2023年10月31日開催

パネルディスカッション

中国リスクの軽減(デリスキング)と今後の国際戦略

パネリスト
川島 真氏 東京大学大学院総合文化研究科 教授
大庭 三枝氏 神奈川大学 法学部・法学研究科 教授
伊藤 隆氏 三菱電機 執行役員経済安全保障統括室長
三尾 幸吉郎 ニッセイ基礎研究所 上席研究員
コーディネーター
伊藤 さゆり 常務理事

文字サイズ

3――中国経済の歴史と展望

■三尾 ニッセイ基礎研究所で中国経済の見通しを担当しております、三尾と申します。よろしくどうぞお願いいたします。
 
本日はテーマが「中国経済の歴史と展望」という題にしたのですけれども、川島先生の方から政治、あるいは経済を含む全般的なお話を頂戴しましたので、私の方からはデータを中心にご紹介・確認していただくとともに、私どもでどのような展望を持っているかというあたりをご説明したいと思います。
3―1. 中国の経済発展史
1枚目は、「グラフで見る中国の経済発展史」ということで、このグラフは1960年からありますけれども、棒グラフの方は経済成長率、折れ線グラフの方は1人当たりGDPを5分位に分けて、世界でどのぐらいの位置にあるかを見たものでございます。

まず、改革開放前の毛沢東時代を見ていただきますと、1人当たりGDPですが、5分位に分けると一番下のところでもがき苦しんでいるという状況でありました。1978年、改革開放ということで、当初は路線対立があり、毛沢東の意志を継ぐべきだという派と、鄧小平が新しく打ち出した改革開放、つまり四つの近代化で進むべきだという派で議論が分かれていまして、低迷が続いていた。けれども、1992年に、先ほど川島先生の方からもありました、社会主義市場経済で行こうということで明確に定めて、そのあたりから折れ線グラフで見たとおり、どんどんと経済成長が加速していくという流れになりました。この当時は、今と違って労働力が豊富で、しかも安かったことが大きな支えになったということであります。

その後少し経済成長率を落ちてきた時期がありますけれども、2001年にWTOに加盟したということで、ここで外国からの投資が増え、そしてグローバル企業が輸出を増やし、雇用を生み出したということで、再び経済発展が加速していくという流れになりました。

その後、ご案内のとおり2008年にリーマンショックがあったわけですけれども、その当時も財政、あるいは金融をフル稼働させまして、日本や欧米がマイナス成長に落ち込む中でも、9%ぐらいの成長率を維持したということで、ここで財政、金融の力を使ってしまったところがあるのだと思います。

しかし最近では、安かった労働力も高くなりまして、輸出依存でいくというのも米中対立の中で厳しい状況となりました。リーマンショック、あるいはその後のチャイナショックも含めて、財政金融をかなり使ってしまって、過剰債務、あるいは財政の裁量余地の低下ということで、最近では「新常態」ということで、「量から質」への転換に動いております。
 
このページは、「改革開放後の中国は世界の2~3倍速で発展」ということですけれども、これはご覧のとおり、こういう形で経済成長してきたということをお示したものです。
3―2. 世界第2位の経済大国へ
このページは、「そして、第2位の経済大国へ」ということで、改革開放後の世界シェアと現在2022年を比較しています。中国の方は、改革開放のときは2.3%しかなく、日本の4分の1以下でしたけれども、最近では18%ということで、存在感を高めているということをお示したものです。
 
このページは、物価の要素を加味した購買力平価で見ると、中国は18.5%ということで、アメリカを既に上回っているということをお示したものです。
 
このページでは、「他方で『貧富の格差』が深刻化」としましたけれども、このグラフは、国民の上位1%の富裕層が得ている所得の比率ということで、2010年代を中心にした統計です。まず、赤く示しました中国は、米国よりは格差が小さいということです。一方で、日本やヨーロッパの国と比べるとむしろ高いということで、こうした状況では「中国は本当に社会主義なのか」と言われるようになっていたということです。

そこで習近平政権は「共同富裕」、「社会主義市場経済」の前半の「社会主義」の方に力を注ぐような方向に転換しなければならないと考えたのだと思います。
3―3. 共同富裕を目指す中国
このページは、「共同富裕を目指す中で、中国は統制を強化」と書きましたが、いろいろありますけれども、三つの柱があるのかなと私は整理しました。一つは、「カリスマ経営者など富豪の締め付け」です。これは、中国の共産党が以前から持っている、「富裕になった人はまだ貧しい人を助けなければいけない」という思想が背景にあるのかなと思います。

2番目は、「教育費高・不動産高などの退治」です。教育費が高すぎたり、あるいは不動産が高いと、真面目に働いている人たちの生活がなかなか豊かにならないということで、庶民を苦しめるこれらの問題を退治するということを打ち出したのだと思います。

それから3番目は、「習近平思想など若年層への教育的指導」です。これは、中華民族復興の夢を実現するためにはこれが必要だという、思想面での統制強化ということになろうかと思います。 

こうして「共同富裕」に向かうと、経済成長にどんな影響があるのかというのを分析をしたのが、このページです。

まず横軸が「貧富の格差」で、右に行くほど貧富の格差が大きい、左に行くほど小さいということです。縦軸は「超過成長率」ということで、注釈に書きましたけれども、経済の発展段階、つまり1人当たりGDPのレベルを勘案した超過成長率で示しています。

これを見ますと、全体としては「逆スマイルカーブ」になっています。例えば、右側の方にあります南アフリカのように格差が大きいところは、超過成長率がマイナスになっていますし、イタリアのように格差が小さいところもマイナスになっているということです。そしてちょうど真ん中ぐらいのところが、傾向的には高い成長率になりやすいのです。

そういう意味で言うと、長期的な考え方ではありますけれども、中国が共同富裕に向かっていくと、成長率が下がる方向になりやすいということになるかと考えています。
 
このページでは、「他にも4つの足枷があり成長率はじりじり鈍化」と書きましたけれども、この辺のことはよく報道でも出てきますのでご案内のとおりかと思います。人口問題については、少子高齢化で、特に生産年齢層が減少する、あるいは高齢化で財政に社会保障の負担が増す、あるいは高齢化が進んでいくのに伴って、住宅を購入する層の人数が減ってくるということで、その需要が減退していく。これは経済全般に関わる人口問題です。

それから、1人当たりGDPの上昇というのは、先ほどお話しした安かった労働力が安くなくなってしまった。一方でベトナムやインドはまだ安いので、中国の国際競争力が低下しているということです。

それから真ん中の政府債務の膨張、そして右側の過剰債務の問題というのは、リーマンショック後、あるいはチャイナショックのときにかなり財政発動しましたし、あるいは金融の方も拡大して過剰債務が、特に不動産業界でふくらんでしまい、これを後始末しないといけないという状況にあるということです。

共同富裕も含めたこれら五つの要因を考えると、このページの下にあるように潜在成長率は現在の5%ぐらいから2.5%くらいまで下がっていく方向かなと見ています。
 
ここでは「10年後の成長率は2%台」としました。今後の経済成長率はじりじりと下がっていく見通しをわれわれは持っています。ただ、先進国並みのレベルは維持しているということで、経済成長率はかなり下がっているようには見えますけれども、右側の円グラフにお示したように2028年の名目GDPのシェア(IMF予測)は20%ぐらいまで上がっていく。したがって中国にはまだまだビジネスチャンスが多いというのは変わらないのではないかと思います。
3―4. 経済セクター別の動向(予想)
最後のページは経済セクター別の動向です。これは私個人の意見でありますけれども、予想を書いたものです。通常の経済セクターの分け方とは違いますけれども、私なりに整理したところ、こういったセクターの分け方としています。赤が潜在成長率を下回る、つまり中国経済の成長率の足枷要因。それから黄色はほぼ中立。青が潜在成長率を上回ると見ている経済セクターです。

まず左上の不動産から見ていきますと、先ほどお話ししたとおりですけれども、過剰債務を解消していく過程では、不動産はどうしても足を引っ張るということで、赤としております。

それからインフラ建設ですけれども、確かにこの不動産不況の中で、インフラ投資を加速させようとするでしょうけれども、その余力がそれほど多くは残っていないということで、マイナス成長になる、あるいは不動産不況で急減速するような場面では救いに行くけれども、ならして見れば、やはり潜在成長率並みぐらいのインフラ整備しかできないのではないかと見ています。

右から二つ目はハイテク製造です。ファーウェイや半導体関係のところですが、これは米中対立の激化で赤だろうと思っています。ただ、ファーウェイはハイシリコンという半導体の設計会社も持っていまして、そういったところで「自立自強」ということで、かなり積極的な投資をしていますので、そういう意味では、それほど成長率がマイナスになっていないですし、今後自立自強が成功すると、ひょっとしたら大化けするかもしれない領域ではあります。

それから一番右側は新エネ関連の製造ということで、電気関係のところで、BYDはEV、CATLは車載電池などです。気候変動対策で今時流に乗っているところはあるのですけれども、ただこういった企業たちがどちらかというと海外で工場を造るようになってきているので、国内の経済という意味では、黄色ぐらいなのではないかと見ています。

左下はプラットフォーマーです。BAT、あるいはバイトダンスなどありますが、こういったところは先ほどお話しした「共同富裕」で少し痛めつけられたところはありますけれども、まだまだ伸び盛りの業態だろうと思います。

それから文化・体育(サービス消費)は、これからの成長の柱です。不動産不況等で若干陰りが出ている部分はありますけれども、これは長期的に中国経済の発展を支えていくセクターと考えています。特に中国のGDPに占める消費シェアというのは、世界全体と比べると極めて低いので、これまでの投資中心から消費主導に切り替わっていくので、一時的に鈍化することはあっても、傾向的には増えていく方向だと考えております。

そして外資系グローバル企業ですけれども、米中対立がマイナスの影響を与えるとは思いますけれども、国内市場はやはり巨大で、しかも消費が増えそうということで、中国国内で生産して、国内で売る、「地産地消」という部分はかなり増えていく、潜在成長率並みの発展はできるのではないかと思います。

最後に将来性です。AI、あるいは量子技術、宇宙開発など、技術的に中国はアメリカに比肩するところまでいけるかどうかは予想が難しいですけれども、中国がかなり高いレベルにあるのは事実です。ただ「白」としたのは、ビジネスになるかどうか。つまりお金を生み出すような形になるかどうかが、今のところ分からない領域だということです。

以上で、私のお話は終わらせていただきたいと思います。
 
■伊藤さゆり ありがとうございました。本日の基調講演の裏側にある経済の変化、それから産業別に見た将来について、お話しいただきました。議論のたたき台をご提供いただいたものと思います。

大変お待たせいたしました。川島様からコメントを頂く形で議論に入らせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
⇒ パネルディスカッション 後編 「コメント・討論」

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ページTopへ戻る