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2025年11月17日

タイGDP(25年7-9月期)~外需の鈍化と観光の伸び悩みで景気減速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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【結果概要】

タイの2025年7–9月期の実質GDP成長率1は前年同期比1.2%となり、前期(2.8%)から減速した(図表1)。市場予想2(1.6%)を下回り、外需や観光関連の弱さがあらためて意識される結果となった。

季節調整済み前期比成長率は▲0.6%とマイナスだった。2022年10–12月期以来の落ち込みとなり、景気のモメンタムが一時的に弱まったことを示唆している。

需要面では、民間消費は底堅さを維持したものの、政府消費が減少に転じ、総固定資本形成(投資)は減速した。輸出の伸びは一桁台に鈍化し、観光関連サービスの回復も力強さを欠いた。輸入の伸びも鈍化したが、外需全体として成長押し上げには至らなかった。
(図表1)実質GDP成長率(支出別寄与度)/(図表2)支出別の成長率
 
1 11月17日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2025年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

【支出別の詳細】

民間消費は前年同期比2.6%と前期(2.6%)から横ばい圏の伸びとなり、底堅さを維持した(図表2)。項目別には、食料・飲料など非耐久財の支出が3.0%(前期:2.5%)に加速し、自動車購入の好調に支えられた耐久財も5.5%(前期:6.1%)と高い伸びを維持した。一方、衣服・書籍など半耐久財は0.9%(前期:2.0%)に減速し、サービス消費も2.1%(前期:2.3%)とわずかに低下した。総じて雇用環境は安定しているものの、宿泊・飲食サービス活動の鈍化が消費に影響を与えた。

政府消費は前年同期比▲3.9% とマイナスに転じた(前期:2.2%)。NESDC によれば、物品・サービスの購入、現物社会給付の移転、および労働者報酬がいずれも減少したことが背景にある。経常支出の執行が低下し、歳出の出遅れが政府消費の押し下げにつながった。

総固定資本形成(投資)の伸びは前年同期比1.1%と、前期の5.8%から大きく減速した。民間投資は4.2% と比較的堅調で、特に設備投資(5.5%)が増加した。一方、公共投資は▲5.3% と5四半期ぶりの減少となり、公共建設投資(▲6.6%)が主因とされる。公的部門の投資停滞が全体の投資の伸びを押し下げた。

財・サービス輸出は前年同期比6.9%となり、プラス成長を維持したものの、全体としては力強さを欠く形となった。財貨輸出(10.8%)では一部の輸出品目が持ち直した一方、世界経済の減速や貿易摩擦の影響から伸びは限定的にとどまったとみられる。サービス輸出(▲10.7%)では、観光関連収入の回復が鈍く、訪タイ外客数の伸び悩みが続いていることが重石となった。

財・サービス輸入は前年同期比4.6%となり、緩やかな増加となった。内需の拡大ペースは落ち着いた状態にあり、輸入の伸びは輸出を上回るほどではなかった。

これらの結果、純輸出の成長率寄与度は+2.1%となり、前期の+0.8%ポイントから拡大した。

【産業別の詳細】

サービス業(第三次産業)の成長率は前年同期比2.3%と、前期(3.4%)からやや鈍化した。特に観光関連の低迷が顕著であり、宿泊・飲食サービス業(0.8%)が停滞した(図表4)。国内観光客数の伸び悩みと外国人観光客数の減少が響き、コロナ後の回復トレンドに一服感がみられる。運輸・倉庫業(3.0%)もやや減速した。一方、小売・卸売業(6.5%)は自動車販売の好調や食料品など非耐久財の販売増加に支えられ、比較的堅調に推移した。金融・保険業(0.7%)や不動産業(1.6%)、公共行政・防衛(▲1.1%)などは総じて小幅な増減にとどまり、サービス業全体の成長鈍化に繋がったとみられる。

鉱工業(第二次産業)は前年同期比▲1.0%(前期:0.8%)とマイナス圏に沈んだ。製造業は同▲1.6%と6四半期ぶりに減少し、前期(1.7%)から減少した(図表3)。製造業の落ち込みは、化学製品や自動車関連を含む主要業種の生産減が影響したとみられる。建設業も▲4.0%(前期:8.0%)と5四半期ぶりにマイナスへ転じた。

農林水産業(第一次産業)は前年同期比1.9%のプラス成長となったが、前期(6.4%)から大幅に伸びが低下した。主要作物の一部(ゴム・果物・米など)は増産となったが、キャッサバの減産や水産業の減少が全体を下押しした。
(図表3)実質GDP成長率(産業別寄与度)/(図表4)産業別の成長率

【今後の注目点】

今後は、外需と観光の回復ペースが最大の焦点となる。世界経済の減速や観光客数の伸び悩みが続けば、製造業やサービス業の回復は限定的となる可能性がある。

内需も引き続き注目である。高水準の家計債務(特に低所得層)を背景に、金融機関の貸出基準が厳格化しており、消費の重石となっている。こうした制約が緩和され、政府の2026年度投資予算が迅速に執行されれば、内需の安定的な拡大につながる可能性がある。

また、政府は10月以降、約 440 億バーツ規模の消費支援策を発表しており、年末にかけて家計支出の押し上げが期待される。ただし、政策効果の浸透速度には不確実性が残る。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年11月17日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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