NEW
2025年09月24日

中国:25年7~9月期の成長率予測-前期から一段と減速。政策効果の息切れにより内需が悪化

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1.足もとの概況と25年7~9月期の成長率の見通し

中国の2025年4~6月期の実質GDP成長率は、前年同期比+5.2%と、前期(25年1~3月期)の同+5.4%から減速した(図表1)。季節調整後の前期比(年率)は+4.5%と、前期(同+4.9%)から減速した。足元の中国経済について、主な需要の動向をみると、輸出は、米国の追加関税が続いている割には底堅い推移を続けている(図表2)。米国向けは悪化しているものの、ASEAN等向けが改善し、全体としては前年同月比で増加を維持している。他方、内需は、政策による下支え効果の低下などを受けて悪化している。投資の伸び率は、7月にマイナスに転じた後、8月もマイナス圏で推移している。小売も、6月から8月にかけて3か月連続で伸び率が鈍化している。物価は、食品・エネルギーを除くコアCPIが改善傾向にある一方、工業生産者出荷価格(PPI)は35カ月連続で前年同月比マイナスとなっている(図表3)。

GDP成長率(前年同期比)を月次で推計した「景気インデックス」は、25年7~8月期、前年同期比+4.8%と、4~6月期実績(同+5.2%)から減速している(図表4)。9月の景気次第で振れるとはいえ、25年10月20日に発表予定の25年7~9月期の実質GDP成長率は、前期から減速し、+4%台後半となる可能性が高い。

経済対策効果の息切れ感は、今後、消費、投資、不動産など各方面で強まり、内需は今後一段と減速する可能性が高い。米中交渉については、8月に第4回目の閣僚級協議が実施されたが、合意されたのはTikTokの米国事業売却を巡る枠組みについてのみだ。半導体やフェンタニルを巡る問題など様々な難題が残っており、対中追加関税が撤廃される可能性は低いことから、外需への下押しが続くだろう。
(図表1)実質GDP成長率/(図表2)需要関連の主要指標
(図表3)CPI・PPI/(図表4)景気インデックス(月次GDP)

2.実体経済の動向

2.実体経済の動向

(生産・投資・外需)
生産の動向について、8月の前年同月比の伸び率(実質)をみると、鉱工業部門では、前月から鈍化した(図表5)。化学では上昇したのに対して、鉄鋼や一般設備、電気機械、コンピュータ・通信設備等、多くの業種で鈍化した。サービス業部門では、伸び率が前月から小幅に鈍化した。情報通信・ソフトウェア・ITや金融で上昇した一方、リース・ビジネスサービスは伸び率が鈍化した。

PMI調査の結果をみると、製造業では、25年2月から3月にかけて改善したが、4月以降は景気の好不況の境目である50を下回る水準で推移している(図表6)。サービス業では、25年に入り50をやや上回る水準で推移を続けており、8月には前月から改善した。同調査で需要不足と回答する企業の比率は、24年7月以降、具体的には発表されていないが、25年8月には「企業の生産、経営に対する需要不足の圧力は依然として大きい」と説明されており、需要不足が続いているようだ。
(図表5)生産/(図表6)PMI
投資の動向について、8月の固定資産投資の前年同月比伸び率(名目、以下同)は、前月に続き鈍化し、2か月連続マイナスとなった(図表7)。業種別にみると、製造業、インフラ投資、不動産開発投資のいずれも、前月から伸び率のマイナス幅が拡大した。設備投資の前月から上昇したものの、24年から25年6月にかけて続いてきた2桁の伸び率には届かず、前月に続き1桁台の伸び率にとどまっている。

外需の動向について、8月の輸出(ドル建て)の伸び率は、前月から鈍化した(図表8)。国・地域別では、米国向けで前月に続きマイナス幅が拡大した。ASEAN向けは高水準で推移しており、前月から上昇した。EU向け、日本向けは、ともに上昇した。財別では、液晶パネルや集積回路、携帯電話、コンピュータ・同部品等で改善した一方、靴や鉄鋼、家具、玩具、家電、自動車では悪化した。輸入(ドル建て)は、伸び率が鈍化した。貿易収支は、約1,020億ドルの黒字となり、前年同月比で増加した。
(図表7)固定資産投資(業種別)/(図表8)財輸出入(ドル建て)
(消費・家計)
消費の動向について、小売売上高の伸び率をみると、8月は前月に続き低下した(図表9)。財が引き続き鈍化した一方、外食サービスは上昇したが、低水準の伸び率にとどまっている。

一定規模以上企業を対象にした統計で財の品目別の動向をみると、衣類等や宝飾品で伸び率が上昇した一方、化粧品では横ばいとなった(図表10)。耐久消費財の買い替え支援策の対象となっている商品は、引き続き高水準の伸びを続けているが、家電・AV機器や家具、通信機器では伸び率が鈍化した。他方、(タブレットを含む)オフィス用品では上昇した。自動車は、伸び率がマイナスからプラスに転じた。不動産関連の財(建築・内装材)の伸び率は、マイナス幅が拡大した。
(図表9)社会消費品小売総額/(図表10)社会消費品小売総額(一定規模以上企業、財別)
家計の状況について、都市部の調査失業率は、25年3月以降、低下傾向にあったが、8月は前月に続き上昇した(図表11)。16~24歳(在学中の学生を除く)の失業率は、7月以降、卒業シーズンを迎え、再び高まっている。25年中、前年を上回る水準で推移しており、若年層の雇用環境は依然厳しい状況にある。消費者信頼感指数をみると、雇用・所得の先行きは7月にやや改善したが、依然として楽観・悲観の境目の水準である100を下回る水準で推移している(図表12)。
(図表1)調査失業率/(図表12)消費者信頼感指数
(不動産市場)
不動産市場について、8月の住宅販売床面積の前年同月比伸び率は、マイナス幅が前月から拡大した(図表13)。住宅販売価格(70都市単純平均)の前年同月比は、22年4月以降、41カ月連続でマイナスとなっているが、24年10月を底にマイナス幅の縮小が続いている。

供給側の動向に関して、住宅着工床面積(3カ月後方移動平均)の前年同月比伸び率は、前月から概ね横ばいで推移した(図表14)。住宅竣工床面積(同上)の伸び率は、マイナス幅が拡大した。住宅完成在庫床面積は依然増加しているが、伸び率は7月から8月にかけて小幅ながら低下を続けている。また、不動産開発資金(同上)の伸び率は、依然として前年同月比でマイナスとなっている。24年春先以降、改善傾向にあったが、25年4月以降、マイナス幅が拡大している。
(図表13)住宅販売面積・価格/(図表14)住宅供給関連指標
(財政)
財政の動向をみると、歳出(3カ月後方移動平均)については、一般公共予算の伸び率が6月以降鈍化している(図表15)。他方、政府性基金は、高い伸び率を記録している。歳入(同上)については、一般公共予算の伸び率が低水準にとどまっているのに対して、政府性基金は6月以降上昇している(図表16)。一般公共予算のうち、税収の伸び率は上昇している一方、非税収入の伸び率は6月以降マイナス圏で推移している。
(図表15)歳出/(図表16)歳入

3.物価・金融の動向

3.物価・金融の動向

(物価)
物価の動向について、8月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比(以下同)は、前月から低下しマイナスとなった(図表17)。生鮮野菜や豚肉等でマイナス幅が拡大した一方、食品・エネルギーを除くコアCPIは、前月に続き上昇した。工業生産者出荷価格(PPI)は、22年10月以降、35カ月連続でマイナスとなっており(図表18)、8月は前月からマイナス幅が縮小した。
(図表17)CPI/(図表18)PPI
(金融)
金融の動向について、8月のM2の伸び率は、前月から横ばいで推移した。社会融資総量の伸び率は、前月から鈍化した(図表19)。政府債券とそれ以外ともに伸び率が鈍化した。金融政策に関して、政策金利(リバースレポ・オペ、7日物)は、25年5月に10bpsの利下げが実施されたが、その後は据え置きとなっている(図表20)。それを受け、貸出金利のベンチマークとなるLPRも、1年物、5年物とも、5月に10bps低下した後、9月まで横ばいで推移している。
(図表19)社会融資総量/(図表20)政策金利・LPR

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月24日「Weekly エコノミスト・レター」)

このレポートの関連カテゴリ

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

研究・専門分野
中国経済

経歴
  • 【職歴】
     ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
     ・2009年:同 アジア調査部中国室
     (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
     ・2020年:同 人事部
     ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【中国:25年7~9月期の成長率予測-前期から一段と減速。政策効果の息切れにより内需が悪化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

中国:25年7~9月期の成長率予測-前期から一段と減速。政策効果の息切れにより内需が悪化のレポート Topへ