2018年02月13日

共働き・子育て世帯の消費実態(2)~食費や通信費など「必需的消費」が増え、娯楽費など「選択的消費」が減少、娯楽費の中ではじわり強まる 旅行ニーズ

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに

共働き・子育て世帯の消費実態(1)-少子化でも世帯数は増加、収入減で消費抑制、貯蓄増と保険離れ」では、2000年以降の世帯数や家計収支全体の変化を確認した。世帯数については、少子化で子育て世帯は減っているものの、子育て世帯では専業主婦世帯が減り共働き世帯が増えているため、共働き・子育て世帯とすると、その数は若干増えていた。家計収支については、景気低迷を背景に、収入が減る中で支出を抑えて預貯金を増やしていた。経済不安が広がり、「とにかく手元にお金をとどめておきたい」という様子がうかがえた。

本稿では、消費支出の内訳について見ていく。なお、子育て世帯を「夫婦と未婚の子二人から成る核家族世帯」と定義し、共働き世帯と専業主婦世帯を対比する。
 

2――消費内訳の全体像

2――消費内訳の全体像~1位食料、2位交通・通信、3位共働き世帯は教育、専業主婦世帯は教養娯楽

総務省「家計調査」によると、子育て世帯の消費内訳は、「その他の消費支出1」を除くと、共働き世帯では「食料」(2016年で23.3%)が最も多く、次いで「交通・通信2」(15.5%)、「教育」(12.6%)、「教養娯楽3」(10.1%)と続く。専業主婦世帯でも「食料」(25.3%)が最も多く、次いで「交通・通信」(13.9%)、「教養娯楽」(10.9%)、「教育」(10.3%)と続く。共働き世帯と専業主婦世帯では、上位2つは同じだが、3位と4位が入れ替わっており、共働き世帯では「教育」が、専業主婦世帯では「教養娯楽」が多い。とはいえ、2000年以降、専業主婦世帯では「教育」は上昇傾向にあり、直近では「教養娯楽」と同程度となっている。なお、いずれも諸雑費を含む「その他の消費支出」も多い。
図1 子育て世帯の消費内訳の推移
 
1 諸雑費(理美容用品や理美容サービス、身の回り品、たばこ等)やこづかい、交際費、仕送り金が含まれる。
2 交通費や自動車関係費、通信費が含まれる。
3 教養娯楽用耐久財(テレビやパソコン、カメラ、楽器、学習机等)や教養娯楽用品(文房具や運動用具、テレビゲーム等)、書籍・雑誌、教養娯楽サービス(宿泊料やパック旅行費、月謝類等)が含まれる。
 

3――消費内訳の推移

3――消費内訳の推移~「選択的消費」低下・「必需的消費」上昇、スマホ普及で家電や書籍支出が低下

1|共働き世帯の消費内訳の推移~アベノミクス景気で余暇は日帰りレジャーからじわり旅行へ
消費内訳の推移を見ると、共働き世帯でおおむね上昇傾向にあるものは「交通・通信」(のうち「通信」)や「光熱・水道」、また、2013年頃から「食料」、足元は「教育」があげられる(図1・2)。

「食料」の上昇は、円安による輸入食材の高騰等で物価が上昇している影響と見られる。「食料」の消費者物価指数(CPI)は2013年を100とすると2016年は108.9であり、2016年の支出額は実質増減率で見るとわずかに減少している(対2013年で▲0.5%)。つまり、物価高で食費がかさみ、割高感から若干買い控えている可能性もある。

また、「交通・通信」は2014年頃の上昇が目立つが、内訳を見ると「自動車関係費」(主に「自動車等購入」)の上昇によるもので、消費税率8%への引き上げと自動車税制の改正の影響のようだ。一方、「交通・通信」のうち「通信」は2000年以降、上昇傾向にある。この間、「通信」のCPIは低下しているため(2000年=100とすると2016年=78.2)、実質増減率では消費支出に占める割合で見る以上に増えており(対2000年で+117.0%)、通信ニーズの強まりがうかがえる。
図2 子育て世帯の消費内訳の推移~「交通・通信」の内訳
図3 子育て世帯の消費内訳の推移~「教養娯楽」の内訳
図4 子育て世帯の消費内訳の推移~「教養娯楽サービス」の内訳
一方、おおむね低下傾向にあるものは「住居」や「その他の消費支出」(うち「こづかい(使途不明)」や「交際費」)、2010年以降では「教養娯楽」である(図1・6)。
図5 子育て世帯の消費内訳の推移~「教養娯楽サービス」のうち余暇支出
図6 子育て世帯の消費内訳の推移~「その他の消費支出」の内訳
図7 子育て世帯の持家率の推移
なお、ここで言う「住居」は賃貸住居の家賃・地代を指しており、子育て世帯では持ち家率が上昇している(図7)。前稿で見た通り、2000年以降、子育て世帯の可処分所得は減少傾向にある。可処分所得が減る中で、住居という非常に高額な支出が増えていることになるが、この背景には、住宅ローン減税の拡充や結婚・子育て資金の贈与税非課税枠措置4などの影響があるだろう。つまり、可処分所得が減り消費を抑制する中でも、強いニーズのある消費領域に適切な措置が成されれば、高額でもお金を振り向ける様子が読み取れる。なお、子育て世帯の持ち家率は、共働き世帯が専業主婦世帯を上回るが、これは共働き世帯の方が可処分所得は多いことがあるのだろう(2016年で月+8.5万円)。

また、2010年以降、おおむね低下傾向にある「教養娯楽」については、内訳を見ると、微細な値ではあるが、テレビやパソコンなどの「教養娯楽用耐久財5」や「書籍・他の印刷物」が低下している(図3)。この時期はスマートフォンやタブレット端末の普及が加速した時期である。スマートフォンが1台あれば、パソコンやテレビの代替となるとともに、常に情報と接することができる上、電子書籍等の利用も可能となるため、従来の情報端末や紙の雑誌・書籍離れにつながる。よって、近年の「教養娯楽用耐久財」や「書籍・他の印刷物」の低下は、スマートフォン普及の影響と見られる。

一方、「教養娯楽サービス6」については、さらに内訳を見ると、2012年頃までは遊園地入場料等を含む「他の教養娯楽サービス」は上昇傾向にあるが、2013年以降、低下傾向にある(図4)。一方で、「宿泊料」や「パック旅行費」など旅行費用につながる費目は、じわりと上昇している。図5で改めてみると分かりやすい。なお、物価を考慮した実質増減率で見ても同様の動きである。つまり、共働き世帯の余暇支出では、2012年頃までは遊園地などの日帰りレジャーが多かったが、近年では日帰りレジャーから旅行へ向ける割合が増えている可能性がある。

家計分析の経験的に余暇支出は世帯収入と比例しやすい。共働き世帯の世帯収入は、2000年以降、減少傾向にあるが、2012年以降はアベノミクス景気もあり前年を上回る年もある。

なお、「教養娯楽」全体としては低下傾向にあるため(実質増減率も減少傾向)、共働き世帯では娯楽費を全体では抑えながらも、アベノミクス景気による賞与等の増加に加えて、スマートフォンの代替による家電製品等の支出減少の影響もあり、余暇では日帰りレジャーより旅行を楽む意識がじわりと広がっているという認識が正しいだろう。

以上をまとめると、共働き世帯の消費内訳は「通信」や「食料」、「住居(購入)」など『必需的消費』の割合が上昇する一方、「教養娯楽」や「こづかい」、「交際費」などの『選択的(嗜好的)消費』の割合が低下している。なお、『必需的消費』のうち「食料」は物価上昇によるものでニーズの高まりではない。また、アベノミクス景気による収入増等により娯楽費の中で旅費を増やす傾向はあるようだが、全体的には『選択的消費』は減らし、貯蓄につなげている様子がうかがえる。
 
4 2015年4月1日から2019年3月31日までの間、20~49歳の者に親や祖父母が金銭により金融機関に信託等をした場合、1人あたり1,000万円(結婚資金のみは300万円)までの贈与が非課税。結婚費用には結婚式・披露宴費用や結納費用、新居の住居費、引越費用等が、子育て費用には不妊治療費や出産費用、産後ケア、子供の医療費、保育費等が認められる。
5 テレビや携帯型音楽・映像機器、ビデオレコーダー・プレイヤー、パーソナルコンピュータ、カメラ、ビデオカメラ、楽器、書斎・学習用机・椅子等が含まれる。
6 放送受信料や入場・観覧・ゲーム代が含まれる。後者は具体的には、映画・演劇等入場料やスポーツ観覧料、ゴルフプレー料金、スポーツクラブ使用料、文化施設入場料、遊園地入場・乗物代、諸会費、インターネット接続料などが含まれる。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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