2023年09月04日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(1)-BaFinの2022年Annual Reportよりスポットライト等からの抜粋報告-

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3―監督実務の主要分野

ここでは、BaFinが2022年のAnnual Reportの「Ⅰ.2.監督業務の主要分野」に掲げている項目のうちの「3.ガイダンス通知:生命保険における顧客利益」について、Annual Report から抜粋して報告する。

生命保険の貯蓄性商品は、顧客に適切な金銭的価値を提供するものであり、その販売における利益相反を回避する必要がある。これらの目的を確保するため、BaFinは2022年10月末に「貯蓄性商品に係る業務監督の実施態様に関するガイダンス通知」に関する協議プロセスを開始した。

Frank Grund博士は、「生命保険の貯蓄性商品は、多くの場合、保険契約が一定期間維持されなければ、顧客にとって経済的に意味をなさない。」、「このため、保険会社が商品開発プロセスにおいて消費者保護要件を極めて真剣に受け止めることがさらに重要である。」、「これは、特に商品の金銭的価値や顧客に提供する利益に適用される。」と述べている。

Frank Grund博士は、不適切に高いコストは金銭的価値を低下させると強調し、請求可能なコストの大きさを規制する法的規制がないのは事実だと述べた。行動の法的規則は、生命保険会社に、商品の承認プロセスの一環として商品を設計する際に、適切な価格性能比(price-performance ratio)を達成することに注意を払うことを要求している。

Frank Grund博士は、もう一つの重要な点として、「高い販売報酬は、販売時点での不適切なインセンティブにもつながる可能性がある。言い換えれば、保険契約者への自由な情報やアドバイスの提供と矛盾する可能性がある。」と述べた。

協議文書案は、主に商品の監督承認プロセスに焦点を当てている。その目的は、保険会社がその商品が意図された金銭価値を提供することを保証し、そのために法律で要求されるプロセスを確立することにある。保険会社は、商品テスト中にこれを満たしていることを確認しなければならない。

協議文書案に示された販売報酬要件は、不適切なインセンティブを回避するように設計されている。

BaFinは草案の中で、リスクベースの監督アプローチについても説明している。この考え方に沿って、BaFinは貯蓄性商品の利回り低下が特に大きい保険会社を詳細に調査する。また、保険仲介費用が異常に高い保険会社を詳細に調査する。ここでの主な焦点は、新契約獲得手数料の高さにある。

なお、BaFinは、この協議文書に対する意見を踏まえて、2023年5月8日(英語版は6月14日)に、最終的な「貯蓄性商品に係る業務監督の実施態様に関するガイダンス通知」を発行している8

4―BaFinの戦略、方針、管理

4―BaFinの戦略、方針、管理

ここでは、BaFinが2022年のAnnual Reportの「II.戦略、方針、管理」に掲げている項目のうちの「3.サステナブルファイナンス」、「4. BaFinの国際的役割」について、主として生命保険に関係する内容を中心に、Annual Report から抜粋して報告する。
1|サステナブルファイナンス
サステナビリティとサステナブルファイナンスは、BaFinの10年間の中期目標の1つで、サステナブルファイナンスは、ドイツ国内外で深く議論されている分野横断的なトピックである。BaFinは、2021年末にサステナブルファイナンスセンター(Zentrum Sustainable Finance:ZSF)を設立している。ZSFは、BaFin内の包括的なレベルで戦略的な問題を調整し、各セクターと協力して、金融セクターにおける持続可能性に関するBaFinの立場を発展させている。

ZSFは、BaFinの中央イベント管理部門とともに、2022年9月に「サステナブルファイナンス-新しいEU基準、リスク管理、監督慣行」と題する第2回目のサステナブルファイナンス会議を開催した。約1,000人の参加者は、この機会を利用して、EUの持続可能な財務情報開示規則や企業のリスク管理システムにおけるサステナビリティリスクへの対応などのトピックに関する情報を入手した。

BaFinは、各種の規制イニシアティブへの参加を通じて、それらの検討に貢献している。
2|BaFinの国際的役割
BaFinは、各国の監督当局と緊密に連携している。この協力の正式な基盤は、一般的に、BaFinとパートナー機関との間の二国間及び多国間の覚書(MoU)で構成されている。

EU内では、国境を越えた協力は主に欧州の監督機関の傘下で行われる。BaFinはまた、世界的な基準設定機関にも参加している。
(1) IMFによるFSAP
2021年と2022年に行われたIMF(国際通貨基金)によるFSAP(金融セクター評価プログラム)の評価において、多くの勧告を受けた。勧告は多くの監督分野に関連しているが、例えば、「銀行は気候リスクの評価、融資基準のモニタリング、不動産分野におけるデータ収集のための分析能力を拡大すべきである。」、「保険に関しては、流動性管理報告義務を強化し、立入検査の頻度を見直すべきである。」というものだった。

BaFinは、一般的にIMFの勧告を実施しており、これは、関与する責任分野に応じて、単独で実施されるか、又は他の責任主体と協力して実施される。

(2) EIOPA
2022年、EIOPA(欧州保険年金監督局)は、インフレ9、保険商品の除外10、非肯定的なサイバーエクスポージャー11及びランオフ事業の監督12に関する監督声明を発表した。また、契約境界に関するガイドライン13と技術的準備金の評価に関するガイドライン14も改訂した。さらに、EIOPA は欧州委員会からの助言要請に応じるため、グリーンウォッシングに関する情報を収集した。加えて、サステナビリティリスクの健全な取扱いに関するディスカッションペーパー15を発表し、コメント期間は2023年3月5日に終了している。
 
9 https://www.eiopa.europa.eu/publications/supervisory-statement-inflation_en?source=search
10 https://www.eiopa.europa.eu/publications/supervisory-statement-exclusions-insurance-products-related-risks-arising-systemic-events_en
11 https://www.eiopa.europa.eu/publications/supervisory-statement-management-non-affirmative-cyber-exposures_en
 非肯定的サイバーとは、従来の損害賠償保険契約を引き起こす可能性のある、サイバー危険に起因する未知または定量化されていないエクスポージャーを指している。
12 https://www.eiopa.europa.eu/publications/supervisory-statement-supervision-run-undertakings_en
13 https://www.eiopa.europa.eu/publications/revised-guidelines-contract-boundaries_en
14 https://www.eiopa.europa.eu/publications/revised-guidelines-valuation-technical-provisions_en
15 https://www.eiopa.europa.eu/consultations/discussion-paper-prudential-treatment-sustainability-risks_en
(3) IAIS
2022年、IAIS(保険監督者国際機構)は、保険セクターにおけるシステミックリスクのためのIAISの包括的枠組みがどのように実施されたかを評価した。BaFinは、ベースライン評価と目標を絞った評価を正常に通過した10の監督機関16の一つであった。IAISは、FSB(金融安定理事会)が保険セクターにおけるシステミックリスクの監視ツールとして同枠組みを承認するよう勧告した。

ICS(保険資本基準)のモニタリング期間の第3ラウンドが開催された。また、気候変動は2022年もIAISの主要なトピックであり、例えば、気候変動に関連するリスクを評価し、サステナビリティキャパシティを拡大した。
 
16 カナダ、中国、香港、フランス、ドイツ、日本、オランダ、スイス、英国、米国の監督機関が該当している。
(4) FSB
2022年、FSBは、特にノンバンク金融仲介業者(NBFI)の規制、デジタルイノベーション、気候変動から生じる金融リスク、中央カウンターパーティー(CCP)のレジリエンスと破綻処理可能性の向上に焦点を当てた。FSBはBaFinの提案に従い、2022年に新たな作業部会を設置することを決定した。その主な任務は、FSBの勧告に従って過去数年間に加盟国の管轄区域で実施された個々の改革の効率性をレビューすることにある。

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回は、BaFinの2022年のAnnual Report 等に基づいて、ドイツの生命保険業界の監督に関する、低金利からのトレンド転換、サイバーリスク、デジタル化、消費者保護、サステナブルファイナンス、といったトピック及びそれらのトピックに関連する最近の状況について報告してきた。

Annual Reportについては、過去の結果報告が中心になっている部分が多いが、ドイツの生命保険業界が抱えている各種の重要課題に対する、監督当局であるBaFinのスタンスや考え方、具体的な取組あるいは今後の方針等を窺い知るための有用な情報を提供している。

次回のレポートでは、Annual Reportの「IV.保険会社及び年金基金の監督」に基づいて、ドイツの生命保険会社の監督及び業績等の状況について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年09月04日「保険・年金フォーカス」)

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