2016年01月12日

欧米生保市場定点観測(毎月第二火曜日発行) 米国における利上げが米国生保業界に与える影響―当面の影響は微少だが、金利正常化への期待が高まる―

保険研究部 主任研究員   松岡 博司

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はじめに

昨年12月に行われた米国の利上げは、米国金融政策の転換を告げるものとして、世界中の注目を集めた。厳密に言えば、今回の利上げは短期金利である政策金利の引き上げであるため、長期の資金を受け入れ長期の投資対象に投資する、長期金利の世界の住人である生保会社には影響を与えない。 

しかし今回の利上げを、長きにわたって無金利状態が続いていた有事の状態に別れを告げ、ノーマルな金利体系に回帰する動きの第一歩と捉えれば、長引く超低金利環境の中、苦しんできた米国生保会社にも、その恩恵が及ぶのではないかと考えることも不自然ではない。米国においても、利上げと生保会社の関係についての調査機関のコメントやマスコミの取材記事等が散見されるようになった。

本レポートでは、米国の利上げの概要、米国生保会社と今回の利上げの関係、長期金利が上昇した場合の生保会社への影響等について、米国での報道等の紹介を含め、レポートする1

なお、今回の利上げについては、新興国から米国へ資金が逆流することにより世界経済を停滞させるのではないか、借入金利が高まることから消費を落ち込ませ米国経済や株価に悪影響を与えるのではないか、といったリスクが指摘されている。これらのリスクが顕在化した場合には、生保会社も一般の経済主体と同じく決定的な悪影響を受けるが、本レポートでは、それらを除いた、生保会社に固有の、金利と生保経営の観点からレポートする。
 
1 本稿を執筆するにあたって主に参考とした文献は下記の3つ。
 フィッチ社“As Fed Hikes, Effects on LT Rates Key to US Life Insurers”2015年12月17日
 AMベスト社“Briefing:Insurers Hope Fed Move  A Sign of Things to Come”2015年12月18日
 LifeHealthPro News Flash “For life insurers, Fed’s rate hike is small step on a long road”2015年12月29日
 本文中、「報道資料」としているものは当資料である。

1――今回の利上げの概要

2015年12月16日、米国FRB(連邦準備制度理事会)は、FOMC(連邦公開市場委員会)において、政策金利であるフェデラルファンドレートの誘導目標を従来の0~0.25%から0.25%引き上げ、0.25~0.50%にすることを決定し、即日実施した。これは金融危機を受け、2008年末に開始されたゼロ金利政策を7年ぶりに解除するものであった。また、政策金利の「引き下げ」が常態化していたところ、実に9年ぶりの、政策金利の「引き上げ」であった。

FRBが政策金利の引き上げに踏み切った背景には、米国の景気拡大局面が続いていることがある。

グラフ1は、米国におけるフェデラルファンドレート(短期金利)、10年国債利回り(長期金利)、30年国債利回り(長期金利)の、1955年から2015年までの、年平均利回りの推移である。

2009年以降のフェデラルファンドレートがゼロ近辺に張り付いている様子、長期金利が80年代以降長期的に低下傾向にある中、ゼロ金利政策が採用されて以降、さらに低下傾向を強め、10年国債利回りでも2%程度に落ち込んでいる様子が見て取れる。
 
グラフ1 米国における主な金利の長期動向
FRBは、米国や世界の経済動向を見ながら、2016年以降も複数回の利上げを実施し、「金利の正常化」を緩やかに進めていく方針とされている。

金融市場では、急激な金融引き締めはなく、環境の激変はもたらされないとの安心感が広がった。悪影響が懸念されていた株式市場でも、利上げを直接的な原因とする市況悪化は起こらなかった。

ただし利上げには、これまでの世界経済の支えであった中国経済に従来通りの力強さを期待できない中、米国の超金融緩和を受けて資金が流入していた新興国から米国への資金逆流が発生することによる世界経済悪化の懸念、借入金利の上昇により消費が落ち込み、米国経済を冷え込ませ、株価の下落等を引き起こす懸念等が指摘されている。
 

2――今回の利上げが米国生保会社に直接的に与える影響はほとんどない-今回の利上げは短期金利の話。長期金利が問題である-

米国では、今回の政策金利の引き上げが、生保会社の経営に直接的なインパクトを与えると見る向きはない。短期金利である政策金利の引き上げは、保険契約という長い契約に基づく長期の資金を受け入れ、長期の投資対象に投資する、長期金利の世界の住人である生保会社には、なんら影響を与えないはずであるからである。

格付機関フィッチ社は、利上げ翌日の12月17日、「米国生保会社が、2016年にかけて行われるさらなる利上げから得られる潜在的な利益は、長期金利がほとんど影響を受けない状況となればかなり減殺される。」とし、同じく保険会社の格付け・調査機関であるAMベスト社も、12月18日付けのブリーフィングの中で「短期的には、今回の利上げは主に金利構造中の短期金利にインパクトを与えるものであり、主に長期投資の債券保有者である保険会社にはインパクトを与えない」としている。

その他の格付機関のアナリストも、報道資料で見る限りは、「今回のフェデラルファンドレートの0.25%の引き上げは、米国生保・医療保険会社の格付に直接的なインパクトを何ら与えない」(S&P)、「金利の上昇はあまりに小さい。方向性は生保業界にとって好ましいものではあるが、重要さという観点で見ると、それは小さな改善」(ムーディーズ)と、今回の利上げ幅が小さかったことも含めて、生保会社への影響はないと述べている。

3――今回の利上げは、長期金利の上昇につながるのか

1長期金利がキー
先述のように、生保会社の経営にとって重要な金利は長期金利である。生保会社は投資、商品開発等を行う際に、長期金利を指標とする。利上げが長期金利の上昇を伴わないものである限り、生保会社にとっては、意味がない。

フィッチ社は、先に紹介した文章の中で、「仮に長期金利が2012年の後半の低水準(10年国債利回りで1.75%程度)であり続ける場合、フィッチ社は生保業界のアウトルックをネガティブに引き下げなければならない」と、長期金利が上昇しない場合の悪影響を指摘している。

2長期金利の上昇への波及の可能性については諸説あるが
長期金利の上下動を決めるのは短期金利だけではない。実際、利上げ後の長期金利の動きは、さまざまな要因から、短期金利の上昇と並行的な動きとはなっていない。

しかし、今回の利上げを受けて、長期金利も緩やかとはいえ上昇していくと見込む向きも多いようだ。金利がない世界からの離陸は、長期金利にも波及するのではないか、「金利の正常化」が起きるとき、そこでは金利全般の上昇が期待されているのではないかとの見方である。
 

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保険研究部   主任研究員

松岡 博司 (まつおか ひろし)

研究・専門分野
生保経営・生保制度(生保販売チャネル・バンカシュランス等、主に日本生命委託事項を中心とする研究)

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