2014年10月21日開催

パネルディスカッション

「進化する企業の不動産活用」

パネリスト
板谷 敏正氏 プロパティデータバンク株式会社
代表取締役社長
長坂 将光氏 日本マイクロソフト株式会社
リアルエステートポートフォリオマネージャー
古屋 幸男氏 東京建物株式会社
アセットソリューション事業部長
コーディネーター
松村 徹

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はじめに

■松村 それでは、「進化する企業の不動産活用」というテーマでディスカッションしたいと思います。

ご承知のとおり、今、不動産ブームで、基礎研設立以来ちょうど3回目のブームになります。今回は、先ほど市川先生からお話があったように、東京オリンピックの期待もあり、低金利、円安ということで随分と不動産にお金が流れているようです。

さらに、相続税の基礎控除が引き下げられるので、節税目的で富裕層のお金がタワーマンションや賃貸住宅に流れています。この点、前回の不動産ブームとは異なる様相ともいえ、今後どうなるかが注目されます。

ブームですからサイクルがあって、上がれば下がる、下がれば上がります。今日お配りしている書籍にも書いてありますが、サイクルとは別に、私どもが「地殻変動」と呼ぶマーケットの構造変化も90年代の終わりごろから随分起こっています。

まず少子高齢化ですが、例えば60年前の、私が生まれた1955年の人口は9000万人でしたが、40年後の人口がまた9000万人です。2008年がピークで1億3000万人弱。結局増えた分が元に戻るわけですが、これはサイクルというよりも構造的な変化です。

その他、グローバル化、インターネットの普及、震災リスクやエネルギー問題の顕在化などの「地殻変動」を踏まえれば、企業と不動産の付き合い方もこれまでとは随分違うことになっていくのではないでしょうか。そこで、専門家のお三方に来ていただいて話を進めたいと思います。

紹介も兼ねて順にお話を伺っていきたいと思います。まず板谷さんですが、清水建設の社内ベンチャーでスピンアウトされ、企業の不動産データベースをクラウドで構築・運用する仕事をなさっています。クラウドという言葉がなかった時代からですからもう10年以上になりましょうか。

板谷さんの所属されている日本ファシリティマネジメント協会のCRE(Corporate Real Estate:企業不動産)マネジメント研究部会で、日本企業と不動産について興味深い結果が出たと聞いていますので、まずそのお話をお願いします。

各パネリストのお仕事と不動産との関係―日本企業の不動産と位置づけ―

■板谷 板谷と申します。どうぞよろしくお願いします(拍手)。

今、松村さんからご紹介がありましたように、日本の企業が不動産とどんな付き合いをしているのかを、ファシリティマネジメント協会の研究部会で、大学と連携して調査研究を進めています。

大きな話からさせていただくと、日本には公共が持っている不動産が500兆円、企業が持っている不動産も同じく約500兆円あると言われています。残りは個人です。企業と公共が持っている不動産は、金額ベースではアメリカ以上になるほど巨大な資産額です。

それがグローバル化や人口減少などの動きを受けて、さまざまな変革が進んでいるのが現状です。官公庁・自治体が持っている不動産の大きな課題は、老朽化と量が多過ぎることです。対策に一生懸命取り組んでいますが、特に、自治体はそれ自体が引っ越したり縮小したりできないだけに対応に苦しんでいて、次世代にまで影響するような大きな課題になっています。

企業の方は自治体と違っていろいろな方法があります。量を減らしたり移転したり、統廃合したり競争力を付けたりということで大きな変革が進んでいます。そのあたりはまた後ほど詳しくご紹介できればと思います。

日本の特徴として申し上げたいのは、自動車や電機産業を欧米企業と日本企業を比べると、日本企業の不動産の方が3~4倍も量が多いことです。売上高を不動産で割った回転率では、3~4倍違うことがわかります。

つまり、同じ1台の車を造るのに必要な不動産の量が多いということです。欧米では、不動産という資産が少ない分、本業に投資するなどしているわけです。

とはいえ日本企業も、不動産をうまく使うことで新たな成長シナリオを展開したり、その量を減らしたりするなど、さまざまな努力や変革を進めていると実感しています。

 

■松村 賃貸か所有かという調査もありましたね。面白いのは、東京では所有と賃借が1:1ぐらいなのに、地方はほとんど所有です。これはどういうことでしょうか。

 

■板谷 一定規模以上の上場企業1500社を調査したのですが、皆さん立派な本社ビルがあるのですが、所有か賃借かを聞くと、東京ではほぼ50:50です。

「企業は成長するので、所有しないでどんどん借りています」、あるいは「良い場所に土地を持っているのでそれを活用しています」とそれぞれの考え方があり、東京では拮抗しています。それ故に選択肢があるのだと思います。一方、地方は9割以上が所有です。

 

■松村 賃貸マーケットがない。

 

■板谷 マーケットがないということと、所有か賃借かという課題は、主に首都圏の一部の地域の話であって、全国レベルで言えば、企業は所有を中心に不動産をうまく使って成長しているということではないでしょうか。

 

■松村 言い方を変えれば、地方では所有するコスト自体もあまり大きくないので、戦略としては大都市、首都圏などの不動産をどうするかが重要だということですね。

 

■板谷 まさにご指摘のとおりで、首都圏においてはそれが大きな選択肢となって、それが企業の経営を揺さぶることもあれば助けることもあるだけに、所有か賃貸かが大きな選択肢なのです。

各パネリストのお仕事と不動産との関係―新たな不動産活用分野―

■松村 次に古屋さんですが、前職は私募不動産ファンドを運用する不動産投資顧問の社長で、その前は上場している不動産投資信託(リート)の投資運用部長をされていて、不動産運用に非常に詳しい方です。今の肩書はアセットソリューション事業部長です。これは企業の不動産戦略についてアドバイス、コンサルするということですがもう少し具体的にお話しいただけますか。
 

■古屋 古屋でございます。よろしくお願いします(拍手)。

私どもの部署の業務は、企業が有する不動産の課題に対して弊社グループが有するソリューションメニューをご提案させていただき、お客様に喜んでいただくとともに、その中で東京建物グループのビジネスチャンスも確保していくというものです。

具体的にどんな営業をしているかというと、もっぱら長くお付き合いいただいている既存顧客様を中心にソリューションの提案をしておりますが、当然に今までお付き合いのない企業様にもコンタクトさせていただいています。

その際には、企業のホームページなどで中期計画、有報、社長メッセージ、最近のニュースリリースなどを確認し、また保有資産についても可能な限り調査致します。そのうえで、不動産戦略上の課題に関して仮説を立て、その仮説に対するソリューションを用意して提案させていただきます。

最近は、高齢者向け住宅や耐震問題に関するお話をさせていただくことが多いです。ご案内のとおり、サービス付き高齢者向け住宅は、「高齢者の住まい法」の基準によって登録され、介護・医療と連携し、高齢者の方々を支えるサービスをその中で提供するバリアフリーの住宅です。

今、65歳以上の方が約3000万人います。うち75歳以上が1500万人くらいですが、高齢者向けの住宅が非常に不足しています。このため、国土交通省は「住生活基本計画」の中で、高齢者人口の3~5%に当たる住宅を2020年までに確保するという目標を立てており、建築に際しての補助金交付や固定資産税、不動産取得税の減免など、いろいろと便宜を図っています。

このような国の方針もあり、私どもも積極的に企業の遊休地に対してご提案をさせていただいている次第です。

サービス付き高齢者向け住宅は、一般の賃貸マンションと違って徒歩圏でなくても事業化できるという良さがありますが、残念ながら最近は建築費の高騰で収益性が低下傾向にあります。

 

■松村 それは、企業の所有地に建てて、オペレーションは東京建物がやるのですか。

 

■古屋 弊社で土地を購入あるいは貸していただいて、自ら事業化することもあります。ただオペレーションは専門業者に委託しています。また土地を手放したくないという企業様に対してはサ高住を建てていただいて、東京建物グループでマスターリースをさせていただく提案もさせていただいています。

 

■松村 先ほどの板谷さんのお話から言うと、やはり首都圏の仕事が多いのですか。地方の広い土地を何とかしてくれと言われたら、何とかできるものなのですか。

 

■古屋 残念ながら、今のところ弊社のグループの事業としては首都圏が中心です。サービス付き高齢者向け住宅は全国で約5000棟、16万戸ほどあり、全国で必要とされている施設ですが、この分野における弊社の地方展開はまだです。

各パネリストのお仕事と不動産との関係 ―オフィスの構成とスペックの変遷―

■松村 長坂さんはマイクロソフトでもう十数年来、ファシリティマネージャーをされています。施設や施設環境の管理のプロとして、この世界では有名な方です。ビルオーナーや管理会社にとっては非常に手ごわいお客さんと言うこともできます。

マイクロソフトさんはグローバルな事業展開をされていますが、先ほど板谷さんがおっしゃったように、欧米に比べて重たい日本の不動産に対して、ファシリティマネージャーとしてどのように向き合っているかを、自己紹介を兼ねてお教え願いたいと思います。

 

■長坂 マイクロソフトの長坂です。よろしくお願いします(拍手)。

まず今年は全世界のマイクロソフトにとっても大きな転換期です。「トランスフォーム」という言葉を使い、現在組織体系やビジネス体系を変えていっています。

これは、CEOがスティーブ・バルマーからサティア・ナデラに替わったのが大きな理由のひとつです。もうひとつは、今年ノキアを統合して、デバイス・アンド・サービスという形に会社の形を変えていこうと進めています。

そしてビジネス形態も、お客さまの生産性向上のためによりバリューを生み出せる会社になるために、現在トランスフォームを進めています。

これまではソフトウエア会社だったので、工場のような生産設備を全く持ち合わせていませんでした。それがノキアと一緒になってビジネスを進めていくに当たり、ビジネスモデルも変わっていくとともに、不動産の持ち分も大きくなり、そこに対する設備投資の金額も大きくなっていきます。

当然、これまでのように事業所を造る時と、工場を造る時の投資と回収では構造が変わってきます。このため、事務所を新たに造ることに対するハードルが、私たち運用サイドからみれば変わることになります。

マイクロソフトは、現在108の国と地域でビジネスをしており、トータルで697の事業所、ビルを所有または賃貸の形でビジネス運用しています。全体で36万スクエアフィート、約334万m、日本的に言うと約100万坪で、約17万人の社員が働く、または自社製品を工場で作っている形態です。

例えば、アジアのポートフォリオでは、オフィスが約61%、プロダクションといわれている工場が32%、その他の開発部隊が約7%となっており、まだまだオフィスが構成上多いのが実情です。

日本のオフィスの場合、私たちはベンチャーからのスタートでしたので、過去28年間の中で人をどんどん増やさなければいけない局面がありました。

不動産戦略も、場所が足りなくなったので沿線の中でどんどん借りていこうというものでした。もともと笹塚と調布という二つの拠点を持っており、京王線戦略ということでその沿線にオフィスを増やそうと考えました。

その後、代田橋オフィスをつくりましたが、それでも足りなくなってしまったので、赤坂オフィスをつくりました。それ以降は、大きな物件がないため、路頭に迷ったような時期もありました。その後、初台にオフィスを借り、約3年半前に都内五つの拠点を品川に統合しました。

私たちはグローバルにさまざまな場所でビジネスを運営して、サービスを提供していますので、オフィスを決める時もコストとサービスレベルのベンチマークキングを行っています。

日本の不動産コストは高いのですが、それをどのような形で私たちの不動産戦略として、もしくはサービスを運営していく中でコストを落としていくか。その中をどのようなサービスレベルの形にしていくかが、実際の運用におけるひとつのチャレンジです。

また、これまでを振り返ると、働き方が変化するとともに私たちがオフィスに求める仕様もどんどん変わってきました。

例えば、約20年前に調布のビルを建てたときは、社内にデータセンターを持っていました。私たちのビジネスを進めていく上で必要なメールサーバーなどさまざまなサーバー類を、自社のオフィスの中で管理・運営していたのです。

ところが、新宿に本社ビル移転した約13年前には、既にそういうものがなくなっていました。現在、私が働いている環境で言いますと、先週まで私のメールサーバーはシンガポールにあったのですが、日曜日にクラウド化されたため、今は世界中のどこかのクラウド・データ・センターの中にあるという形になっています。

東日本大震災の後、私たちのビル自体は機能面できちんと業務運営できる状況でしたが、翌月曜日に社長から「基本的にはこれから1週間、在宅勤務をしなさい。自宅待機ではなく在宅勤務です」というメールが来て、社員の約70%が自宅からビジネスを継続して行うことになりました。

このように、情報通信技術が変わり、働き方も変わっていく。組織としては従来どおりで、ワークルールや人事的な制度も変わらないのですが、働き方がどんどん変わっていくことが私たちの企業不動産戦略に大きく絡んでいるといえます。

 

■松村 本社ビルはずっと賃借だったのですか。

 

■長坂 そうです。今までの私たちの日本でのビジネス形態の中では全て賃貸です。

 

■松村 保有するという選択肢はないのですか。

 

■長坂 もちろん、保有する選択肢もあります。日本の場合は過去28年間賃貸ですが、私たちが継続もしくは新規に出店する場合は、毎回シナリオを作って、所有した方がいいのか、借りた方がいいのかというシミュレーションをかけていきます。

今回の品川統合の際も、土地を購入してビルを建てるというシナリオも作ってシミュレーションしたのですが、やはり保有の方がハードルは数段高いので賃貸を選択したのです。

 

■松村 やはりコストが高い。

 

■長坂 そうですね。コストと、日本のビジネスのマーケットの伸び率などのさまざまな要素が出てくるので。例えば中国やインドなら、50年という長期の定期借地でビルを建てていきます。

 

■松村 今、さらっと恐ろしいことをおっしゃいましたが、要するに日本は将来性がないということですね(笑)。

 

■長坂 なかなか難しいところですね。

 

■松村 ということで、このお三方にいろいろなお話をしていただくつもりですが、今の在宅勤務の話は非常に面白いので、後で詳しくお聞きしたいと思います。

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