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- 他力本願と寛容社会-大競争時代に求められる“社会の寛容性”
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先日、新宿駅からほど近いところに完成した仏教寺院の見学に行った。喧騒を遮断するかのようにコンクリート打放しの壁に包まれた6階建ての現代建築だ。蓮の花をイメージして足元は絞り込まれ、ゆるやかに広がる曲線を描いた外壁が上空に伸びる。
入口には小さな池があり、それを渡ることで、此岸から彼岸に至るという。内部空間は、非定型の採光部がたくさん設けられ、天窓は流れゆく雲を一枚の絵として切り取る。手水鉢から溢れ出た水は階下に滴り落ち、吹き抜けの階段室に水琴窟のように響き、空間の静寂を際立たせる。
如来堂には金色に輝く阿弥陀如来立像があり、その傍には漆黒のグランドピアノが置かれている。本堂脇には敦煌壁画「阿弥陀説法図」の原寸大復元画が、ギャラリーには法隆寺金堂の壁画模写がある。3層吹抜けの「空の間」には、せせらぎや風を感じる環境音楽が流れ、白書院では松井冬子の手になる襖絵「生々流転」が展開する。かつての寺院が文化の集積所であり多くの人々の交流の場だったように、この寺院は「シルクロードを経て伝来した文化芸術の集積施設」を追求したのだという。
2階と地下1階には、参拝所がある。彼岸にいる亡き人を心穏やかに偲ぶ“祈り”の場だ。墓石の背面には、ひとつひとつ異なる壁画が描かれ、それぞれの小宇宙を表現している。参拝のときには、生前の映像も映し出される。少子高齢化が進展し、墓守が少なくなる時代の都市型納骨墓所である。
私にとって“祈り”とは死者に対してだけでなく、人間の能力を超えた「他力」に対して、謙虚に頭を垂れることでもある。それは特に宗教に帰依していなくても、大いに心を癒してくれる。なぜなら、“祈り”は、われわれが人生で背負う様々な重い荷物を軽くしてくれるような気がするからだ。
現代は大競争時代である。競争が社会の革新をもたらす。しかし、競争は勝者と敗者を生む。誰もが成功するとは限らないのだ。どれだけ努力しても失敗することもある。だから大競争時代は失敗に対して寛容な社会でなければならないと思う。そして、競争が本当の社会の進歩につながるためには、それが公正で、失敗しても敗者復活の仕組みと致命傷に至らないセーフティネットが不可欠だろう。
浄土真宗の開祖・親鸞聖人は、「他力本願」を唱えた。それは努力なくして本願成就することを意味するのではない。その教えは、人間の力の有限性を受容した結果、「他力」に帰依する寛容さを示唆しているように思う。新宿の喧騒に佇む寺院の静謐な“祈り”の空間の中で、私は、今日の大きな格差をもたらした大競争時代には“社会の寛容性”が益々必要であることを強く感じたのである。
(2014年07月14日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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