コラム
2014年09月22日

成熟時代の“豊かな住空間”-「集合住宅」を個性的に住むために

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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私は30年近く集合住宅に暮らしている。いわゆる「マンション」を気に入っているのは、眺望がよく、冬でも室内が暖かく薄着で過ごせること、寝るときも布団が薄くて軽いので楽なこと、トイレや風呂に入るときのヒートショックがないことなどによる。しかし、マンションは戸建て住宅に比べ、壁面が多くて採光や通風のための開口部の制約が大きく、また、画一的な間取りのために個性的な暮らしの空間づくりが難しいことが課題だと思っている。

日本も成熟社会を迎え、豊かな住空間が求められるようになったが、ピクチャーレールがないために壁面に絵を飾ることが難しいマンションも多い。また、住空間は光源の色や指向性によって雰囲気が大きく変わるが、ピクチャーライトや壁面の間接照明の設置もままならないことがある。最近では、LED照明の技術が進歩し、光源の色を変えたり、ライン照明を手軽に行うこともできるが、我々のマンションの「住まい方」に対する発想の固定化が、様々なハードの対応の遅れにもつながっている。

日本のマンションの場合、天井に取り付けた照明器具で部屋全体を均一に照らすことが一般的だが、欧米の住宅では、フロアスタンドやテーブルスタンドなどを使って多灯分散型の照明配置をし、天井に照明器具が付いていることは少ない。かつて私が住んでいたアメリカ・ボストン近郊のアパートは、ドア付近の壁にコンセント用のスイッチがあり、部屋のコンセントにつないだフロアスタンドの点滅が出入口でできるようになっていた。

また、以前イギリスのアパートを見学して驚いたことがある。それは壁も天井も石膏ボードに白いペンキを塗っただけの極めて質素な空き部屋が、居住中の部屋になると、とても豊かな住空間に変貌していたのだ。年代を感じさせる家具や什器が置かれ、壁面に絵や絵皿、写真、タペストリーなどがギャラリーのように美しく飾られていた。そしてフロアスタンドやピクチャーライトを使った照明が、メリハリのある個性的な陰影空間をつくっていたのである。

日本の画一的な間取りの集合住宅を個性的に住むための有効な方法は、壁面を装飾空間として巧く活用し、調光により照度を変えたり、複数の光源で陰影をつくり出すことにより、立体的な住空間を演出することだ。ひとつの部屋がライティングのパターンにより、読書、音楽、仕事、くつろぎなどの様々な住空間にカスタマイズされ、多様で個性的な「住まい方」が成熟時代の豊かな住空間をつくる。みなさんも秋の夜長に、自分流の「住まい方」について、じっくり考えてみてはどうだろう。

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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

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