2023年05月09日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2022年決算数値等に基づく現状分析-

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4|Aviva
2019年3月にAvivaのグループCEOに就任したMaurice Tulloch氏は、複雑な事業体構成を見直し、より強い説明責任と経営の焦点を絞る図る観点から、英国の生命保険と損害保険事業を分割し、アジア事業の戦略的選択肢を検討していくと述べていた。また、これにより最大20億ドルの価値のある取引でアジア事業を売却すると想定していた。その後、2020年7月にAmanda Blanc 氏がCEOに就任し、この戦略を引き継いだ形になっている。

Avivaは、以前は世界の十数カ国で事業展開し、英国、フランス、ポーランド、アイルランド、イタリア、カナダ、シンガポール、Aviva Investorsを8つの主要市場(Major markets)として位置付けていた。ただし、現在はポートフォリオを簡素化するための戦略として、英国、アイルランド、カナダの事業等のグループのコア市場(Core Markets)に焦点を置く「持続可能で耐性力のある」方針を推進している。この戦略に従って、2020年には、セグメントの管理を「英国&アイルランド(生命保険)」、「損害保険(英国&アイルランド&カナダ)」、「Aviva Investors」及び「Manage-for-value」に区分し、英国、アイルランド、カナダ以外の事業は「Manage-for-value」で管理され、戦略的な目標を満たさない場合には撤退する方針を掲げていた。この考え方に従って、Avivaは、2020年に、アジアのシンガポールのマジョリティ、インドネシアや香港のジョイントベンチャー、ベトナム事業等の売却を完了し、さらに、2021年には、フランス、イタリア、ポーランド及びリトアニアの事業の売却を完了している。

(1)地域別の業績-2022年の結果-
英国での生命及び貯蓄市場のシェアは25%(ABIの2021年9月末までの12か月ベース統計による)で、英国で最大の保険会社となっている。また、アイルランドの生命保険市場では第4位となっている。また、英国とアイルランドの損害保険市場におけるリーディング保険会社で、英国では第1位、アイルランドでは第3位となっている。さらに、カナダの損害保険市場では8%のシェア(2020 MSA Research Results)で第3位となっている。

事業の売却を推進してきた結果、Avivaの保険料、営業利益の8割程度は欧州からのものとなっている。欧州では、英国&アイルランド(生保&医療)が保険料では55%だが、営業利益では63%を占めている。それ以外では英国&アイルランド(損保)とカナダがそれぞれ2割弱となっている。なお、営業利益(生保&医療)の殆どが英国&アイルランドからである。
保険事業の地域別内訳(2022年)
(2)地域別の業績-2021年との比較-
Avivaは2020年、2021年に多くの事業を売却していたが、AvivaグループCEOのAmanda Blanc氏は、2022年3月に、過去20カ月間で、合計75億ポンドで8つの事業の売却を完了させたと述べており、2022年は比較的落ち着いた動きとなっていた。

営業利益は2021年の全体数値との比較では2%減少したが、2021年に含まれている非継続事業の影響を除いた、継続事業ベースでの営業利益では35%増加して、22億 1,300 万ポンド(2021年:16億400 万ポンド)となった。英国、アイルランド、カナダ、Aviva Investorsの営業利益が21%増の27億400万ポンド(2021年:22 億3,100 万ポンド)となった。英国&アイルランドの生命保険事業とカナダの事業が堅調に推移したが、英国&アイルランドの損害保険事業及びAviva Investorsの営業利益の減少により一部相殺された。

英国&アイルランド(生命&医療)の営業利益は 34% 増の19 億800 万ポンド(2021 年:14 億 2,800 万ポンド)で、これは主に、年金&エクイティリリースの業績の改善、長寿の仮定の変更、Ireland Life の業績の改善による。ただし、2022年の市場変動が手数料収入に与える影響を反映して、市場の動きに起因する繰延新契約費の帳簿価額の減少、及びウェルス部門の営業利益の減少による不利な影響によって部分的に相殺された。

英国&アイルラン(損保)の営業利益は5%減の3億3,800万ポンド(2021 年:3 億 5,600 万ポンド)で、英国では、2021 年と比較して通常の請求頻度に戻り、天候によるコストが増加したが、インフレの上昇も見られた。これらの要因の影響は、投資収益の増加によって部分的に相殺された。企業保険は、収益性の高い新契約の成長と強力なレートモメンタムを通じて市場シェアを拡大し続けており、個人保険は価格設定の規律を維持し続けている。

カナダでは、営業利益が6%増加して4億3,300 万ポンド(2021年:4億600万ポンド)になった。為替一定ベースでは、引受結果の減少が投資収益の増加によって相殺されたため、営業利益は前年度とほぼ同水準だった。引当金の推移、手数料の低下、天候関連の異常災害による損失の減少、および価格設定、補償管理及びリスク選択に関する継続的な取り組みの影響は、行動の変化に起因する請求頻度の増加やインフレの影響を含む請求金額の上昇によって相殺された。

Aviva Investorsの営業利益は2,500万ポンド(2021年:4,100 万ポンド)、または(コスト削減の実施、戦略的投資コスト、および外国為替の動きを除くと)4,800万ポンド(2021年:5,800 万ポンド) に減少した。これらは、Bank of New York Mellonへの業務の移行や、Mount Streetへのローンサービスのアウトソーシングに成功した新しい拡張性のある実物資産運用モデルを含む、コスト削減イニシアチブの影響が反映された結果である。

国際投資の営業利益は、主に 1 回限りの不動産費用の結果として、5,200万ポンド(2021年:9,700 万ポンド)に減少した。

なお、新契約価値は、非継続事業の影響があり、21%と大きく減少した。ただし、英国&アイルランド(生保&医療)の新契約価値は15%増加した。
保険事業の地域別内訳(2021年から2022年に向けての増加額と進展率)
(参考)地域別ROEの状況
Avivaは、地域別のROEを開示している。全体では16.4%で、2021年の11.3%からは5.1%ポイント増加した。
保険事業のSolvency IIROE(資本収益率)の地域別状況
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Avivaは、2022年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

2022年3月2日に、急成長している英国のウェルスマーケットにおけるAvivaの地位を大幅に強化するために、3億8500万ポンドの対価でSuccession Wealthを買収することを発表した。この会社は、約19,000の顧客と、95億ポンドの資産にアドバイスしており、この契約により、約400万人の職域年金の顧客にアドバイスを提供できるようになると語った。なお、8月11日に、Succession Wealthの買収が完了したことを発表している。

2022年8月2日に、英国とアイルランドにおける富裕層の個人向け事業を買収するために、スペシャリストのマネージングゼネラルエージェントであるAzur Underwriting Ltdと拘束力のある契約を結んだと発表した。

2022年9月28日に、Dabur Invest Corp. からインドの合弁会社である Aviva Life Insurance Company India Limited (ALICIL) の25%の株式を取得し、株式取得後のAviva の株式保有は ALICIL の74%に増加したと発表した。
 
5|Aegon
Aegonは、現在、自国のオランダや英国を中心とする欧州と、米国、ブラジルを中心とする米州が2大地域となっている。

Aegonは、以前は世界の20カ国以上で事業展開してきたが、例えば2010年から2017年までに4カ国の保険事業から撤退し、さらに、2018年にはAegon Ireland の売却、米国の生命保険再保険事業の最後のブロックの売却、チェコとスロバキアの事業売却(2019 年 1 月 8 日に完了)を行ってきた。2019年には日本における変額年金ジョイントベンチャーの 50%持分をそのパートナーであるSony Lifeに売却(2020 年 1 月 29 日に完了)した。さらに、2020年には、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコでの保険・年金・資産管理事業の売却を発表して、2022年には売却を完了する予定としている(このうち、ハンガリーは2022年3月に完了済)。

このように、Aegonは、主導的なポジションを得ることができる市場に焦点を当てるという観点から、積極的な対応を進めてきており、現在は、3つのコア市場(米国、英国、オランダ)、3つの成長市場(スペインとポルトガル、ブラジル、中国)とグローバルなアセットマネージャーとしての事業に戦略的な焦点を当てて、投資、保障及び退職ソリューションを提供してきている。

(1)地域別の業績-2022年の結果-
営業利益では、自国のオランダの構成比が41%(2021年は40%)、英国が11%(10%)、南欧・中東欧等を含む「国際」が9%(8%)であるのに対して、米国及び中南米からなる米州の構成比が41%(41%)で他の欧州保険グループに比較して高くなっている。

Transamericaのブランドを中心とする米国子会社のAegon USA Groupは、2022年末の認容資産で、米国の生命保険・健康保険グループで第15位(2021年末は第13位)となっている。

なお、損害保険事業は、欧州で展開しているが、その全体における位置付けは高くない。
保険事業の地域別内訳(2022年)/うち 欧州の主要国別内訳
(2)地域別の業績-2021年との比較-
保険料は、2021年との比較で、全体で4%減少した。地域毎に見た場合、オランダや英国等の欧州で、主としてAegon HungaryとAegon TurkeyをVienna Insurance Group AG Wiener Versicherung Gruppe (VIG)に売却したことのより、減少したものの、米州では7%増加した。

営業利益は、2021 年に比べて1%増加の19.18億ユーロだった。これは、経費節減、成長イニシアチブによる利益、請求経験の改善及び米ドル高によるが、一部、米国の変額年金及び資産運用における不利な市場動向及び資金流出による手数料の減少によって相殺された。地域別には以下の通り。

・オランダでは、銀行及びWorkplace Solutions(職域貯蓄)の結果が、金利の上昇、事業の成長、損害保険準備金のリリースに支えられて増加したことから、4% 増加して、7億8,300万ユーロとなった。なお、住宅ローンからの投資収益の減少を反映して、生命保険及びモーゲージの結果は減少した。

・英国では、12% 増加して2億600万ユーロになった。この増加は主に、対応可能な費用の減少による営業費用の減少によるもので、一般勘定の純投資収益の増加が、従来の商品ポートフォリオの段階的な縮小による収益の損失による影響で相殺される以上に大きかったことによる。

・国際では、17% 増加して1億6,700万ユーロになった。この増加は、請求経験の改善、事業の成長及びブラジル事業における Aegonの経済的所有権の増加を反映している。これらの項目は、Transamerica との再保険契約の結果として、2021年に比べてTLB(Transamerica Life Bermuda)の営業成績が減少したことによって一部相殺された。

・米州では、2021 年と比較して安定しており、7億9,000万ユーロだった。米ドル高、生命保険における死亡保険金請求実績の改善及び業務改善計画の結果としての費用の減少が、この結果に貢献したが、不利な市場と予想される資金流出により手数料収入がマイナスの影響を受けた変額年金の業績が低下したことで相殺された。さらに、ミューチュアルファンド及びリタイアメントプランでの手数料収入の減少と傷害及び健康保険での罹患率の増加によって相殺された。

・その他の中の、資産管理は24%減少して1億6,700万ユーロとなった。この減少は主に、戦略的パートナーシップにおける業績連動報酬を差し引いた業績報酬の減少によるものである。

新契約価値については、2%減少した。
保険事業の地域別内訳(2021年から2022年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2021年から2022年に向けての増加額と進展率)
(参考)地域別のROC
なお、Aegonは、地域別のROCを開示しているが、その状況は以下の図表の通りとなっている。
保険事業のROC(Return on Capital)の状況
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Aegonは、2022年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

2022年2月16日に、VIG(Vienna Insurance Group AG Wiener Versicherung Gruppe)がCorvinus Nemzetközi Befektetési Zrtを保有するハンガリー国との間で合意に達したと発表した。これによると、「ハンガリーのVIG会社は、ハンガリーのVIG持株会社(VIG Magyarorszag Befektetesi Zrt)と2つのオランダの持株会社(Aegon Hungary Holding BVとAegon Hungary Holding II BV)によって保有される。Corvinusは、これら3つの持株会社のそれぞれで45%の非支配少数株主持分を取得する。これらの持株会社への3つの45%の参加について合意された購入価格は、約3億5,000万ユーロになる。UNION Vienna Insurance Group Biztosito Zrtの株式の98.64%は、ハンガリーのVIGに提供される。オランダのAegon持株会社2社は、ハンガリーのAegon(保険、資産運用、年金基金、サービス会社)の株式を100%保有している。VIGは、これら3つの持株会社の55%の支配的過半数持分を保持する。」ことになる。次のステップでは、3つの持株会社を統合し、ハンガリーのVIG持株会社を中央ステアリングユニットとして指定する予定であると述べた。

2022年3月23日に、ハンガリー事業のウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)への売却を完了したことを発表した。取引の総収入は6億2000万ユーロにのぼる。この完了は、2020年11月に発表されたように、中・東欧でのAegonの保険、年金及び資産管理事業のVIGへの売却を8億3,000万ユーロで完全に完了するための重要なステップとなる。ポーランド、ルーマニア、トルコでのAegonの事業の売却は、必要な現地の規制当局の承認を条件として、2022年中に完了する予定であるとした。

Aegonのハンガリー事業の売却後、AegonのIFRS資本は2022年の第1四半期に約4億ユーロ増加し、そのうち約3億7500万ユーロが12月31日の貸借対照表のポジションに基づいて帳簿上の利益として認識される。Aegonのハンガリー事業の売却の完了、債務の返済及び株式の買戻しの組み合わせは、グループのソルベンシーII比率に重大な影響を与えることはない、としている。

2022年5月23日に、Liberbank とのスペインの保険合弁会社の50%の株式を Unicaja Bancoに売却することを決定したと発表した。この売却は、2021年のUnicaja Bancoとの合併後のLiberbankの支配権の変更に続くものであり、取引総額は1億7,700万ユーロに達する。これについては、2022年10月14日に、Liberbank とのスペインの保険合弁会社の50%の株式のUnicaja Bancoへの売却が成功裏に完了したと発表した。

2022年10月27日に、Aegonのオランダ事業と a.s.r. (オランダの保険グループ)を統合する合意がなされたと発表した。また、この合意内容は、2023年1月17日に、臨時株主総会で承認されたと発表した。これにより、オランダの年金、生命保険、損害保険市場のリーダーが誕生すると述べた。

2023年4月4日に、英国の個人保障ブックをRoyal Londonに売却することを発表した。この取引は、選択した市場で主要なビジネスを創出するための一環として、英国の中核となるリテール及びワークプレイスプラットフォーム活動に集中するというAegonの戦略に基づいている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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