2012年06月29日

欧州住宅市場の現状と今後~ EU危機は米国を上回るのか ~

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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■見出し

1―はじめに
2―住宅価格の動向
3―住宅建設や取引の動向
4―住宅ローンの破綻状況
5―EU住宅市場の特徴と今後
6―むすびにかえて

■introduction

EU諸国では英国やGIIPSなどの住宅バブルが米国金融危機のショックにより崩壊し、米国以上の危機につながることや、おりしも財政難にある各国のソブリンリスクが高まるという懸念がもたれていた。その後、アイルランドやギリシャ、ポルトガル、スペインに対してはEUやIMF等の財政支援が既に具体化しつつある。そこで、これらの国々を含め、英国やフランス、ドイツ、イタリアなどEU主要国における住宅・ローン市場の現状と今後を展望した。
英国の場合は過去に幾度もの住宅バブルが発生し崩壊してきた経緯があるが、今回はサッチャー政権末期のようなバブル崩壊には至らない可能性が高い。フランスでは一時的な住宅価格や供給の落ち込みがあったが、居住権法をクリアすべく各種の支援措置が講じられており、既に住宅市場は足下では成長に転じている。借家国ドイツでは住宅バブルの発生と崩壊は観察されず、比較的安定した市場が確保されている。
アイルランドやスペイン、ギリシャでは変動の大きさから住宅バブルの発生と崩壊があったものと判断されるが、ポルトガルの場合はむしろ長期の景気低迷が住宅価格下落の主たる要因と考えられる。スペインのバブルは急激な移民増加を背景とした実需に伴う建設ブームが引き金となったものである。しかし、多くの移民を引き寄せるスペインの魅力や潜在成長力は高いことから、速やかな回復を期待したい。イタリアの状況は市場データが乏しいため引き続き注視する必要がある。
米国とEUとを比べると、EU主要国では社会住宅や住宅手当等の充実により、低中所得世帯が無理をせずに住宅を確保できるのに対し、米国ではサブプライムローンに代表されるように低中位所得世帯の持家取得もバブル経済に深く関わっていた経緯がある。EUは金融統合を進めてはいるが、財政や住宅市場など、様々な点で、各国の事情は異なる。これらの理由から、EU諸国の住宅市場が全体として米国を上回る新たな金融危機の引き金になるとは考えにくい。

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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴
  • 【職歴】
     1975年 丸紅(株)入社
     1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
     2001年より現職

    【加入団体等】
     ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
     ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
     ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
     ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
     ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
     ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
     ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
     ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
     ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
     ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

(2012年06月29日「基礎研レポート」)

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