コラム
2018年02月13日

「多子化する東京都」-少子化データを読む-大都会型子ども政策に、エリア少子化政策を重ねる危険性(1)

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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増えているのは大人だけではない

東京都の人口が増えている、と聞くと、それは少なくとも18歳以降の高卒後・大卒後の東京都以外のエリアからの社会流入による大人の増加なのではないか、と感じるかも知れない。大学への進学や就職のために大都会にでていく姿はめずらしくない。
そうであるならば東京都は大人だけが増えているのであるから「東京都といえども少子化(子どもの数の減少)はしてはいる」だろう、東京都の少子化問題もその他のエリアにおける少子化問題に関して似たようものといえるだろう、と考えられる。
 
実際、待機児童問題「保育落ちた日本死ね」がSNSやメディアで大きく取り上げられ、炎上という形で短期間に一気に全国に拡散し、全国において「子育て支援といえば保育園」とばかりに問題共有されている。
 
しかし、全国を揺るがした待機児童問題がもっとも深刻なエリア、東京都のリアルな姿は「大人の増加による人口増加特区」という特殊性だけにはとどまらない(図表2)。
【図表2】東京都の15歳未満人口の推移(千人)
上の表から、東京都では他のエリアからの社会流入による大人人口の増加だけではなく、あまりの過密化によりその増加傾向はようやく鈍化しつつあるものの、長期にわたり15歳未満の子ども人口も増加し続けてきたことがみてとれる。
 
つまり東京都において、もし子ども政策に関して悩みがあるとすれば、その背景にはもう10年以上も「増え続ける子ども」という社会状況があったのである。
近年において人口モンスター特区には「少子化問題」がその背景にはなかったことは間違いない。
このことを理解していないと、東京で主に叫ばれる子ども政策があたかも「少子化対策」であるような誤解をしてしまうのである。
 
くどいようだが、東京都は人口減少問題が全体論としては叫ばれる日本において、いまだ増え続ける人口に向き合い続けている「人口モンスター特区」、つまりは特殊エリアである。
 
この異常ともいえる特殊エリアで論じられる「子ども関連政策」を睨んで、あたかもそれが自らのエリアの少子化対策でもあるかのように考えてしまうことは、「特殊ではない平均的なエリア」にとっては非常に危険であるといえる。
 
もし他の「少子化」エリアが、自らのエリアを多子化してきた東京型の政策に習って変えようとしても、それは低い効果で終わってしまう可能性が高い。
今までの日本の少子化政策が長期にわたり保育問題の解消といった偏った政策にとどまってきたのも、それが東京型子ども政策であって全国レベルで見た際の真の少子化政策ではないことに気がつかなかったからかもしれない。
 
東京だけを睨んだ、もしくは東京を模した子ども政策はなぜ危険なのか。
森林でいうならば、全体としての森が急速に縮小してゆく(再生産機能が落ちてゆく)中で、増殖を続ける特殊な植物(しかもその増加が全体の森の拡大には連動してこない)の増殖方法について観察し、森全体にその方法をそのまま応用しようとすることになりかねないからである。
 
なぜ東京が人口モンスター特区としてその特殊性をみせてきたのか、そのことについての考察は次に譲りたい。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2018年02月13日「研究員の眼」)

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