コラム
2015年04月10日

女性活躍推進と経済成長-過渡期における過大な期待は禁物

生活研究部 主任研究員   松浦 民恵

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第2次安倍政権以降、経済成長戦略のなかで女性活躍推進の重要性が強調され、女性活躍推進に関する計画の策定・提出、労働者への周知・公表を課す「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」も、現在会期中の第189回国会に提出されている。こうした政策的後押しもあり、多くの企業で女性活躍推進への関心が高まり、女性の活躍を支援する具体的な動きも広がりつつある。

このように女性活躍推進の動きが具体的になってくると、各企業で管理職や役員等のポストを巡る競争がより厳しくなる等の具体的な影響が見えるようになり、なかには女性活躍推進に対する疑問が顕在化するケースも出てきたようにみえる。なぜ女性の活躍を推進しなければならないのか、という素朴な疑問、さらには、なぜ女性活躍推進が経済成長戦略なのかという疑問をモヤモヤと抱えている方々に、筆者自身が接する機会が最近少なくない。そういう疑問を抱えた方々に対して、筆者が経営的観点、政策的観点から説明している、女性活躍推進がなぜ必要なのかという理由を、折角なのでここで書いておきたいと思う。女性活躍推進の取組が広がるなかで、ふと立ち止まってこういう疑問に突き当たっている方々が、他にもいらっしゃる気がするからである。

まず、経営的観点から述べると、安倍政権が経済成長戦略の柱の一つとして女性活躍推進を位置付ける前から、女性活躍推進に関心を持つ企業が少なからず存在した。その背景には、国内の生産年齢人口の減少や、ビジネスモデルの高度化の要請がある。つまり、過去の経済成長にともなって上昇した高い賃金水準を前提とすれば、もはや日本企業は、発展途上国の企業のように、安い人件費で標準的な製品・サービスを大量に供給するという戦略をとれず、製品・サービスの差別化が求められる先端的な市場で戦わざるを得ない。先端的な市場での競争においては、変革マインドや多様な視点を持つ、意欲・能力の高い人材が求められるが、生産年齢人口の減少により、こうした人材を確保・育成するための分母が細ってきている。このような現状において、人口の約半分に相当する女性を十分に活用できていないことは、経営的観点から、改善すべき課題だということになる

次に、政策的観点という面でも、国内の労働力を最大限活用し、国内の市場規模を維持・拡大することが課題となっている。そのなかで、女性活躍推進が有効な対策の一つとして重視されつつあるのは理にかなっている。一部の仕事を除けば、仕事に対する本来の意欲や能力に、顕著な男女差があるわけではない。にもかかわらず、日本においては、指導的地位に占める女性の割合が約1割にとどまっており、国内の限りある労働力が、明らかに有効活用できていない。さらにいうと、経済成長戦略として女性活躍推進が位置付けられる背後には、労働力不足を女性の労働市場参入によって単に補うというだけでなく、女性を含めた人材の有効活用によって企業の業績を向上させ、賃金の上昇・消費の増加、さらには雇用数や管理職ポストの増加を図ることで、国内の市場規模も拡大させようというシナリオがあると推測される。

ただ、女性の活躍を推進する上では、社会(家庭における男女役割分業意識の変革、保育所の整備等)、企業(採用・育成・登用政策や働き方の見直し等)の双方におけるインフラ整備が不可欠であり、こうしたインフラ整備には相当の期間を要する。そして、インフラ整備が十分ではない過渡期においては、女性活躍推進に対する過大な期待は禁物である。おそらく、しばらくはこれまでの延長線上の雇用や管理職ポストを前提として、男女の配分変更が行われることが基本となろう。女性活躍推進が企業の業績の向上、さらには経済成長につながる可能性が出てくるのは、女性が与えられたポスト等で十分に能力を発揮できるようになった後であろう

前述したような生産年齢人口の減少やビジネスモデルの高度化のもとで、経済成長を模索するために、女性活躍推進は避けて通れない課題となる。ただし、単に女性を採用したから、あるいは単に女性を管理職等に登用したから、企業の業績が向上し、経済成長につながるという過大な期待は短絡的であり、むしろ「採用し、育成し、登用していく」という地道なプロセスを必要とする、実効的な女性活躍推進を阻害する懸念が大きい。女性活躍推進が経営的・政策的観点から必要不可欠な課題であることを認識すると同時に、その推進に長い期間を要することも肝に銘じるべきである。企業等が女性の活躍を推進していく際にも、こうした認識を広く共有した上で、推進にともなってやむなく軋轢を生じるような局面においても、丁寧に理解を求めていく必要がある。


 

  1 常用雇用者301人以上の企業は義務化、300人以下の企業は努力義務化。
  2 もちろん、女性活躍推進が必要な程度や、推進のスピードは、業種や職種等個別事情によって相当異なる。また、経営戦略としては、先細りする国内の労働力に頼らず、海外拠点を増やし、現地人材を活用してこれまでのビジネスモデルで勝負するという選択肢もあり得る(ただし、日本より女性の活躍が進んでいる国々では、現地の人材活用においても女性活躍推進が求められる可能性が高い)。
  3 女性活躍推進が企業の業績向上や経済成長につながることが証明されているのか、という質問を受けることもあるが、女性の活躍と企業の業績向上との関係は、先行研究のなかでも議論が収斂しておらず、必ずしも明確に実証されてはいない。しかし、だからといって女性活躍推進が不要だというわけではないだろう。実証研究は、データの収集・分析にそれなりの期間を要し、複数の研究が蓄積されるなかで議論が収斂していくが、その間に前提条件が変化してしまうこともある。現実的には、実証研究の結論を待っているわけにはいかない面もあることから、女性活躍推進を進めるかどうかは、環境変化等を踏まえた経営的・政策的観点からの決断に委ねられることとなろう。

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生活研究部   主任研究員

松浦 民恵 (まつうら たみえ)

研究・専門分野
雇用・就労・勤労者生活、少子高齢社会

(2015年04月10日「研究員の眼」)

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