価)は、平均して、(1)築年数が1年古くなると0.92%下落、 (2)最寄駅までの徒歩時間が1分長くなると0.91%下落、 (3)最寄駅から都心までの所要時間が1分長くなると0.46%下落、(4)1戸あたり平均住戸面積(m2)が1m2広くなると0.14%下落することが分かった。
一方、賃料のローカル回帰モデル(GWR)の推定結果をみると、各物件地点によりパラメーター推定量が大きく変化している。例えば、築年数が1年経過した場合の賃料変化率は、-2.68%から+0.49%となり、物件地点の違いにより大きく異なっている。この結果から、同じ東京都区部内でも、築年数が経過しても賃料が相対的に下がりにくい(あるいは大幅に下がりやすい)地域が存在することが示唆される。
また、「最寄駅までの徒歩時間」(1分延長当たりの賃料変化率が-2.25%~+1.13%)や「最寄駅から都心までの所要時間」(1分延長当たりの賃料変化率が-2.14%~+0.53%)も、各物件地点によりパラメーター推定量が大きく変化する結果となった。
4|考察
本項では、前項に示した推計結果(ローカル回帰モデル(GWR)による結果)を踏まえて、東京都区部で築年数による賃料下落が小さい(大きい)地域はどこなのかを考察する。各物件地点の推定結果を区毎に平均した値を図表2に示した。併せて、物件地点による変化が大きかった「最寄駅までの徒歩時間」(図表3)と「最寄駅から都心までの所要時間」(図表4)に関しても考察する。
本項では、前項に示した推計結果(ローカル回帰モデル(GWR)による結果)を踏まえて、東京都区部で築年数による賃料下落が小さい(大きい)地域はどこなのかを考察する。各物件地点の推定結果を区毎に平均した値を図表2に示した。併せて、物件地点による変化が大きかった「最寄駅までの徒歩時間」(図表3)と「最寄駅から都心までの所要時間」(図表4)に関しても考察する。
(1)築年数
築年数が1年経過した場合の賃料下落率が小さい区(0.4%未満の区)は、目黒区・杉並区・世田谷区であった(図表2・青で表示)。これらの区は、従来から住宅地としての人気が高く、賃貸マンション需要は底堅い。そのため、築年数が経過しても賃料が下がりにくい地域となったと推察される。
一方、築年数が1年経過した場合の賃料下落率が大きい区(1.2%を超える区)は、江戸川区・北区・板橋区・新宿区・港区であった(図表2・赤で表示)。これらの地域では、築古物件への評価が厳しく、築年数の経過とともに、賃料が大きく下がる傾向がみられる。
築年数が1年経過した場合の賃料下落率が小さい区(0.4%未満の区)は、目黒区・杉並区・世田谷区であった(図表2・青で表示)。これらの区は、従来から住宅地としての人気が高く、賃貸マンション需要は底堅い。そのため、築年数が経過しても賃料が下がりにくい地域となったと推察される。
一方、築年数が1年経過した場合の賃料下落率が大きい区(1.2%を超える区)は、江戸川区・北区・板橋区・新宿区・港区であった(図表2・赤で表示)。これらの地域では、築古物件への評価が厳しく、築年数の経過とともに、賃料が大きく下がる傾向がみられる。
(2)最寄駅までの徒歩時間
最寄駅までの徒歩時間が1分増加した場合の賃料下落率が小さい区(0.4%未満の区)は、中野区・板橋区・練馬区であった(図表3・青で表示)。一方、賃料下落率が大きい区(1.2%を超える区)は、葛飾区・荒川区・墨田区・台東区・江東区であった(図表3・赤で表示)。
最寄駅までの徒歩時間拡大による賃料下落が大きい区は、すべて城東地域にある。城東地域は、東京都区部の中では、賃料が比較的廉価なエリアであり、若年単身世帯の居住が多い。これらの層は特に交通利便性を重視する傾向が強いことから、駅まで遠い物件への評価が厳しくなったと考えられる。
最寄駅までの徒歩時間が1分増加した場合の賃料下落率が小さい区(0.4%未満の区)は、中野区・板橋区・練馬区であった(図表3・青で表示)。一方、賃料下落率が大きい区(1.2%を超える区)は、葛飾区・荒川区・墨田区・台東区・江東区であった(図表3・赤で表示)。
最寄駅までの徒歩時間拡大による賃料下落が大きい区は、すべて城東地域にある。城東地域は、東京都区部の中では、賃料が比較的廉価なエリアであり、若年単身世帯の居住が多い。これらの層は特に交通利便性を重視する傾向が強いことから、駅まで遠い物件への評価が厳しくなったと考えられる。
(3)最寄駅から都心までの所要時間
最寄駅から都心までの所要時間が1分増加した場合の賃料下落率が小さい区(0.2%未満の区)は、港区であった(図表4・青で表示)。一方、賃料下落率が最も大きい区(1.4%を超える区)は、足立区・荒川区・世田谷区であった(図表4・赤で表示)。
賃料下落率が最も大きいこれらの区では、単身世帯のほか、都心部に通勤するDINKS層・共働き子育て世帯の居住も比較的多く、都心部へのアクセスをより重視する居住者は多い。これらの区を通る日暮里・舎人ライナーや京成線(足立区・荒川区)や都電荒川線(荒川区)、東急世田谷線(世田谷区)等は、都心部(東京駅)へアクセスする場合に乗り換えが必要であり、所要時間がかかる。これらの沿線を最寄駅とする物件への評価が厳しくなっている可能性が考えられる。
最寄駅から都心までの所要時間が1分増加した場合の賃料下落率が小さい区(0.2%未満の区)は、港区であった(図表4・青で表示)。一方、賃料下落率が最も大きい区(1.4%を超える区)は、足立区・荒川区・世田谷区であった(図表4・赤で表示)。
賃料下落率が最も大きいこれらの区では、単身世帯のほか、都心部に通勤するDINKS層・共働き子育て世帯の居住も比較的多く、都心部へのアクセスをより重視する居住者は多い。これらの区を通る日暮里・舎人ライナーや京成線(足立区・荒川区)や都電荒川線(荒川区)、東急世田谷線(世田谷区)等は、都心部(東京駅)へアクセスする場合に乗り換えが必要であり、所要時間がかかる。これらの沿線を最寄駅とする物件への評価が厳しくなっている可能性が考えられる。
3――おわりに
本稿の分析から、城北地域(北区・板橋区)や都心部の新宿区・港区、江戸川区では、築年数の経過による賃料下落が大きい傾向があることが分かった。
一方、従来から住宅地として人気が高い城南・城西地域の目黒区・世田谷区・杉並区は、築年数の経過による賃料下落は比較的小幅であった。これらの地域は、築年数が経過しても値下がりしない地域といえる。
しかし、新築の賃貸マンションが大量に供給された場合、現状では値下がりしにくい地域でも、築年数が経過した物件が大きく値下がりする可能性がある。東京都区部では、東京五輪に向けて様々な地区で再開発が計画・進行中である。再開発に伴う今後の住宅開発・供給動向には注視する必要がある。
一方、従来から住宅地として人気が高い城南・城西地域の目黒区・世田谷区・杉並区は、築年数の経過による賃料下落は比較的小幅であった。これらの地域は、築年数が経過しても値下がりしない地域といえる。
しかし、新築の賃貸マンションが大量に供給された場合、現状では値下がりしにくい地域でも、築年数が経過した物件が大きく値下がりする可能性がある。東京都区部では、東京五輪に向けて様々な地区で再開発が計画・進行中である。再開発に伴う今後の住宅開発・供給動向には注視する必要がある。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2018年05月01日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
経歴
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
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