- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 企業経営・産業政策 >
- 被災地での人材派遣業の貢献に思う
コラム
2012年02月24日
東日本大震災の被災地においては、仕事と人材のミスマッチが大きな課題となっている1が、このミスマッチ解消において人材派遣業が存在感を発揮している。
日本人材派遣協会の資料によると、2011年3月14日から年末までに、被災3県で会員派遣会社が創出した新規就業者数は14,076人で、この規模は公共職業安定所を経由した新規就業者数の11.5%に相当する。全国でみると、派遣社員占率が雇用者の1.7%に過ぎない(2011年10~12月、総務省「労働力調査」より)状況を考えると、被災地でのマッチング促進に対する人材派遣業の貢献の大きさを実感できよう。
復興後がなかなか見通せない不確実な状況のなかで、正社員を雇用できないが、必要な人材が足らないという企業は少なくない。企業側からすると、多くの人材が登録・雇用されている派遣会社に頼めば、求める人材を迅速に派遣してもらえるという利点がある。また、働く側が派遣会社に期待する役割も大きい。もともと働いていた工場が再建されればそこで働きたいと、工場の再建を待っている人は、別の企業の正社員より、当面は派遣という働き方を選択したいかもしれない。別の地域で直接雇用の仕事に就くのには抵抗があるが、3ヶ月の派遣であれば別の地域で働いてみようと思う人もいるだろう。派遣会社はこういう就業ニーズの受け皿となって、短期のマッチングを行うことに長けている。
考えてみれば、マッチングが課題になっているのは被災地だけではない。全国の2011年12月のデータをみても、充足率(就職件数/新規求人数)も就職率(就職件数/新規求職数)も各25.7%、34.4%と低迷している(厚生労働省「職業安定業務統計」より)。労働力人口の減少、経営環境における不確実性の増大、産業構造の変化といった今後想定される環境変化のもと、マッチングにおいて派遣というシステムが担う役割が、全国的にも一層重要になってくると考えられる。
一方で、リーマンショック後のいわゆる「派遣切り」への批判を受けて、常用以外の製造業務や一部の登録型派遣の禁止等、派遣というシステムに対する大幅な規制強化を盛り込んだ派遣法改正案(2010年3月閣議決定2)は、その後ほぼ2年にわたって迷走した末、結局元通りに近づける形3に修正されたうえで、いまだに国会で審議が続けられている。この間、リーマンショック直前の2008年7~9月には140万人だった派遣社員数は、2011年10~12月には93万人まで減少している(総務省「労働力調査」より)。減少した派遣社員が直接雇用になったのか、労働条件が向上したのか、あるいは労働条件が低下したのか、仕事を失ったのか、その行く末を詳しく検証することは残念ながら難しいが、リーマンショック以降、法案が迷走を続けている間に、派遣社員や人材派遣業を取り巻く環境が一変したことは確かだろう。
マッチングにおける派遣というシステムの重要性を鑑みると、今後求められるべきは、もはや派遣というシステムそのものの存否を問う議論でも、実態に合わなくなった規制の綻びを繕うための議論でもないはずである。派遣というシステムを、派遣社員、派遣会社、派遣先にとって(中長期的に見れば3者の利害は対立するものではない)より良いものにするための真正面からの議論を、もっと広げていかなければならない。被災地での人材派遣業の貢献ぶりを見るにつけ、筆者はこうした思いを一層強くする。
1 被災3県の公共職業安定所に関する求人・求職の動向については、拙稿「被災地の雇用はマッチングが課題」(ニッセイ基礎研レポートVol.180、2012年3月)を参照されたい。
2 あわせて厚生労働省より、2010年2月に「専門26業務派遣適正化プラン」が、同年5月に「専門26業務に関する疑義応答集」が公表され、2010年の法案における登録型派遣の許容業務に禁止予定業務が混在しないよう、派遣会社等への指導が強化されている。
3 製造業務派遣や登録型派遣を制限する規制強化は見直され、現行のままとなる。一方、違法派遣の「みなし雇用」規定、日雇い派遣(日々又は2ヵ月以内の派遣)の制限、派遣会社のいわゆるマージン率の公開等の規制強化は存置されている。
日本人材派遣協会の資料によると、2011年3月14日から年末までに、被災3県で会員派遣会社が創出した新規就業者数は14,076人で、この規模は公共職業安定所を経由した新規就業者数の11.5%に相当する。全国でみると、派遣社員占率が雇用者の1.7%に過ぎない(2011年10~12月、総務省「労働力調査」より)状況を考えると、被災地でのマッチング促進に対する人材派遣業の貢献の大きさを実感できよう。
復興後がなかなか見通せない不確実な状況のなかで、正社員を雇用できないが、必要な人材が足らないという企業は少なくない。企業側からすると、多くの人材が登録・雇用されている派遣会社に頼めば、求める人材を迅速に派遣してもらえるという利点がある。また、働く側が派遣会社に期待する役割も大きい。もともと働いていた工場が再建されればそこで働きたいと、工場の再建を待っている人は、別の企業の正社員より、当面は派遣という働き方を選択したいかもしれない。別の地域で直接雇用の仕事に就くのには抵抗があるが、3ヶ月の派遣であれば別の地域で働いてみようと思う人もいるだろう。派遣会社はこういう就業ニーズの受け皿となって、短期のマッチングを行うことに長けている。
考えてみれば、マッチングが課題になっているのは被災地だけではない。全国の2011年12月のデータをみても、充足率(就職件数/新規求人数)も就職率(就職件数/新規求職数)も各25.7%、34.4%と低迷している(厚生労働省「職業安定業務統計」より)。労働力人口の減少、経営環境における不確実性の増大、産業構造の変化といった今後想定される環境変化のもと、マッチングにおいて派遣というシステムが担う役割が、全国的にも一層重要になってくると考えられる。
一方で、リーマンショック後のいわゆる「派遣切り」への批判を受けて、常用以外の製造業務や一部の登録型派遣の禁止等、派遣というシステムに対する大幅な規制強化を盛り込んだ派遣法改正案(2010年3月閣議決定2)は、その後ほぼ2年にわたって迷走した末、結局元通りに近づける形3に修正されたうえで、いまだに国会で審議が続けられている。この間、リーマンショック直前の2008年7~9月には140万人だった派遣社員数は、2011年10~12月には93万人まで減少している(総務省「労働力調査」より)。減少した派遣社員が直接雇用になったのか、労働条件が向上したのか、あるいは労働条件が低下したのか、仕事を失ったのか、その行く末を詳しく検証することは残念ながら難しいが、リーマンショック以降、法案が迷走を続けている間に、派遣社員や人材派遣業を取り巻く環境が一変したことは確かだろう。
マッチングにおける派遣というシステムの重要性を鑑みると、今後求められるべきは、もはや派遣というシステムそのものの存否を問う議論でも、実態に合わなくなった規制の綻びを繕うための議論でもないはずである。派遣というシステムを、派遣社員、派遣会社、派遣先にとって(中長期的に見れば3者の利害は対立するものではない)より良いものにするための真正面からの議論を、もっと広げていかなければならない。被災地での人材派遣業の貢献ぶりを見るにつけ、筆者はこうした思いを一層強くする。
1 被災3県の公共職業安定所に関する求人・求職の動向については、拙稿「被災地の雇用はマッチングが課題」(ニッセイ基礎研レポートVol.180、2012年3月)を参照されたい。
2 あわせて厚生労働省より、2010年2月に「専門26業務派遣適正化プラン」が、同年5月に「専門26業務に関する疑義応答集」が公表され、2010年の法案における登録型派遣の許容業務に禁止予定業務が混在しないよう、派遣会社等への指導が強化されている。
3 製造業務派遣や登録型派遣を制限する規制強化は見直され、現行のままとなる。一方、違法派遣の「みなし雇用」規定、日雇い派遣(日々又は2ヵ月以内の派遣)の制限、派遣会社のいわゆるマージン率の公開等の規制強化は存置されている。
(2012年02月24日「研究員の眼」)
関連レポート
松浦 民恵
研究・専門分野
松浦 民恵のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2017/04/07 | 「男性の育児休業」で変わる意識と働き方-100%取得推進の事例企業での調査を通じて | 松浦 民恵 | 基礎研マンスリー |
2017/02/20 | 「男性の育児休業」で変わる意識と働き方-100%取得推進の事例企業での調査を通じて | 松浦 民恵 | 基礎研レポート |
2016/12/07 | 「130万円の壁」を巡る誤解-2016年10月からの適用要件拡大の意味を正しく理解する | 松浦 民恵 | 基礎研マンスリー |
2016/11/17 | 再び注目される副業-人事実務からみた課題と方向性 | 松浦 民恵 | 基礎研レポート |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年10月25日
金融システム、特に保険と年金基金のリスクと脆弱性に対する助言等の公表(欧州 2024秋)-EIOPA等の合同報告書の紹介 -
2024年10月25日
米労働市場の緩やかな減速が継続-景気が堅調を維持する中、失業率の大幅上昇は回避へ -
2024年10月25日
副業・兼業で広がるキャリア戦略~会社視点の働き方改革から生き方改革へ~ -
2024年10月24日
24年9月末時点の経過措置適用企業の進捗状況~経過措置の適用は2025年3月から順次終了~ -
2024年10月23日
円安再燃、1ドル160円に逆戻りするリスクは?~マーケット・カルテ11月号
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【被災地での人材派遣業の貢献に思う】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
被災地での人材派遣業の貢献に思うのレポート Topへ