2022年03月01日

厚生年金の適用拡大で45万人が追加加入するが 適用徹底が課題~年金改革ウォッチ 2022年3月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会は、令和4年度計画の案について、1月に議論された点の修正案などを議論した。
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
2月14日(第60回) 日本年金機構の令和4年度計画の策定、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo60_00001.html (資料)

2 ―― ポイント解説:厚生年金の適用徹底

2 ―― ポイント解説:厚生年金の適用徹底

年金事業管理部会では、昨年12月には2021年度の取組状況が、今年1~2月には2022年度の計画案が議論された。本稿では厚生年金の適用徹底について、2022年10月に施行予定の厚生年金の適用拡大等を踏まえながら、取組状況や今後の課題を確認する。
図表1 厚生年金の加入対象となる事業所 1|制度と改正の概要:パートの拡大に加え試用期間も対象に
厚生年金の加入(適用)対象となるか否かは、個人の就労状況(労働時間等)に加えて職場(事業所)の形態等も影響する。現行は、正社員*1の場合は、法人の事業所は業種や規模に関係なく強制加入の対象となる。個人事業所は、法定された16業種かつ従業員が5人以上の場合に強制加入の対象となり、それ以外の場合は従業員の半数以上の同意を得れば任意加入できる。パート(短時間)労働者*2の場合は、前述した要件に加えて企業規模(会社全体の正社員数*3)も要件となる。
2022年10月施行の改正では、パート労働者の企業規模要件の緩和(小規模への拡大)等に加え、個人事業所の対象業種が約70年ぶりに追加される。さらに、パート労働者以外も含めて、雇用契約後2か月以内の試用期間等も対象となる。
 
*1 厳密には、週所定労働時間および月所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の常時使用される者(正社員以外も含む)。
*2 厳密には、前述の*2に該当しない者のうち、週所定労働時間が20時間以上や月額賃金が8.8万円以上等に該当する者。
*3 厳密には、パート(短時間)労働者ではない通常の厚生年金加入者(つまり前述の*2の該当者)の数。
2|適用徹底の状況:国税庁など関係機関と連携して推進
制度改正で対象が拡大しても、実際に加入しなければ給付を受けられない。厚生年金の加入は原則として事業主が自主的に届け出るため、適用が漏れる事業所や従業員が発生しうる。これを減らす取り組みが、厚生年金の適用徹底である。
図表2 2020年改正の概要(厚生年金適用関連)/図表3 年金機構の指導で加入した事業所数/図表4 年金機構の指導で加入した人数/図表5 年金機構の加入促進取り組み計画 近年の適用徹底は、関係機関と連携して行われている。その1つは、関係機関が持っている事業所の情報と厚生年金に加入している事業所の情報との照合である。2002年度から雇用保険、2012年度から法人登記簿、2014年度からは国税庁の源泉徴収の情報と照合され、適用徹底が進んでいる。2020年度からは、事業者の経営状況や感染対策に配慮しつつ、郵送調査等による適用推進も行われている。

もう1つは、国土交通省による取り組みである。運輸業者や建設業者の届出などの際に厚生年金を含む社会保険の加入状況を確認するほか、社会保険に加入していない建設作業員の現場入場を認めないガイドラインの制定や、その徹底に取り組んでいる*4。これを受けて、社会保険に未加入の建設業者を入札に参加させない自治体もある。

3|今後の課題:小規模事業所への徹底や脱法行為への対策
上記の取り組みにより厚生年金の適用徹底は進み、従業員5人以上の法人事業所を中心に、加入指導等の対象となる事業所は減少した。今後は、従業員5人未満の法人事業所や個人事業所への加入徹底策も検討する必要がある。

また、適用拡大に伴い、雇用契約から請負契約への切替や、勤務事業所を複数にして事業所ごとの労働時間を週20時間未満に抑える等の脱法行為への対策も、重要となる懸念がある。国土交通省では前述の取組の一環で一人親方問題に関する検討会を開催し、偽装請負への対策も検討している。

新型コロナ禍では、中小企業などの経営基盤の脆弱さや、非正規労働者の不安定さが浮き彫りとなっている。他方で、建設業で見られるように人材確保のために社会保険適用などの処遇改善を進める動きもある。当面の課題はあるが、適用拡大の施行が実態を伴う形で進むよう、適用徹底の取り組みや長期的な観点からの社会的機運*5の醸成に期待したい。
 
*5 人材確保のためという企業側の機運に加え、この改正は年金制度の財政改善策ではなく拡大対象となる個人のため(特に非正規就労が多い就職氷河期世代が老後に低年金となる問題を改善するため)であることが、広く認知されることを期待したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2022年03月01日「保険・年金フォーカス」)

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