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- 女性活躍推進法が成立~均等法施行から30年で、次のステージへ
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2015年8月28日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)が参議院本会議で可決され、成立した。女性活躍推進法の成立により、2016年4月1日より、女性活躍推進のための一般事業主行動計画の策定、厚生労働省への届出、従業員への周知・公表、さらには女性の職業選択に資する情報の定期的な公表が、企業に義務づけられる(従業員301人以上の企業は義務、300人以下の企業は努力義務)。一般事業主行動計画には、(1)採用者に占める女性の割合、(2)男女の継続勤務年数の差異の縮小の割合、(3)労働時間、(4)管理職に占める女性の割合等について、数値目標を盛り込まなければならない。数値目標は一律的なものでなく、各企業が、「その事業における女性の職業生活における活躍に関する状況を把握し、女性の職業生活における活躍を推進するために改善すべき事情について分析した上で、その結果を勘案して」(法第8条3)定めることとされている。
2016年4月1日は、男女別の雇用管理が規制された「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」(均等法)の施行(1986年4月1日)からちょうど30年に当たる。均等法は、職場における男女差別の撤廃等を目指したものであるが、当時多くの企業は、男性に適用してきた雇用管理をそのまま一部の女性に適用することを通じて、この法規制に対応した。これにより、確かに一部の女性は、従来男性のみに開かれていた昇進競争に参画できるようになった。しかしながら、男性は仕事、女性は家庭という伝統的な男女役割分業を前提として企業で形成されてきた雇用管理を、形式的に男性と同じように適用されることは、女性が実質的に不利な競争条件下に置かれることと同義であった。
たとえば、30年前に比べれば、仕事と家庭の両立支援が一定程度進んできたものの、恒常的な長時間労働を前提とする働き方はまだ根強く残っている。多くの企業で、新卒採用から一人前さらには管理職になるまで、出産等のライフイベントを想定しない画一的な育成・昇進システムが適用されてきた。このようななか、たとえば管理職になった場合、職場においては男女ともに同じ役割が期待され、家庭においては女性により多くの役割が期待されることになる。少なからぬ女性が管理職になりたがらない背景にあるこうした現実は、30年前から大きくは変わってない1。結果としていまだに管理職の9割は男性であり、必然的に、多くの女性社員は男性の管理職によって育成されることになる。管理職や女性社員自身のジェンダー・バイヤスによって、女性社員に過度な配慮がなされること等により、女性社員の成長機会が制約され、育成が滞るケースも少なくない。
一方、女性活躍推進法が目指す女性活躍推進は、男性に適用してきた雇用管理を、単にそのまま女性に適用するだけでは到底実現できず、雇用管理のあり方そのものを見直す必要性をともなう。そういう面で、女性活躍推進法は均等法から次のステージに一歩踏み込んで、企業の雇用管理にインパクトを及ぼすものになると考えられる。逆にいうと、企業が、法律でいうところの「女性の職業生活における活躍を推進するために改善すべき事情」すなわち伝統的な男性向けの雇用管理を見直さず、採用や管理職登用等の数値目標だけを達成しようとすれば、かなりの確率で女性活躍推進は失敗し、禍根を残すという結末になるだろう。また、女性活躍推進のために雇用管理を見直そうとする企業も、変革にともなって、ある程度軋轢や抵抗が出てくることを覚悟する必要がある。長い年月をかけて形成されてきた男性向けの雇用管理を変えるためには、企業が信念を持って、社内に理解を求めながら粘り強く取り組むことが不可欠である。
均等法施行から30年。女性の雇用管理は次のステージに入った。労働力人口の分母が細る一方で、より意欲・能力の高い人材を確保する必要性が高まっているなかで、企業にとって、女性活躍推進のための雇用管理の見直しは、女性活躍推進法への対応だけでなく、むしろ経営戦略として避けて通れない課題だといえよう。女性活躍推進法の有効期限である10年の間に、女性が活躍できる雇用管理をどこまで整備できるかによって、労働力人口が一段と減少する10年後における、企業の競争力は大きく変わってくるだろう。
(2015年08月31日「研究員の眼」)
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