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ふるさと納税の資金の流れ-ふるさと納税再考の余地はどこにあるのか?
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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3――ふるさと納税制度による個別地方団体への影響
地方団体の財政需要額を100%とした場合に、ふるさと納税制度による地方団体の余裕資金合計額の変化が何%に相当するのか(影響度)を計算し、これをふるさと納税制度による個別の地方団体への影響度とする。各地方団体の財政需要額は、地方交付税額算出の基礎となる基準財政需要額で代替する。基準財政需要額は、地方団体の自然的、地理的、社会的諸条件を基に算出した財政需要相当額であり、個々具体的な財政支出の実態を勘案していないので、必ずしも実態を把握しているとは限らないが、合理的な基準に基づいて算出されている。ふるさと納税による資金流出入前後の余裕資金の推定手順を以下に記す。
まず、ふるさと納税による資金流出入後の余裕資金合計額は、ふるさと納税の実質流入額(寄付受入額からふるさと納税にかかる費用を控除した金額)と地方交付税額算出の基礎となる基準財政需要額と基準財政収入額を用いて推計する(図表3)。原則として、基準財政収入額が基準財政需要額に満たない分だけ交付税として補われ、また、ふるさと納税による寄付受入額は基準財政収入額には影響しないルールである。このため、ふるさと納税の実質流入額は、余裕資金と考えられる。また、一部例外もあるが、基準財政収入額は実際の収入額(ふるさと納税による寄付受入額を除く)の75%である。このため実際の収入額の25%(基準財政収入額の1/3相当。以下、留保額)も余裕資金と考えられる。更に、基準財政収入額が基準財政需要額を上回る地方団体の場合は、基準財政需要額に対する基準財政収入額の超過額も余裕資金と考えられる。
以上より、基準財政収入額が基準財政需要額を下回る場合は、ふるさと納税の流入額と留保額の合計、基準財政収入額が基準財政需要額を上回る場合は、ふるさと納税の流入額、留保額と超過額の合計をふるさと納税による資金流出入後の余裕資金合計額とする。
次に、ふるさと納税による資金流出入前の余裕資金合計額は、ふるさと納税による減収額と基準財政需要額と基準財政収入額を用いて推計する。
基準財政収入額は実際の収入額の75%なので、実際の収入額は基準財政収入額の4/3倍と考えられる。ふるさと納税制度がなかった場合、実際の収入額よりもふるさと納税による減税額分だけ収入額が多かったはずである。このため、収入額は基準財政収入額の4/3倍とふるさと納税による減税額分の合計額であったと考えられ、仮想的な基準財政収入額はその75%相当と考えられる。
ふるさと納税による資金流出入前の余裕資金合計額は、仮想的な基準財政収入額と基準財政需要額を基準に、図表3と同様の考え方で算出する。仮想的な基準財政収入額が基準財政需要額を下回る場合は、仮想的な基準財政収入額の1/3(留保額)、仮想的な基準財政収入額が基準財政需要額を上回る場合は、留保額と超過額の合計をふるさと納税による資金流出入前の余裕資金合計額とする。
そこで、本源的財政余力と影響度の関係を確認した結果を図表6に示す。確かに、本源的財政余力が上位の地方団体は影響度が下位に位置する傾向がある。本源的財政余力が上位25%で、影響度が下位25%の地方団体の割合は14.32%で、単純な期待水準6.25%(25%×25%)よりはるかに高い。しかし、本源的財政余力が下位25%で、影響度が上位25%の地方団体数の割合は6.38%であまり高くない。むしろ、本源的財政余力が下位25%の地方団体は、影響度が中位に留まる割合が高く、本源的財政余力が下位25-50%の地方団体の方が、影響度が上位25%の割合が高い。また、仮想的な基準財政収入額が基準財政需要額を上回り、普通交付税が交付されないほど本源的財政余力が高くても、影響度が上位5%の地方団体がある一方、本源的財政余力が下位25%でも、影響度がマイナスの地方団体もある。このように、本源的財政余力が高い都市部の地方団体から資金が流出する傾向はあるが、必ずしも本源的財政余力が低い地方団体に資金が集まる傾向はないと言える。つまり、ふるさと納税をするインセンティブが高い比較的裕福な人が住む財政余力の高い都市部から資金が流出する傾向はあるものの、財政余力がないだけでは、地方団体にふるさと納税は集まっていないことを示している。
5 東京23区の基準財政収入額並びに基準財政需要額は、東京都「令和4年度都区財政調整区別算定結果(当初算定)」の値を利用している。
4――まとめ
しかし、返礼品は、税収減や寄付者の姿勢に対する悪影響をもたらす、実質的に高額納税者を優遇する制度にしてしまうなどマイナスの効果に注目されがちである一方で、地方創生や地域活性化に資する重要な財源になっており、特産品のPR機能が高いなどプラスの効果もある。良いか悪いかの二択ではなく、プラスの効果をより高め、マイナスの影響を緩和することで、ふるさと納税をより良い制度にしていくことが重要なのではないだろうか。そのためにも、現状を多面的かつ客観的に評価する地道な取り組みが望まれる。
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(2022年08月15日「基礎研レポート」)
03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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