コラム
2010年02月19日

公募地方債の依頼格付け取得拡大に向けて~地方債市場の健全な拡大には、格付けの存在が必須~

金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸

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今通常国会に提出されている来年度の地方債発行計画によると、2010年度の公募地方債発行団体は、新規に加わる三重県を含めて合計で48団体となる。そのうち、2010年1月末までに格付会社から依頼格付けを取得している団体は24団体であり、ちょうど半分に当たる状況である。公募地方債発行団体による依頼格付けの取得は、2006年10月に横浜市がスタンダード&プアーズ(S&P)より初めて取得して以来、徐々に増加してきた。しかし、残念ながら取得団体数の増加ペースは極めて緩やかなものでしかなく、半数については、未だに格付けを取得していないのである。

公募地方債発行団体に依頼格付けの取得数が増えない理由には、幾つか考えられる。まず、歴史的な経緯からも格付けといった外部の評価を得て、ランク付けされることを嫌う地方公共団体が少なくないことがある。実際に、一部の首長が明示的にスタンスを明言しているところもある。近隣もしくは同程度の規模の他の地方公共団体と比較されたくないという思いが強いようである。こういった感情的もしくは政治的な要因に加えて、他に技術的な要因として二点を指摘することができる。

一つは、格付投資情報センター(R&I)や日本格付研究所(JCR)による網羅的な比較基準が、非依頼格付けという形で存在していたことである。かつて両社とも、公募地方債発行団体すべてに対して非依頼格付けを付与していた。両社は後にそれぞれ撤回したが、R&Iはその後も新財務ランクを公表していた。これは、定量評価のみによる分類で、本来の格付けとは全く異なるものであったが、序列を付したことで一部の市場参加者から格付けと同様なものと取扱われる不幸な結果となってしまっていた。財務ランクは公募地方債発行団体以外の県や政令指定都市をも対象としており、最下位のランクとされた地方公共団体の銀行等引受債は流通市場での需要が低下してしまったのである。網羅的な一覧の存在は市場参加者にとって便利なものであるが、却って依頼格付け取得を阻害するものとなってしまったのである。結局、R&Iは、2009年末に新財務ランクを撤回するに至った。

もう一つが、ムーディーズによる地方債格付けの付与であろう。同社の地方債に対する格付けは、複合デフォルト分析の考え方に基づき、個別の地方公共団体の信用力に加えて、政府によるサポートを強く意識している。ベースライン信用力評価と呼ばれる、個々の地方公共団体に対する評価は別途数字で開示されるものの、格付けとしては日本国債と同水準であるAa2格(2009年7月以降)が付与される。論理的には筋の通ったものであるが、結果として、公募地方債を発行する地方公共団体は、格付手数料を払って明示的にAa2格を取得しなくても、論理的にAa2格相当なのである。これでは、依頼格付けの取得が進まない。一部には、他の地方公共団体と同じ格付けが取得できるからということを理由に、ムーディーズからの格付け取得を希望する地方公共団体も一部には存在するようだが、結果的には、ムーディーズは自ら依頼格付けの促進機会を失っているのである。

政府による地方財政制度に対するサポートは、ムーディーズに限らず、どの格付会社も格付けを付与する際に、重要な要素としている。しかし、将来的に日本政府の財政状況が悪化し、政府によるサポートの可能性が著しく低下した場合には、地方債の格付けが個々の地方公共団体の信用力に応じて、より大きな幅で差の生じることが考えられる。ヨーロッパでは、ギリシャやポルトガル等といった南欧諸国だけでなく、イギリスの財政状態すら懸念される状況となっている。日本でも、今後の歳出削減・税収増加等のプライマリーバランス維持の努力が不調となった場合には、ソブリン格付けそのものが現実に低下する状況となり、更にその影響を受けて格付けの地方公共団体間格差の拡大する可能性は高いのである。
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金融研究部   取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

経歴
  • 【職歴】
     ・1986年 日本生命保険相互会社入社
     ・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
     ・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
     ・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
     ・2021年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・日本ファイナンス学会
     ・証券経済学会
     ・日本金融学会
     ・日本経営財務研究学会

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