コラム
2014年02月24日

中間層「定年後」の不安-「想定外」扶養リスクで“薄くなる”中間層

土堤内 昭雄

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定年後に何の不安もない人は少ないだろう。健康不安、経済不安、孤立不安など、個々人の状況に応じて不安の中身も異なる。不安を感じるのは何らかのリスクがあるからだが、その対応をとることで不安を和らげることができる。従って、大きな不安となるのは、「想定外」のリスクが発生することではないか。では、日本社会の中心を形成する中間層の定年後「想定外」のリスクとはなんだろう。

親としての務めは、子どもを社会人まで育て上げれば、一応終わったといっていいだろう。しかし、先週の本欄で紹介したように、成人した子どもの経済的自立が困難ゆえに、再び実家で親と同居する「アコーディオン・ファミリー」が増加している。大学進学や就職、結婚を機に一旦親元を離れながら、その後の就職や離職、離別により親との同居を再開、アコーディオンのように縮小と拡大を繰り返すのだ。つまり従来の想定以上に、成人後の子どもの扶養期間が長期化しているのである。

大学卒業後3年以内に離職する新卒者は3割に達し、その後の再就職も厳しい。2013年の完全失業率は全体で4.0%だが、25~34歳は5.3%と高い。再就職もままならず、社会との関係性を保てなくなる孤立無業者(SNEP)が162万人にも上るという。また、若年層の非正規雇用者の雇用環境が不安定なために「結婚したくても、結婚できない」若者が増加し、未婚・晩婚化も進んでいるのである。

この若年雇用問題は我々の定年後の暮らしを直撃する。総務省のデータでは高齢無職世帯の実収入の9割は公的年金であり、1か月当たりの家計収支は毎月3万8千円の赤字だ。そこに成人した子どもの「想定外」の扶養が加われば、ますます暮らしが苦しくなる。また、同居による親と成人した子どもの経済的相互依存関係は半永久的には続かない。加齢により親が介護状態になれば子どもの離職リスクは高まり、子どもが無業の場合、親の公的年金に頼る可能性も高くなる。数年前には、既に死亡した老親の年金を不正受給していた「所在不明高齢者問題」が各地で発覚し、大きな社会問題になった。

子どもを育て上げ、定年後を子どもの世話にならずに夫婦で暮らすことを楽しみにしている中間層も多いが、定年後まで成人した子どもの扶養リスクを想定している人はどれほどいるだろう。これを単に若者の個人的問題に帰着させることはできない。何故なら、若年雇用問題は終身雇用による企業福祉と「夫婦と子ども」という標準家族による家族福祉を前提にしてきた日本の社会保障制度の課題でもあるからだ。さらに中間層を薄くする恐れのある定年後の「想定外」の扶養リスクを解消するには、多様化する個人のライフコースに対応する社会保障制度への転換を急がねばならないのである。




 
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2014年02月24日「研究員の眼」)

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