2017年09月29日

中国経済:景気指標の総点検(2017年秋季号)~党大会前の現状確認と開催中に公表のGDP予想

三尾 幸吉郎

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3|その他の重要な4指標

【電力消費量】
経済活動に必要不可欠な電力消費量も注目される。15年にゼロ成長に落ち込んだ電力消費量は16年に入ると上向き16年後半には伸びを高め17年も高水準の伸びが続いていた。しかし、8月の工業部門は前年同月比2.4%増に落ち込んだため、今後を注視する必要がでてきた(図表-11)。

【貨物輸送量】
経済活動が活性化すると貨物輸送量も増える傾向がある。エネルギー改革で長らく前年割れに落ち込んでいた鉄道貨物は16年後半に底打ちし、17年は高水準の伸びを続けている。また、増加トレンドの電子商取引で物流の中核となる道路貨物は、16年末から伸びを高めている(図表-12)。

【工業生産者出荷価格】
物価指標も景気の体温と言われる景気指標のひとつである。8月の工業生産者出荷価格は前年同月比6.3%上昇と6ヵ月ぶりに上昇に転じた。内訳を見ると、生産財が上昇に転じたのに加え、消費財も小幅に上昇した(図表-13)。今のところデフレ懸念もインフレ懸念も小さいと見られる。

【通貨供給量(M2)】
景気を金融面から見る代表指標としては通貨供給量(M2)が挙げられる。ここもとの動きを見ると、伸びの鈍化傾向が続いており、8月は前年同月比8.9%増と17年の目標値である12%前後を大幅に下回った(図表-14)。但し、銀行は預貸率を徐々に引き上げており、銀行貸出残高は8月も前年同月比13.2%増と高い伸びを維持、景気への悪影響は限定的に留まっている。
(図表-11)電力消費の推移/(図表-12)鉄道貨物と道路貨物の推移
(図表-13)工業生産者出荷価格/(図表-14)通貨供給量(M2)の推移

3.総合指標の点検

3.総合指標の点検

(図表-15)最近の景気動向(景気評価点-5点) 1|「景気評価点」は景気の減速を示唆
まず、景気が上向きか下向きかを見極める上で有効な「景気評価点2」を確認する。これは第2章で概観した景気10指標を、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○=1点”、下向きであれば“×=0点”として集計した指標である(分岐点は○×同数の5点)。8月の景気評価点は4点となった。図表-15に示した景気評価点-5点の推移を見ると、17年3月以降はマイナスになることが多くなってきており、景気が減速し始めたことを示唆している(図表-15)。
 
2 景気評価点に関しては「景気の動向を簡単に把握できないか?」年金ストラテジー (Vol.219) September 2014を参照。
(図表-16)李克強指数の推移 2|「李克強指数」は高水準で横ばい
次に、15年夏の株価急落時に注目を集めた「李克強指数(修正後)3」を確認する。これは電力消費量(工業)、道路貨物輸送量、銀行貸出残高(中長期)の3つを用いた簡単な推計値だ。前述のとおり電力消費量(工業)の伸びは鈍化したものの、道路貨物輸送量と銀行貸出残高(中長期)は高水準の伸びを維持しており、李克強指数(道路輸送への修正後)は高水準で横ばい圏内の推移となっている(図表-16)。
 
3 李克強指数は、李克強首相が遼寧省党委員会書記だった2007年、景気実態を表す統計として、電力消費量(工業)、鉄道貨物輸送量、銀行貸出残高(中長期)の3つを重視したことに由来する。しかし、中国経済の構造的変化を勘案して、ここでは鉄道貨物を道路貨物に入れ替えた李克強指数(修正後)を掲載している。なお、3指標の加重割合は均等として計算した。
(図表-17)中国の実質GDP成長率(予測と実績) 3|実質成長率に換算すれば6.7%へ減速!
最後に、GDPに与える影響の大きい景気指標を用いて成長率を推計して見る。ここでは工業生産、製造業PMI、非製造業PMIの3つを説明変数としたニッセイ基礎研究所で開発した回帰モデルを用いた。その推計結果を見ると、10月19日に公表される7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比6.7%増と、4-6月期の同6.9%増を0.2ポイント下回る推計結果となった(図表-17)。
なお、中国共産党は8月31日に中央政治局会議を開催、10月11日に7中全会を開催するとともに、10月18日から第19回全国代表大会(十九大)を開催する方針であることを示した。そこで、十九大に向けて政治的緊張が高まるプロセスを山に例えた上で、財政金融面で景気支援策が打たれたタイミングや引き締めに転じたタイミング、そして中共十九大の注目点を整理したイメージ図を作成いたしましたので御参考として添付いたします。
(御参考)中共十九大と中国経済
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2017年09月29日「Weekly エコノミスト・レター」)

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