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- 中国経済:過剰債務問題の本質と展望
2016年09月23日
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2|中国に近い経済環境にある国はどこか?
そこで、非金融企業の債務残高(対GDP比)がピークアウトした当時の経済環境を確認してみよう。まず、産業構成を見ると、当時の韓国、タイ、マレーシアは鉱工業の比率が3割を超えるなど中国の産業構成に比較的近い。ベルギーと英国は農林水産業が1%未満で、鉱工業が2割を下回り、サービス産業が大半のその他が5割を超えるなど中国の産業構成とは大きな違いがある。また、アイルランドと日本はその間に位置する(図表-6)。他方、需要構成を見ると、韓国、タイ、マレーシアは総固定資本形成の比率が高く、政府支出の比率が低く、純輸出が一桁台のプラスなど中国の需要構成に比較的近いが、アイルランド、ベルギー、英国とは大きな違いがある。また、日本はその間に位置している(図表-7)。
以上を踏まえると、現在の中国経済は、1990年後半の韓国、タイ、マレーシアに似た経済環境にあると考えられる。即ち、工業化による経済発展が進む中で、非金融企業が高水準の投資を続けたため、貸借対照表(バランスシート)の資産サイドでは設備が積み上がる一方、負債サイドでは債務が積み上がったという局面である。そして、日本との比較で見れば、バブル崩壊後の1994年というよりも高度成長期後半に似た経済環境だと思われる。
そこで、非金融企業の債務残高(対GDP比)がピークアウトした当時の経済環境を確認してみよう。まず、産業構成を見ると、当時の韓国、タイ、マレーシアは鉱工業の比率が3割を超えるなど中国の産業構成に比較的近い。ベルギーと英国は農林水産業が1%未満で、鉱工業が2割を下回り、サービス産業が大半のその他が5割を超えるなど中国の産業構成とは大きな違いがある。また、アイルランドと日本はその間に位置する(図表-6)。他方、需要構成を見ると、韓国、タイ、マレーシアは総固定資本形成の比率が高く、政府支出の比率が低く、純輸出が一桁台のプラスなど中国の需要構成に比較的近いが、アイルランド、ベルギー、英国とは大きな違いがある。また、日本はその間に位置している(図表-7)。
以上を踏まえると、現在の中国経済は、1990年後半の韓国、タイ、マレーシアに似た経済環境にあると考えられる。即ち、工業化による経済発展が進む中で、非金融企業が高水準の投資を続けたため、貸借対照表(バランスシート)の資産サイドでは設備が積み上がる一方、負債サイドでは債務が積み上がったという局面である。そして、日本との比較で見れば、バブル崩壊後の1994年というよりも高度成長期後半に似た経済環境だと思われる。
3|BSの両サイド(投資と債務)がほぼ同時にピークを迎えた
タイの場合を見ると、1990年から1996年までの7年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が40%前後で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1991年の66.2%から1997年には114.9%まで急拡大している(図表-8)。マレーシアの場合を見ると、1993年に総固定資本形成(対GDP比)が40%を超えた後、1995年には46.9%に達し、その後も1997年まで40%台の高水準を維持した。一方、民間非金融セクター1の債務残高(対GDP比)は、1990年の104.7%から1997年には167.2%まで急拡大している(図表-9)。また、同時期の韓国では、1990年から1996年までの7年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が35%超で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1990年の76.8%から1997年には110.2%まで拡大している。そして、かつての日本でも高度成長期後半の1969年から1974年までの6年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が35%前後で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1969年の97.2%から1972年には113.5%まで拡大している。
タイの場合を見ると、1990年から1996年までの7年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が40%前後で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1991年の66.2%から1997年には114.9%まで急拡大している(図表-8)。マレーシアの場合を見ると、1993年に総固定資本形成(対GDP比)が40%を超えた後、1995年には46.9%に達し、その後も1997年まで40%台の高水準を維持した。一方、民間非金融セクター1の債務残高(対GDP比)は、1990年の104.7%から1997年には167.2%まで急拡大している(図表-9)。また、同時期の韓国では、1990年から1996年までの7年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が35%超で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1990年の76.8%から1997年には110.2%まで拡大している。そして、かつての日本でも高度成長期後半の1969年から1974年までの6年間に渡って総固定資本形成(対GDP比)が35%前後で推移する一方、非金融企業の債務残高(対GDP比)は、1969年の97.2%から1972年には113.5%まで拡大している。
1 マレーシアの非金融企業の債務残高(対GDP比)は2006年以降しか入手できなかったため、非金融企業に家計を加えた民間非金融セクターの債務残高(対GDP比)を用いて記述している。なお、2015年末時点の家計の債務残高(対GDP比)は71%となっている。
4|その後の4ヵ国
それでは、現在の中国に類似した経済環境にあった前述4ヵ国(韓国、タイ、マレーシア、日本)の経済は、その後どうなったのであろうか。図表-10は総固定資本形成(投資)の対GDP比が急減する前年を基準年(=0年)として前後7年間の動きを見たものである。これを見ると、4ヵ国ともに高水準の投資が続いた後に、投資比率が屈折(急低下)し、その後は調整前の投資比率の水準には戻れなかったことが分かる。
他方、図表-11は同じ基準・時間軸で経済成長率の動きを見たものである。これを見ると、4ヵ国の経済成長率はともに、投資比率が屈折した年を含めて2年以内にマイナスに陥っている。また、マイナス成長になったのは4ヵ国ともに1年だけで、その後は比較的安定した経済成長を実現している。但し、経済成長率の水準はマイナス成長に陥る前の半分前後のスピードに減速している。
それでは、現在の中国に類似した経済環境にあった前述4ヵ国(韓国、タイ、マレーシア、日本)の経済は、その後どうなったのであろうか。図表-10は総固定資本形成(投資)の対GDP比が急減する前年を基準年(=0年)として前後7年間の動きを見たものである。これを見ると、4ヵ国ともに高水準の投資が続いた後に、投資比率が屈折(急低下)し、その後は調整前の投資比率の水準には戻れなかったことが分かる。
他方、図表-11は同じ基準・時間軸で経済成長率の動きを見たものである。これを見ると、4ヵ国の経済成長率はともに、投資比率が屈折した年を含めて2年以内にマイナスに陥っている。また、マイナス成長になったのは4ヵ国ともに1年だけで、その後は比較的安定した経済成長を実現している。但し、経済成長率の水準はマイナス成長に陥る前の半分前後のスピードに減速している。
(2016年09月23日「基礎研レポート」)
三尾 幸吉郎
三尾 幸吉郎のレポート
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