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2025年04月14日
欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析-
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1―はじめに
欧州大手保険グループの2024年決算数値が、2024年2月下旬から3月中旬にかけてプレスリリースされて、投資家向けのプレゼンテーション資料等の形で公表され、その後4月上旬までにはAnnual Reportも公表されている。今回のレポートでは、2024年決算に関わる各社の決算数値等に基づいて、欧州大手保険グループの(生命)保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告する。
欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続、その後の急激な金利上昇に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制強化・整備への対応、2023年1月に開始する事業年度から適用されることになった新たな保険契約会計基準IFRS第17号への対応等、数多くの課題を抱えている状況にある。さらには、気候変動、パンデミック、DX(デジタルトランスフォーメーション)等といった新たな課題への対応やサステナビリティ経営への取組等も従前以上に求められてきており、加えて、地政学リスクの増大といった、極めて不確実性の高い経営環境下に置かれている。各社ともこうした環境下で、それぞれの戦略に基づいた海外事業展開の拡大・再編等を進め、収益基盤の再構築を図ってきている。
昨年の基礎研レポートでは、欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況について、2023年決算数値等に基づく現状分析を報告した1。
これまでの基礎研レポートでも述べてきたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や保険収益等の収入指標や営業利益2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあり、各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更してきている会社もある。
特に、2023年からは新たな保険契約の国際会計基準であるIFRS第17号が適用になったことから、各社とも2022年決算数値を含めて、新たな会計基準に基づく数値を報告してきている。例えば、これまで各社とも収入の主要な基礎数値として「保険料(Gross Written Premium)」を開示してきたが、これに代わって、主として「保険収益(Insurance Revenue)」に基づいた情報を開示してきている3(ただし、例えば、地域別内訳は引き続き保険料のみで行っている会社もある)。さらには、新たに、将来利益の現在価値に相当する「CSM(Contractual Service Margin:契約上のサービスマージン)」の残高等の情報を提供してきているが、これについてもグループ全体の数値のみで、地域別には開示していない会社も多い。
以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能と思われる数値を作成して分析を行っている。そのため、各社がそれぞれの考え方に基づいて開示している地域別の事業状況等の数値が、このレポートで筆者が独自に採用したベースとは必ずしも一致していないケースもあることを述べておく。
なお、今回のレポートは、あくまでも地域別の事業展開に焦点を当てており、新契約実績や収益状況等の詳細については、別途のレポートで報告する。
1 なお、2024年末のソルベンシーの状況については、筆者による、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-」(2025.4.1)を参照していただきたい。
2 各社のKPI(重要業績評価指標)となっている「営業利益」についても標準的な用語や定義はない。各社によって、Operating Profit、Operating result、Underlying Earnings等と英語の名称が異なるものを、(必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっておらず、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが)以下では、基本的には「営業利益」との表現で使用している。なお、IFRS第17号の適用により、さらに各社によって、営業利益に何を含めるか等の取扱いが異なっている可能性がある。
3 IFRS第17号では、企業が受け取った保険料を受取り時に「保険料」として計上するのではなく、保険契約に基づくカバーその他のサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込まれる対価を反映した金額を「保険収益」として報告する。さらに、保険収益からは、保険契約者の投資要素を除くことが求められている。
欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続、その後の急激な金利上昇に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制強化・整備への対応、2023年1月に開始する事業年度から適用されることになった新たな保険契約会計基準IFRS第17号への対応等、数多くの課題を抱えている状況にある。さらには、気候変動、パンデミック、DX(デジタルトランスフォーメーション)等といった新たな課題への対応やサステナビリティ経営への取組等も従前以上に求められてきており、加えて、地政学リスクの増大といった、極めて不確実性の高い経営環境下に置かれている。各社ともこうした環境下で、それぞれの戦略に基づいた海外事業展開の拡大・再編等を進め、収益基盤の再構築を図ってきている。
昨年の基礎研レポートでは、欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況について、2023年決算数値等に基づく現状分析を報告した1。
これまでの基礎研レポートでも述べてきたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や保険収益等の収入指標や営業利益2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあり、各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更してきている会社もある。
特に、2023年からは新たな保険契約の国際会計基準であるIFRS第17号が適用になったことから、各社とも2022年決算数値を含めて、新たな会計基準に基づく数値を報告してきている。例えば、これまで各社とも収入の主要な基礎数値として「保険料(Gross Written Premium)」を開示してきたが、これに代わって、主として「保険収益(Insurance Revenue)」に基づいた情報を開示してきている3(ただし、例えば、地域別内訳は引き続き保険料のみで行っている会社もある)。さらには、新たに、将来利益の現在価値に相当する「CSM(Contractual Service Margin:契約上のサービスマージン)」の残高等の情報を提供してきているが、これについてもグループ全体の数値のみで、地域別には開示していない会社も多い。
以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能と思われる数値を作成して分析を行っている。そのため、各社がそれぞれの考え方に基づいて開示している地域別の事業状況等の数値が、このレポートで筆者が独自に採用したベースとは必ずしも一致していないケースもあることを述べておく。
なお、今回のレポートは、あくまでも地域別の事業展開に焦点を当てており、新契約実績や収益状況等の詳細については、別途のレポートで報告する。
1 なお、2024年末のソルベンシーの状況については、筆者による、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-」(2025.4.1)を参照していただきたい。
2 各社のKPI(重要業績評価指標)となっている「営業利益」についても標準的な用語や定義はない。各社によって、Operating Profit、Operating result、Underlying Earnings等と英語の名称が異なるものを、(必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっておらず、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが)以下では、基本的には「営業利益」との表現で使用している。なお、IFRS第17号の適用により、さらに各社によって、営業利益に何を含めるか等の取扱いが異なっている可能性がある。
3 IFRS第17号では、企業が受け取った保険料を受取り時に「保険料」として計上するのではなく、保険契約に基づくカバーその他のサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込まれる対価を反映した金額を「保険収益」として報告する。さらに、保険収益からは、保険契約者の投資要素を除くことが求められている。
2―欧州大手保険グループの各社間比較-全体の業績と地域別業績について-
欧州大手保険グループとしては、欧州の主要国を代表する保険グループとして、AXA(フランス)、Allianz(ドイツ)、Generali(イタリア)、Aviva(英国)、Aegon(オランダ)4、Zurich(スイス)の6社を対象にしている。さらには、Prudentialについては、2019年10月に、アジアと米国における保険事業を展開するPrudential plcと欧州における保険事業と投資管理事業を展開するM&G plcに分割され、さらに2021年9月には米国子会社だったJackson Nationalも完全に分離されているが、Prudential は引き続き世界を代表する保険グループとして重要なポジションを有しているので、今回のレポートの対象として加えている(以下、このレポートでは、Prudentialを含めて、欧州大手保険グループと称している)。
これらの7社は、IAIS(保険監督者国際機構)によるIAIG(Internationally Active Insurance Group:国際的に活動する保険グループ)に指定されており、文字通り「国際的に有意なレベルで保険事業活動を展開している保険グループ」となっている5。
なお、このレポートにおける以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
4 AegonのGWS(グループ監督者)は、2023年10月から、BMA(バミューダ金融管理局)となっており、その意味ではバミューダの会社になっているが、本社はオランダのままでオランダの税務居住者でもあることから、ここではオランダの会社としている。
5 Prudential plcのGWS(グループ全体の監督者)は、香港の保険監督当局である。なお、M&G plcもIAIGに指定されており、そのGWSは英国のPRA(健全性規制機構)となっているが、その数値等については、Prudentialの報告において、触れている。
1|会社全体の業績
以下の図表は、欧州大手保険グループの保険収益等(保険収益又は保険料)と営業利益の事業別内訳を示している。これからわかるように、今回報告の対象としている欧州大手保険グループは、生命保険事業と損害保険事業を展開し、さらにいくつかのグループは資産管理事業も大きな位置付けを占めるようになってきている。ただし、グループ全体における生命保険事業と損害保険事業等のウェイトは、会社毎に異なっている。例えばAegonの場合、(図表のN.A.が示すように具体的な数値は公表されていないが)損害保険事業のウェイトは限定されている。
以下の分析では、保険事業(主として、生命保険(医療保険も含む))に焦点を当てて、各社の数値比較等を行っていくこととするが、例えばZurichの「Farmers」については分析の対象に含めていない。また、比較のため、各社が採用している経営指標等の数値に関わらず、営業利益に関しては基本的には「税引き前」ベースに相当する数値を使用している。
これらの7社は、IAIS(保険監督者国際機構)によるIAIG(Internationally Active Insurance Group:国際的に活動する保険グループ)に指定されており、文字通り「国際的に有意なレベルで保険事業活動を展開している保険グループ」となっている5。
なお、このレポートにおける以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
4 AegonのGWS(グループ監督者)は、2023年10月から、BMA(バミューダ金融管理局)となっており、その意味ではバミューダの会社になっているが、本社はオランダのままでオランダの税務居住者でもあることから、ここではオランダの会社としている。
5 Prudential plcのGWS(グループ全体の監督者)は、香港の保険監督当局である。なお、M&G plcもIAIGに指定されており、そのGWSは英国のPRA(健全性規制機構)となっているが、その数値等については、Prudentialの報告において、触れている。
1|会社全体の業績
以下の図表は、欧州大手保険グループの保険収益等(保険収益又は保険料)と営業利益の事業別内訳を示している。これからわかるように、今回報告の対象としている欧州大手保険グループは、生命保険事業と損害保険事業を展開し、さらにいくつかのグループは資産管理事業も大きな位置付けを占めるようになってきている。ただし、グループ全体における生命保険事業と損害保険事業等のウェイトは、会社毎に異なっている。例えばAegonの場合、(図表のN.A.が示すように具体的な数値は公表されていないが)損害保険事業のウェイトは限定されている。
以下の分析では、保険事業(主として、生命保険(医療保険も含む))に焦点を当てて、各社の数値比較等を行っていくこととするが、例えばZurichの「Farmers」については分析の対象に含めていない。また、比較のため、各社が採用している経営指標等の数値に関わらず、営業利益に関しては基本的には「税引き前」ベースに相当する数値を使用している。
ROEについて、Generali以外の各社がグループ全体の数値を開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、AllianzとAvivaが生命保険事業の数値も公表している。
これによれば、2024年の各社のグループ全体のROEは13%以上となっている。2023年との比較では、Aviva及びAegonの上半期(スラッシュ数値の左側)が低下しているが、その他の各社は水準が上昇している。
これによれば、2024年の各社のグループ全体のROEは13%以上となっている。2023年との比較では、Aviva及びAegonの上半期(スラッシュ数値の左側)が低下しているが、その他の各社は水準が上昇している。
(2025年04月14日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/25 | 欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/01 | 欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/03/18 | EUがIRRD(保険再建・破綻処理指令)を最終化-業界団体は負担の軽減とルールの明確化等を要求- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
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【欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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