コラム
2016年12月05日

日本は何位?「アジア諸国の国際競争力」-世界経済フォーラムの直近ランキングより

平賀 富一

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(2)世界で上位10位以内にランクされるアジアの3国・地域に関する要点・トピックス

a.シンガポール:6年連続で総合第2位。ほとんどの指標(中項目)で上位10位以内にある。その内、高等教育・研修と財市場の効率性が世界首位、その他5項目で世界第2位となっている(公的制度の透明性、インフラなど)。さらに、マクロ経済の安定性や財政の健全性が高評価であるが、スイス等世界で最も強い競争力を有する最上位の諸国との相対比較では、ビジネスの洗練性やイノベーションの面で劣後している。
b.日本:総合8位(前年度より2ランク下降)。マクロ経済環境(104位)が競争力の大きな阻害要因となっている。労働市場の効率性も課題である(雇用・解雇の自由度、女性労働者比率、高度外国人雇用の問題が挙げられている)。加えて、市場参入と起業への障壁といった国内市場における競争の少なさと閉鎖性が指摘されている。他方、強みとして、優れたインフラ、および、製品・生産プロセスや国際分業などの面で洗練された企業や、イノベーション環境に寄与する調査・研究面の充実、などが挙げられている(ただし、イノベーションについては、2007-2015年には上位5位以内にあったが、直近では8位となり相対的な優位性は低下傾向にある)。

なお、参考情報として、日本について、WEFの総合ランキングにおける10年間の推移をみると下表のようになっており、2012-2013年の10位から改善傾向を示し、2014-2015年、2015-2016年には6位まで上昇したが、今回(2016-2017年度)は8位となっている。
図表-2 日本のWEF・総合ランキングの年度別推移
c.香港:総合9位(前年度より2ランクのダウン)。強固で安定したパフォーマンスがあり、全指標(中項目)の中で最も低いランキングが33位で、7項目で世界の上位10位以内に入っている。特にインフラは世界首位であり、金融セクターの発展度・洗練度・信頼度・安定度も4位と高く評価されている。さらに市場や労働市場の効率性、インターネットの活用や携帯電話の浸透度でも高評価である。一方、最大の課題はイノベーションの面とされている。

3.おわりに

アジア地域の諸国・地域の国際競争力について、WEFの直近ランキングをベースに概観した。

経済規模は小さいが世界トップ水準にランクされるシンガポール・香港、中進国としての今後の先進国入りを展望しつつ模索するマレーシア・タイ、経済大国である中国・インド・インドネシア、さらに、アセアンの後発加盟国として将来が期待されるカンボジア・ラオスなど多様な経済状況・発展度の国・地域が存在し、それぞれの立場で諸課題への取り組みや、改善努力が行われている。この点に関して、例えば、シンガポール、香港においては、スイスや米国などとの対比で、ビジネスの洗練性やイノベーションという、より高次元の分野で一層の取り組みが必要とされるなど、各水準や段階の国々にとって、競合する諸国との相対的な優位性という観点が重要となっている。わが国は、市場規模、インフラ、イノベーション等これまでの蓄積や取り組みが考慮され第8位という高評価となっているが、イノベーションにおける相対的な優位性の低下傾向が指摘されている。このような状況を考えると、マクロ経済の改善、諸改革の推進の必要性と同時にイノベーション分野の一層の強化の重要性が改めて認識されるといえる。本ランキングは、各国・地域の競争力に関する、一つの見方との位置ではあるが、その中には、各国・地域が、注力すべき分野の状況や競合との相対的なポジションの把握・分析に有用な情報を数多く含んでいるといえよう。

【参考】WEFとIMDの国際競争力ランキングの比較

WEFのランキングとIMDのWCYのランキングを比較すると、対象国・地域数(WEFが138、IMDが61)の他、評価項目・手法に違いが見られ、その結果としてのランキングにも相当な違いがある。WEFの評価は「国の生産力や収益力のレベルを決定する諸要素に焦点」を当てており、他方、IMDの評価は「グローバル企業にとっての企業の力を保つ環境を創出・維持する環境が整っているか」の視点で評価している(竹村、2014)などと分析される。事実、両機関による日本についての直近のランキングをみても、WEFでは8位、IMDは26位と大きな違いがある(両者の上位10カ国・地域のランキングを示したものが図表-3である)。
図表-3 WEFとIMDの国際競争力ランキング(上位10ヶ国・地域)
また両者の評価基準・手法等の内容や比較は、各機関の公表資料や、竹村(2014)、小針(2013)などの分析が参考になる。


<主要参考文献>
小針泰介(2013)「国際競争力ランキングから見た我が国と主要国の強みと弱み」 国立国会図書館調査及び立法考査局『レファレンス』平成25年1月号。

竹村敏彦(2014)「日本の国際競争力強化に向けた戦略と課題」 総務省情報通信政策研究所『情報通信政策レビュー』第 8 号。

World Economic Forum (WEF) (2016), The Global Competitiveness Report 2016-2017 および各年版。

International Institute for Management Development (IMD) (2016), World Competitiveness Yearbook 2016.
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平賀 富一

研究・専門分野

(2016年12月05日「研究員の眼」)

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