- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 財政・税制 >
- 暑い夜に怖い話は定番だが・・・財政健全化に向けた判断に期待すること
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
夏の風物詩と言えば、家族旅行、海水浴や花火などのレジャー、夏祭りや盆踊り、スイカやカキ氷、ビールなどの冷たい飲食物などが挙げられるでしょう。この他にも、肝試しやお化け屋敷、怪談などに束の間の涼しさを求める人もいるのではないでしょうか。筆者も学生時代、サークルの夏合宿で肝試しをして、涼しい(怖い)思いをした経験があります。
肝試しなどで涼しく感じる仕組みは、医学的には諸説があるそうです。いくつかを紹介すると、一つ目は、恐怖を感じることで体が緊張状態になり動悸や呼吸が速まって、酸素やエネルギーを脳や筋肉に届けようと末梢の血管が収縮して手足が冷たくなるという説です。他には、脳の中の恐怖を感じる領域と、冷たさを感じる領域とが近いために、恐怖を冷たさと誤認してしまうという説などがあるそうです。いずれにしても、あまりコストがかからずに涼を感じる手段であるようです。
日本の財政や経済にとって、この夏から秋は重大な判断をする暑い季節です。中期財政計画が閣議了承され、社会保障制度改革国民会議の報告書がまとまりました。秋には消費税率の引き上げについて安倍総理が判断を下します。日本の財政状況の厳しさは、当社のレポートは勿論、多くの媒体で述べられているので詳細な説明は行ないませんが、債務残高がGDP比で224%という水準は、他の先進国と比較して突出しているだけでなく、更に悪化する傾向が続いています。このような莫大な債務をどうするかという道筋を示すものが中期財政計画であり、歳出と歳入の具体的な対策の柱が社会保障制度改革と消費税率の引き上げです。
アベノミクスにより良い方向に進み始めた日本経済が、今後、自律的な回復軌道に乗るためには、消費者マインドや経営者心理の改善による、個人消費や設備投資の増加が必要不可欠です。将来に不安を感じたままでは、財布の紐はなかなか緩まないでしょう。イソップ寓話の「北風と太陽」ではありませんが、国民が安心できる持続可能な社会保障制度や健全な国家財政への道筋が見えてこそ、本格的な消費や設備投資の伸びが期待できるでしょう。今年になってから個人消費は好調ですが、暗闇の中に見つけたおぼろげな光に対する期待の表れではないでしょうか。
財政状況が厳しい国は日本だけではなく、各国政府の取り組みに関心が寄せられています。各国政府の財政健全化の取り組みに対する市場からの警鐘は、格付の引き下げや金利上昇、株価や為替レートの下落などの金融マーケットの動きを通じて発せられてきました。日本については、国債の格下げやジャパンプレミアム、株価下落などで警鐘が発せられた時期もありましたが、今のところは大事には至っていません。8/12に2013年4~6月期の実質GDPの成長率(速報値)が発表され、+2.6%(年率換算)の3四半期連続のプラス成長となり、経済成長の面から消費税率の引き上げを躊躇する理由は無いでしょう。消費税率の引き上げは、金融マーケットでは既に織り込まれており、企業内での対応も進んでいます。
安全工学やリスク管理の分野では、ハインリッヒの法則というものが知られています。これは、「1つの重大事故の背後には、29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」というものです。今回の財政健全化に向けた判断を誤ると、300の警鐘のうちの1つではなく、1つの重大な事象が生じないとも限りません。
お化け屋敷は、本当はお化けなどいないと信じた上で、一時の涼を求めるものです。いくら暑いといっても本物のお化けに出会っては洒落になりません。
(2013年08月12日「研究員の眼」)
03-3512-1803
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1991年 ニッセイ基礎研究所
1998年 日本生命 資金証券部、運用リスク管理室
2006年 ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)
2011年 ニッセイ基礎研究所
2015年 日本生命 特別勘定運用部、団体年金部
2025年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 認定アナリスト
新美 隆宏のレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
|---|---|---|---|
| 2025/10/27 | 秋の夜長に市民と経済の主食を考える-農業と電力はこれからも日本の食欲を満たせるのか | 新美 隆宏 | 研究員の眼 |
| 2025/09/17 | 「最低賃金上昇×中小企業=成長の好循環」となるか?-中小企業に託す賃上げと成長の好循環の行方 | 新美 隆宏 | 研究員の眼 |
| 2025/06/20 | トランプ関税をオプションで考える-影響と対応のヒントを探る | 新美 隆宏 | 研究員の眼 |
| 2025/06/05 | 金利のある世界の歩き方-新たな環境下での年金運用を考える | 新美 隆宏 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年10月30日
潜在成長率は変えられる-日本経済の本当の可能性 -
2025年10月30日
米FOMC(25年10月)-市場予想通り、政策金利を▲0.25%引き下げ。バランスシート縮小を12月1日で終了することも決定 -
2025年10月30日
試練の5年に踏み出す中国(後編)-「第15次五カ年計画」建議にみる、中国のこれからの針路 -
2025年10月30日
米国で進む中間期の選挙区割り変更-26年の中間選挙を見据え、与野党の攻防が激化 -
2025年10月29日
生活習慣病リスクを高める飲酒の現状と改善に向けた対策~男女の飲酒習慣の違いに着目して
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【暑い夜に怖い話は定番だが・・・財政健全化に向けた判断に期待すること】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
暑い夜に怖い話は定番だが・・・財政健全化に向けた判断に期待することのレポート Topへ










